日産リーフ搭載のLEDヘッドランプ光学設計:踊る解析最前線(11)(2/2 ページ)
自動車部品メーカーの市光工業のLEDヘッドランプの設計&解析事例を紹介する。今回は光学設計とCAEについて取り上げる。
LEDの特性を生かした配光
LEDは通常自動車に使用されているハロゲンランプやHIDランプとは異なる性質を持つ。ハロゲンおよびHIDは光が全方向に出る。そのためリフレクタ(反射・集光パネル)で光を幾つかに分割し、それぞれに役割を与えるのが簡単なのだという。ただ取りこぼしによる光の無駄も出てくる。一方LEDは、片面半分しか光が出ないため有効に使える。一方、指向性が強いため、反射面を精密に設計しなければ偏った配光パターンになってしまうという。
LEDで適切な配光を得るために同社が選択した光学系がリフレクタタイプだ。従来採用されてきたプロジェクタタイプは、光源とリフレクタ、そしてシェードとレンズそれぞれを組み合わせた、大きく2つの光学系から成っている。同タイプはカットオフ(明暗の境界線)をレンズとシェードで作りやすいというメリットがある。しかし集光が比較的苦手なため、2つのLEDで十分な輝度を確保するという点では弱い。そこで考え出したのが、リフレクタタイプだ。リフレクタで集光させて輝度を確保。また最適な形の配光を得るために、リフレクタを多数の面に分割するという手法で対応した。
より高いCAEの精度が必要に
光学設計に当たっては、CAEが重要な役割を果たしている。ほかのCAEと比べて、光学分野のCAEで特徴的なのが、詳細なメッシュモデルが必要だということだ。構造設計や熱設計に比べると段違いの精密さが必要だという。
LED採用による苦労の1つが、「CAEの精度を高めなければならなくなったこと」だという。指向性が高いために、少しでもずれがあると、配光がずれやすいということだ。ただ光源から赤外線は放射されないため、熱を気にせずリフレクタを光源に近づけることが可能になり、配光設計の自由度は高まるということだ。
また光のCAEで重要になってくるのが、光源をどのようにCAEモデル上で再現するかだという。部品が増えるほど外乱も増えるため、何が原因で配光がずれるのか特定するのは難しくなる。さらに実際のモノづくりの現場でのずれもでてくる。こういった問題に対応し、シミュレーションの精度を上げるために重要なのが、実験値とのつき合わせだということだ。検証を積み重ねてきた結果、精度は高まっているといい、「100点中90点以上の合わせ込みができていると感じている」(岩崎氏)ということだ。
近年、新人教育は難しくなる傾向があるという。とくに若手にはコンピュータの使いこなしが得意な人は多いが、シミュレーションの結果ばかりにこだわってしまう傾向があるということだ。実際に実験結果を見たいと思っても、必要な解析件数が多過ぎて見る時間が取れないという状況的な面もあるという。しかし「実際の現象を観察しないと、シミュレーション結果を有効に活用することはできません。自分の目で確認して、シミュレーションと実際現象との相関関係を積み上げていってほしい」(岩崎氏)ということだ。
LED1個のヘッドランプへ着々と進む
市光工業が手掛けたヘッドランプは、LED1個につき光源チップを4つ、合計8チップ使っている。ヘッドライトのランプに使われるLEDチップの数は、2007年には十数個だったが、年を追って減っている。市光工業では現在、2つのLEDを将来1つにするにはどのタイミングがよいか、Philipsと情報交換しながら探っているという。「スペックの向上はとても早いと感じています。今回は2、3年後の性能を予測して開発しました。次は1つになるのを見越して検討を進めています。次はいまよりもさらに性能のよい製品を提供できるはずです」(岩崎氏)。
(左)市光工業 コア・エンジニアリング部 シミュレーション課 主務 岩崎和則氏、(右)コア・エンジニアリング部 シミュレーション課 シニアエキスパート(解析技術) 上級技師 工学博士 菊池和重氏(次回登場!)
(次回に続く)
Profile
加藤まどみ(かとう まどみ)
技術系ライター。出版社で製造業全般の取材・編集に携わったのちフリーとして活動。製造系CAD、CAE、CGツールの活用を中心に執筆する。
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