非線形の場合も、難しいことをしなくて大丈夫!:独学! 機械設計者のための自動制御入門(12)(1/3 ページ)
実現象の多くは非線形。でも、線形のボード線図を少し変えて、シミュレーションを併用すれば大丈夫!
当連載の登場人物
銀二(ぎんじ)
設計コンサルタント。甥(おい)っ子の草太を自分の息子のようにかわいがっています。
草太(そうた)
銀二の甥。この春大学院修士課程を修了して現在は、とあるメーカーのサラリーマン1年生です。ちょっと困るとすぐ叔父を頼ってしまうちゃっかり者だけど、頑張り屋さんです。
編集部注* 本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
学生時代に学ぶ理論のほとんどは線形の世界の話です。いままで説明してきた内容もほとんどが線形理論でした。しかし現実の世界の現象は非線形です。線形理論が現実の世界にそのまま当てはまることはまずありません。しかし、近似という概念を受け入れるならば、非線形現象に対して線形理論を当てはめて使っても多くの果実を手に入れることができます。
最終回では、非線形現象を線形現象として扱う方法について、簡単な例で説明したいと思います。
また、昔は、コントローラーはオペアンプやコンデンサー、抵抗などによる電気回路で構成されていました。いわゆるアナログ制御です。現在はほとんどがコンピュータ制御を使ったデジタル制御です。最後にデジタル制御について少し触れて、この連載を終わることにします。
世の中は非線形
街中でヒグラシが鳴き始め、夏も終わりに近いある日。銀二さんが仕事の手を休め、書斎の窓から明石海峡大橋をぼんやり眺めていたところ、ふと、甥っ子の草太に教え忘れていたことを思い出したのでした。
もしもし。
はい、草太です。……何だ、叔父さんかー。どうしたの?
自動制御について、私の知っている全てのことを草太に話したつもりだったけど、実は言い忘れてたことがあったことを思い出したんや。すまんけど、今度の土曜日出てこれへんかな?
うん、分かった。僕も久しぶりにおじさんに会いたいし……。
次の土曜日。銀二おじさんの自宅のチャイムが鳴りました。
――ピンポーン♪
おぉ、来たな。元気にしとったか?
元気だよ。「言い忘れていたことがある」って、一体何のことさ?
お前、もう自動制御について全て分かったようなこと言っとったやろ?
だって分かったもん。
やっぱりな。少し聞きかじると、もういっぱしのエンジニアだと思うところが、まだまだ子どもやな。いままで説明してきたことは、あくまで近似理論であることを忘れたらあかんで。
近似理論? 理論は正しいから理論じゃないの? 似ているけど本物じゃないってこと?
私が言っている近似理論というのは、あくまで線形の世界で成立する理論ってことだ。だから扱う対象が線形の世界の法則に従っていれば、その理論は正しい。しかし現実の世界の対象物は非線形の世界の法則に従っている。線形の世界での理屈が現実の世界にそのまま適用できるかといえばそうとは限らない。
線形というのは、入力と出力の関係が直線で表現できる関係だね。例えば図1aのような。それに対して非線形というのは図1bのように直線関係にないもののことだね。
そうや。身近な非線形の例を挙げてみ。
そうだな……。例えば、お風呂に水を入れるときの、水量と水位なんてそうだよね。浴槽の高さを超えると、それ以上は水位は上がらない。当たり前の話だけど。
そうや。同じように、年齢と身長の関係もそうだな。
もうちょっと自動制御に関係する例はないの?
ギアのバックラッシ。このバックラッシの特性をグラフで描くと図2のようになる。
ほとんどの機械システムではギアが使われているから、まさしく現実は非線形の世界なんだね。バックラッシは行きと帰りの特性が違うからヒステリシスがあるんだね。
そうなんや。
いままで考えできた自動車の自動走行制御でも、ハンドルからタイヤを操舵する機構にはピニオンとラックが使われている。だから非線形システムってことだよね。
そうだな。ピニオン−ラック機構以外にも「あそび」の部分も非線形だ。
すると、いままで考えてきたことは意味がなかったということ?
そんなことはない。ただ、ボード線図が若干変わるだけだ。
ではボード線図はどのように変わるのでしょうか? ギアのバックラッシを考慮した、ハンドル角θhと操舵角θsのブロック線図はどうなるのでしょうか。前回、ハンドルはモータで回転され、かつモータが時定数τの一次遅れ特性を持つとして図3のように表現しました。
図3のブロック線図に歯車のバックラッシを付加すると図4のようになります。
しかし、このままではステアリングの伝達関数Gstを記述することができないからボード線図も描くことができないじゃん。
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