リニアと太陽電池の不思議な関係:小寺信良のEnergy Future(8)(3/4 ページ)
東京と大阪を結ぶリニアモータカーの姿が見えてきた。一方、時速517kmを達成した宮崎県のリニア実験線は既に廃線となっており、実験には使われていない。ここに太陽光発電所を建設し、新しい形によみがえらせようというプロジェクトが完成した。
運用してみないと分からないノウハウのカタマリ
都農第一発電所と都農第二発電所では、架台の設置方法が違っている。都農第一発電所では、リニア実験時代のコイル固定用ボルト穴を流用して太陽電池モジュールを固定していた(図10)。壁の中に多くの鉄筋が入っており、新たに穴を空けると効率が悪いと判断したためだ。
しかし問題もあった。ボルト穴を使うと、モジュールの最低位置がほとんど壁の高さと同じになってしまうため、人が下をくぐるときにいちいちかがまなくてはならないのだ。普段は無人運転だが、何か問題が発生したときには、人手でメンテナンスする必要がある。都農第一発電所は長さが260mなので、何かあっても頑張って腰をかがめて通っていくこともできるが、都農第二発電所の3.6km全域を腰をかがめて通るのは大変過ぎる。
そこで都農第二発電所では固定方法を変えた。壁を挟むように架台の足先を設計し、モジュール全体の高さを上げた(図11)。身長170cmの筆者が下を通ってもまず平気なので、恐らく最下部でも路面から175〜180cm程度はあるだろう(図12)。メンテナンス用の自転車も置いてあった。確かに全域を徒歩で見回るのは厳しそうだ。
架台本体にも、現地に合わせたカスタマイズ部分が多い。まず設置場所が海岸線にほど近いため、塩害対策が必要だ。そのため、さびにくい表面処理を施した鋼板を使っている。
また宮崎という土地柄、台風対策も重要になる。これに関しては、モジュールの設置角度を10度に抑えることで対応した(図13)。以前取材した館林ソーラーパークでは、設置角は20度であった。緯度が低くなるとそれに合わせてモジュールを寝かせる必要があると聞いたが、いくら宮崎が南国とはいっても「それほど違うものかな」と思ったものだ。実際には台風対策であった。さらにモジュールを南向きに1列に並べるという極めて特殊な設置方法を採ったことで、設置角が小さい方が影ができにくく、架台の間隔を狭めることができるというメリットも生まれたという。
たまたま取材に訪れた10月16日は、2011年3月の操業開始以来初めて送電が止まるというトラブルが発生していた。原因は前日の夜にこの付近一帯で、電力供給側の停電があったからである。停電が発生すると、復旧作業時に誤って作業者が感電しないよう、太陽光発電所の給電側のラインが強制的に切断されてしまうのだ。
復旧はある程度まで自動だが、一部分だけはどうしても手動で進めなければならないため、技術者が変電所に着くまで送電は止まったままだった(図14)。当日の10時過ぎには全て復旧したが、発電は日の出とともに始まっており、このようなトラブルがあるとせっかく発電した電力が無駄になってしまう。損益分岐点のことを考えると、まさにお金が「チャリンチャリン」とこぼれていく感覚である。
このように発電所の設備はよく考えて設計されている。事故の復旧のノウハウもたまったはずだ。だが、もう1つ忘れてはならない対策がある。生き物との「闘い」だ。
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