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巨大市場・中国をめぐる日米欧中メーカーの白物家電戦争〔後編〕知財コンサルタントが教える業界事情(5)(3/3 ページ)

特許データベースから浮かび上がる白物家電メーカーの勢力分布図をチェック。ハイアール、LGといった新興メーカーの動向も整理しておきたい。

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市場黎明期の冷蔵庫

 冷蔵庫において、発明ではLGグループやハイアールが、実用新案ではハイアールが上位を独占している一方、海外メーカーではBSHボッシュ・シーメンスやサムスン、東芝、パナソニックなどが、中国地場メーカーであればケロン、ハイセンスなどさまざまな企業が発明・実用新案出願をしています。

図6 中国における冷蔵庫発明・実用新案件数推移と出願人ランキング(10年間累積)
図6 中国における冷蔵庫発明・実用新案件数推移と出願人ランキング(10年間累積)

冷蔵庫の発明件数
出願人(中国語) 出願人(日本語・英語) 累積件数(発明)
乐金电子(天津)电器 LG電子(天津) 750
BSH博世和西门子家用器具 BSHボッシュ・シーメンス 396
LG电子 LGエレクトロニクス 352
泰州乐金电子冷机 LGエレクトロニクス(泰州) 229
海尔集团 ハイアール 221
三星电子 サムスン電子 220
青岛海尔 ハイアール 114
东芝 東芝 108
松下电器产业 パナソニック 106
三洋电机 三洋電機 95

冷蔵庫の実用新案数
出願人(中国語) 出願人(日本語・英語) 累積件数(実用新案)
海尔集团 ハイアール 444
青岛海尔 ハイアール 205
广东科龙电器 ケロン・エレクトリック 179
苏州三星电子 サムスン電子(蘇州) 132
河南新飞电器 Henan Xinfei Electrical 129
海信容声(广东)冰箱 ハイセンス 112
海信科龙电器 ハイセンス・ケロン 104
青岛市家用电器研究所 青島市家用電器研究所 86
合肥美菱 MeiLing 83
海信(北京)电器 ハイセンス 79

 さまざまな国内外の企業が出願し、冷蔵庫全体の出願件数もここ10年で約5倍の規模になっていることを考えると、中国冷蔵庫市場はまだまだ成長過程にあり、今後も国内外のメーカーから多様な新商品が発表されると予想されます。

LGエレクトロニクスに見るローカライズ戦略

 エアコン、炊飯器、洗濯機、掃除機、冷蔵庫と5種類の白物家電について、中国発明・実用新案の出願動向を把握してきました。

 中国企業としては世界一の白物家電メーカーであるハイアールやMedia(美的集団)が積極的に出願している様子が確認できましたが、外国勢ではLGエレクトロニクスが圧倒的な出願規模で他社を圧倒していました。

 日本企業の場合、研究開発やデザインなどの機能は自国で行い、生産は現地(=中国)で行うケースが増えてきています。しかし各国にあった商品開発をするために、現地に研究開発拠点やデザインセンターを設置する企業も増加しています。

 LGエレクトロニクスを見ると、現地法人であるLG電子(天津)やLGエレクトロニクス(泰州)名義と、韓国のLGエレクトロニクス本社からの出願に分かれています。特にLG電子(天津)名義の出願規模が際立っています。


名前 都市 研究分野
China R&D Center 上海 Finding new business areas in China areas, R&D and technology sourcing
China PPH 南京 Technology analysis of China areas and technology development of refrigirator and washing machine
LGETA AE R&D Lab 天津 Technology/product development of China-customized digital appliance
MC China R&D Lab 北京 Development of China-customized mobile handset
LGEDC 北京 Design development of China areas
表 LGエレクトロニクスの中国におけるR&D拠点(出典:LGエレクトロニクスウェブサイトより抜粋)

 上記の表はLGエレクトロニクスの中国におけるR&D拠点を示したものです。天津では中国人向けに特化した電化製品や技術の研究開発機能が課されていることが分かります。LG電子(天津)の発明・実用新案の発明者・考案者を見ると、韓国人だけではなく中国人の名前も含まれていました。つまり、天津のR&Dセンターに勤務している研究開発者は地元・中国人もいるということです。

 先進メーカーになればなるほど技術流出に敏感になってしまうため、現地におけるR&Dセンター設置には躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。しかし、現地人の嗜好(しこう)を取り入れないと“売れる製品”が出来上がらないのもまた事実。LGエレクトロニクスは、現地人向けの製品開発を自国・韓国人だけではなく、地元・中国人の方も含めて、さまざまなアイデアを生み出しており、その膨大なアイデアの一部が発明や実用新案として出願・公開されています。

備考:分析仕様・条件

データベース Soopathttp://www.soopat.com/
分析条件 下記のIPC(国際特許分類)およびキーワードを要約に含む特許(キーワードは中国語簡体字で検索を実施)
洗濯機:D06F
冷蔵庫:F25D
掃除機:A47L5 OR A47L7 OR A47L9
電子レンジ:F24C OR A47J37 OR H05B6/12
エアコン:F24F AND KW=(内 OR 室)
炊飯器:A47J27 AND KW=(米 OR 飯)
名義について 著者の方で可能な限り名義の統制は実施していますが、100%実施できているわけではない点にご留意願います。


筆者紹介

ランドンIP合同会社 野崎篤志(のざき あつし)

1977年新潟県生まれ。
2002年慶応義塾大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻修了(工学修士)。
2010年金沢工業大学院 工学研究科 ビジネスアーキテクト専攻修了(経営情報修士)。
日本技術貿易株式会社・IP総研を経て、現在ランドンIP合同会社シニアディレクター(日本事業統括部長)。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、Webサイトe-Patent Map.nete-Patent Search.netやメールマガジン「特許電子図書館を使った特許検索のコツ」を運営・発行している。
著書に『EXCELを用いたパテントマップ作成・活用ノウハウ』(技術情報協会)、『知的財産戦略教本』(部分執筆、R&Dプランニング)、『欧州特許の調べ方』(編著、情報科学技術協会)、『経営戦略の三位一体を実現するための特許情報分析とパテントマップ作成入門』(発明協会)がある。



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