次世代PLM HDとは何なのか:水野操 CADイベントレビュー
2011年9月に米国で開催されたシーメンスPLMソフトウェアのアナリストカンファレンスに筆者が参加。そこから見えた3次元データ活用、PLMの概念について考察した。
より良い製品設計とは何であろうか。それは、商品企画の段階から設計に進むに連れて増えていく情報を確実に取り込み、それを製品開発の過程の中で何回も下されるさまざまな決定の中に、確実に反映していくことである。今回、筆者が参加した、2011年9月7〜8日の2日間にわたって米国ボストンで開催されたアナリストカンファレンスの中で、3次元CADベンダーの米シーメンスPLMソフトウェア(以下、シーメンスPLM)は「Smart Decisions,Better Products」と表現して、それを実現するための環境を今後も同社のソリューションによってどのように支援していくのか、ということをテーマに同社の「NX」「Teamcenter」「Tecnomatix」「Solid Edge」などの個別ソリューションも含めた解説があった。本記事ではイベント中に見聞したさまざまな情報を、できるだけ全体像が分かるように、筆者の目線から紹介したい。
次世代PLM 3つの概念
上記で掲げた環境を実現するために、同社は重点的に投資する領域を3つに絞っている。それらが「Intelligently Integrated Information」(インテリジェントな情報統合)、「Future-proof Architecture」(常に新しいアーキテクチャを)、そして「HD User Experience」(HDにおけるユーザーエクスペリエンス)である。
それらについて簡単に説明するなら、
- 多様な価値ある情報を意味のある形で統合すること
- 今後のシステムの進化にも十分に耐え得るようなソフトウェアの構造であること
- 既にシーメンスがカンファレンスなどでも示している「HD PLM」のような、よりユーザーが自然にかかわることができるようなユーザーエクスペリエンスを提供できるシステムであること
とでも言い換えることができそうだ。
この中でも筆者が興味をひかれたのが、後者の2つであったので、これらを中心に述べていきたい。
スマートな決断が可能な環境とは
意味のある形で、つまり「スマートな決断を下すことができるような形で情報を統合していく」とは、どのようなことであろうか。製品開発とは単にメカ設計とか電気設計といった設計行為だけではなく、要件や仕様の管理、検証、品質管理、購買、生産などのさまざまなオペレーションが複雑な形で絡まり合い、それぞれの機能が固有の価値のある情報を産み出し、あるいは他からの影響を受けながら業務が進行していく。
このような状況を支援するために有効なのが、システムエンジニアリング的なアプローチである。図1は典型的なVダイアグラムでありさまざまな場所で、このようなダイアグラムを目にすることもあろう。
この例では、メカの例で示しているが、さまざまな顧客のニーズや、標準、規制、ベストプラクティスなどがインプットとして入力され、そのような市場の要求から全体のアーキテクチャに始まり、製品の定義がなされる。Vの後半はバリデーションのプロセスだ。そして、水平の矢印で示されるようなトレーサビリティがなくてはならない。またこの流れは、メカだけではなくて電気やソフトウェアなどのさまざまなものに対して定義されている。
さらに大事なのは、それぞれに定義されている構成が全体のシステムとしても関連付いているということだ。つまり図2のような状態がさらに、PLMの中では一体のシステムとして扱われる必要があるといえる。
シーメンスPLMの主張は、これらをNXやTeamcenterを中心としたシステムで実現できるということだ。それが、図3に示すダイアグラムである。Vダイアグラムの流れを同社の製品の流れで置き換えているものである。
筆者の目を引いたのは、特に前段のTeamcenterの「Requirement Management」(要求管理)と「Systems Engineering」(システム工学)である。今後はこのあたりの管理がさらなる効率化の鍵かもしれない。この2つの機能は、以前よりTeamcenterには備わっていた機能であるが、個人的な印象としては、まだあまり活用されていない印象がある。要件管理についていえば、一般的な要件定義をするドキュメントから、具体的な要件のみを抽出したり、そのように抽出した要件をシステムの中の目的のアセンブリやコンポーネントにアロケート(メモリ確保)したりすることが可能だ。つまりどういうことかというと、そのような要件に基づいて3次元CADで設計されたデータ、あるいはPLM上で製品構成にぶら下がる電気やソフトなどのデータとひも付けもできるといえる。
製品開発中に、1つの設計変更が相互に関係を及ぼすのは、考えてみれば当たり前のことだ。例えば強度の関係で、機械部品の設計変更をしなければいけないとする。
以下のようなさまざまなところまでトレースする必要がある。
- 製品やユニットの重量はどうなるか
- もしモーターなどとつながっていれば、そのモーターのままでよいのか、変えなければならないとしたら、どのような要件によるのか
- その要件とはそもそも、どのようなドキュメントから出てきたものなのか……
それを1つのシステムの中で一体として管理できることは、最終製品と最初の要件の間のトレーサビリティを確保して、可視化するということでは、かなり有効ではないか。このあたりは、ユーザー自身も深く考える価値のある分野だといえるだろう。
いかに使用者の使い勝手を向上させていくか
「HD User Experience」については、このコンセプトに基づいたことが既に、同社の「Connection」というイベントでも紹介されてきているので、その言葉を既に目にしていた方も多いだろう。「HD User Experienceとは何か」ということは筆者としてはつまるところ、「いかに使用者の使い勝手を向上させていくか」ということにつきると考える。ここにはポイントが2つあるようだ。1つは、ヘビーユーザーだけではなく、管理者や意思決定者のようなカジュアルなユーザーであっても簡単にナビゲートしていくことができること。もう1つは、いつでもどこでも意思決定に必要な情報に、必要なタイミングでアクセスできるようにすることだ。
これについて後者については、既に同社の「Teamcenter Mobility」という形で、iPadをクライアント端末にすることで対応を開始している。新しいバージョンでは、単に見るだけではなくて、マークアップなども可能なようだ。
さて、前者については、イベントではまだ将来の夢か、と思われる動画も含めて今後の実現を目指す方向が紹介されていたが、ポイントは「いかに分かりやすくユーザーをナビゲートしていけるか」というところだろう。
同社のPresidentであるChuck Grindstaff氏によれば、その一環としての「Active Workspace」のリリースを2011年の11月以降にリリースする予定であることをプレゼンテーションの中で述べていた(日本国内については、シーメンスPLMの日本法人のリリースを待ちたい)。
3次元CADの操作性自体も、製品を問わず一昔前とは比較にならないほど操作性が向上しているのは確かだ。3次元データが広範な形で活用され始めてきている現在、求められるのは、主に意思決定者のようなデータのコンシューマが使いやすい環境である。データのコンシューマが求めるのは、「自分の立場に合った情報が」「自分の置かれた状況に応じた形で得られること」だ。もちろん、学ばなくても、直感的に使うことができることも重要だ。
必要な情報が、意味のある形で、そして分かりやすい形でつながり、いつでも簡単にトレースできること。かつそれがいつでも簡単に扱うことでできること。言葉にすると、このような簡単なことになってしまうが、やはりこれが、PLMが進化していく未来の形のように思われた。PLMにせよ、それに関連するシステムにせよ、結局はデータを産み出し、管理するだけではなくて、その企業がベストと思われる「決定」を支援するシステムにほかならないのだから。
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