家電になった!? EVから学ぶ材料選定:甚さんの「技術者は材料選択から勝負に出ろ!」(5)(1/3 ページ)
EVの部品点数の割合が家電品とほぼ同じに! EVが盛りあがってくる今後、どの材料から先に極めたらいいのか。
当連載の登場人物
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生のイマドキな若者。機構設計者。通称、良君
筆者の事務所では、「2011年から、第3次産業革命が始まる!」と、クライアントさんたちに警告しています。早急な企業変革の取り組みが必須であり、乗り遅れは敗者となるでしょう。逆に、安定業界への侵食、つまり、新規参入が可能です。
- 第1次産業革命のキーワードは、石炭、蒸気機関車です
- 第2次産業革命のキーワードは、石油、内燃機関、自動車です
- 第3次産業革命のキーワードは、バッテリー、EV(電気自動車)です
産業革命とは、常に、「エネルギー」とそれを利用した「動力機関」で革命が起きています。コンピュータでもなければ、モバイルでもありません。そして、原子力や原子力機関でもありません。原子力は、遠い将来に第4次、もしくは第5次産業革命の主役となるでしょう。恐らく、22世紀の産業革命の候補かと推定します。……人類は、原子力の着手に早過ぎたのです。
そういえばよぉ、先月あたりから日産自動車の「リーフ」のテレビコマーシャルが増えたような気がするぜぃ。さすがは、ゴーン社長だ!
でも甚さん、EVが急速に普及するためには、ガソリンスタ……ではなく、バッテリースタンドや修理・保全システムなどの、いわゆる「インフラ」の整備が必要ですよね。
さすがはよぉ、富士山麓大学・大学院、主席卒業だけあるよなぁ……。実務はダメでも、知識はていしたもんだ。
さて、そのEVですが、昨年(2010年)、筆者は隣国にてEVの開発に携わってきました。開発中のEVに関するコスト分析と部品点数分析の結果に驚がくしました。家電品と全く同じになったのです。
まず、図1を見てみましょう。
本連載の対象である「100台〜10万台/月」の代表格である家電品や事務機器などの電子機器に関する機械系部品の「加工別コスト分析」と「部品点数分析」です。
企業において、低コスト化を推進する場合は、図1の左図における「樹脂」⇒「板金」⇒「切削」の順で活動することが高効率と思います。一方、新人の機械系技術者への教育は、図面に関していえば、「板金」⇒「樹脂」⇒「切削」の順で理解を深めることが効果的です。
そういえば甚さん! 学校で教わる「機械製図」の本は、約140ページもあるのですが、なんと、板金図面はたったの1枚、樹脂図面はなんと、0枚! これが日本の教育の実態なんです。
なるほど。だからオメェは、「図面描けねぇ、読めねぇ院卒めぇ!」といわれてしまってたんだなぁ、あん? しかし、学校の責任にするんじゃねぇ。
新人の機械系技術者にとって、最初に出くわすのが板金でしょう。板金の主役は、筐体(きょうたい、フレームやシャシーのこと)やカバーです。その代表例が、航空機の機体や、自動車のボディーや、自動販売機の筐体などです。
前述のように、昨年に筆者は隣国にてEVの開発に携わってきましたが、開発中のEVに関するコスト分析と部品点数分析の結果に驚がくしました。図1とまったく同じになったのです。
それでは、図2を見てみましょう。
図Aは、隣国で設計/生産されているガソリンエンジンの自動車、その部品点数分析です。赤く太い線で囲まれた部分が、内燃機関系の部品、つまり、エンジンとラジエーターとガソリン供給部品、そしてミッションギア部品などです。
図Bは、前記の「赤く太い線で囲まれた部分」を一色で塗りつぶしました。
さて、ここからが注目です。隣国のEVは、この「一色で塗りつぶした部分」がスッポリ抜け、ここにモータ関連部品が入ってきます。それが図Cです。図Cにおける「切削」とは、モータのシャフトや左右のタイヤを連結する「車軸」などです。
それでは、この図Cと図1における家電品の部品点数分析を比較してみましょう。
なるほど、EVの部品点数分析の割合が家電品とほぼ同じですね。ということは……EVが家電品の仲間入りですね! すごい! 感激しました。
そうだ! 良君! しかも、EVの部品点数は、ガソリン車の10分の1だ。今後、EVをきっかけに第3次産業革命が押し寄せてくるぞ!
ここまで、板金部品、樹脂部品の重要性を説いてきましたが、切削のカリキュラムや実務教育を無視してはいけません。その理由は、……切削は、機械加工、機械設計の基礎だからです。しかし、板金と樹脂、特に樹脂設計に注力しなくては、今後の日本はますます隣国の工業国に追い着かれ、いずれは挽回も困難になってくるでしょう。
いま、若手技術者にお願いしたいことがあります。それは、かつて機械設計者は、「鋳物の設計ができて一人前」が、今や「板金・樹脂設計ができて一人前」の時代になっているのです。第3次産業革命に乗り遅れないように!
連載1〜4回は、切削部品を中心に、甚さんのレクチャーを進めてきました。そして、今回からは、板金部品の材料に着目していきましょう。
それでは、いくぜぃ! ところで、良君、前回の「電食」は十分頭にきざみこんだろうな?
ハイ、ハイ! どうぞ! どうぞ!
「ハイ!」は一度でいい! これは命令だ!
ハイ、ハイ! ……あっ。
てんめぇ〜〜! 分かってねぇじゃねーか! 図面読めねぇ、描けねぇ院卒め! あの震災以降、心を入れ替えたんじゃねぇのかい? あん?
すみません、甚さん! 口が滑ってつい……。そして、東北の仲間たち。毎日、被災地における復興遅延や原発のニュースが流れているとマンネリ化して、僕の心もちょっと油断していました。もう一度、仲間達と方針を検討します。
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