「ロボット技術で安全と環境の問題を解決したい」〜ロボットカーに挑戦するZMPの狙い(後編):再検証「ロボット大国・日本」(3)(2/2 ページ)
ロボットベンチャー・ZMPの自動車分野での取り組みは? 後編ではロボットカーのメリットや日本の課題などを探る。
自動運転で先行する米国
このNEDOの実験は、研究所のテストコースや建設中の新東名高速道路などで実施された。完全な自律運転も「技術的には可能」(谷口社長)なのだが、これは現行法上、認められていないために、公道を走行することができないのだ。実験を始めるためには、茨城県つくば市の「モビリティロボット実験特区」のように、特区の制度を活用するのも1つの手だろう。
「法律さえ気にしなくていいなら、技術的にはもういろいろできるんですが……」と谷口社長は悔しそうに話す。例えば、Googleマップで行き先を指定して自動運転させるとか、あるいはスマートフォンから呼び出して自分が今いる場所に来てもらうとか。もちろん、実証実験などを経て安全性を確実にしていく必要はあるのだが、こういったことが少なくとも「技術的」には可能になっているのだ。
この分野での実証実験が進んでいるのは米国だ。有名なのはDARPA(米国防高等研究計画局)が実施した「Grand Challenge」(2004年/2005年)と「Urban Challenge」(2007年)だろう。Grand Challengeは砂漠がコースだったが、Urban Challengeは市街地を模擬したコースで実施。人が運転する自動車に混じって交通ルールを守りながら数台が完走、自動運転が可能であることを実証した。
その後の動きも早く、Googleのロボットカー開発チームには2つのChallengeに出場したスタッフが結集。同社は「われわれの技術により、交通事故による死亡者数を半減できる可能性がある」としており、2010年10月の時点で、既に14万マイル(22.4万km)もの自動走行実験を行ったという。
「技術的に可能であることは分かっていたので、日本では『あんなの大したことない』という人もいますが、やはり実際にやってみるというのは『大したこと』だと思います」と谷口社長。
「しかもGoogleにはストリートビューなど、2Dや3Dのマップを作っている技術もあります。これにロボット技術をドッキングさせれば、まさに鬼に金棒。これには誰も勝てないでしょう」(谷口社長)。
しかし、谷口社長自身はあくまでも「日本でのモノ作り」にこだわる。「やはり日本でロボットアプリを作りたいんですよ。われわれのロボットカーをシリコンバレーのベンチャーに売っても、彼らがロボットカーにおける“Facebook的”なものを作り上げて、結局は日本の出番がなくなってしまう。我が社は創業以来10年間、日本のロボット研究者に製品を買ってもらって、いろいろと知恵もいただいた。このネットワークに還元するようなこともしたい」と考えている。
日本の課題は「製品化」
2足歩行ロボット「nuvo」シリーズは同社を代表する製品であるが、今後はロボットカーと関連するセンサーなどの開発・販売に注力していくという。ロボットカーについては、サブスケールの「RoboCar 1/10」、超小型電気自動車(マイクロEV)の「RoboCar MEV」に続いて、早ければ来年にも普通車サイズの「RoboCar EV」を投入、ラインアップを拡充する計画だ。
日本メーカーの自動車は、2008年にトヨタが米General Motorsを抜いて販売台数が世界一になるなど、高い競争力を維持している。しかし、かつてのスパコンやDRAMがそうであったように、だからといっていつまでも安泰というわけではない。アジア勢による価格攻勢も激化するだろうし、生き残りのためにはまねができない付加価値を付けていくしかない。ロボット技術はそのキーになり得る。
日本のロボット技術について、谷口社長は「要素技術は群を抜いている。いいセンサーやデバイスもある。ただ、最終的に製品にしていくところが弱い」と評する。いかにして技術シーズをビジネスにまで持って行くのか。大学発ベンチャーの活発化などにも期待したいところだ。
筆者紹介
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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