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スマートグリッドを機に、なぜものづくりが変わるのかスマートグリッド(1/2 ページ)

スマートグリッド関連の開発が遅々として進まない。機器単体を設計できたとしても、プロトコルなどの標準化が遅れているため、他の機器と接続できないことが要因の1つだ。しかし、震災を機に、再生可能エネルギーなどの早期普及が強く望まれており、待ちの姿勢はもはや許されない。スマートグリッドではどのようなものづくりが求められているのか、日本ナショナルインスツルメンツに聞いた。

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 スマートグリッド関連の実証試験、開発では、米国、欧州、中国、インドなどの各国が先行しており、実運用も一部始まっている。震災後の日本は、エネルギー供給が不足気味であり、当座は節電で切り抜けたとしても、再生可能エネルギーなどを使ったマイクログリッド、さらにはスマートグリッドの導入が避けられない状況だ。

 再生可能エネルギーの量自体には不安がない。環境省が2011年4月に発表した「平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によれば、住宅の太陽光発電で1383万kW、非住宅系の太陽光発電で1万kW、風力発電で1万3000kWもの導入ポテンシャルがあるという。原子力発電所55基の合計は4947万kWであり、13カ月に1度の定期検査で原子炉が停止し、そのまま休止したとしても十分まかなえるだけの余力がある。原子力の発電コストが上がる一方、太陽光は、生産規模が2倍になるごとにコストが約20%下がる傾向にある。日本国内でも固定価格買い取り制度(FIT)が導入されそうだ。さらにメガソーラーの受け入れに対して、地方自治体が続々と声を上げている。

相互接続に問題がある

 しかし、発電だけではなく、システムとしてスマートグリッドの開発、普及を進めようとすると障害が多い。例えば、家庭の電力需要を計測するスマートメーターと、その情報を統合し、配電系統に送るHEMS(Home Energy Management System)機器との間でどのような通信媒体を使用するのか、プロトコルは何かということが確定していない。HEMSと配電系統との通信についても同じ状態だ。スマートグリッドを構成するEV(電気自動車)や太陽光発電、風力発電、系統に接続する二次電池、大規模発電所など、個々の技術の開発は盛んであり、完成しているものも多いが、互いに接続できなければ意味がない。

 国内で開発を急いで独自規格のままマイクログリッドを立ち上げたとしても、将来スマートグリッドが全面的に普及したときに孤立してしまう。このような不安が残っていることもあり、国内ではシステム開発が遅れ気味だ。国内の実証試験プロジェクトでも例えば4年間を要して、スマートグリッドの要素技術を開発するというゆっくりしたペースだ。とはいえ、指をくわえて状況を追うだけでは、海外でスマートグリッドのシステムが確立してしまい、日本国内へは完成品を輸入するだけという状況になりかねない。

 どうすればこのようなニワトリとタマゴの問題から抜け出せるのか。40兆円ともいわれるスマートグリッド市場で勝ち残るためにはどうすればよいのか、日本ナショナルインスツルメンツ 事業開発本部新エネルギー事業の部長を務める早川周作氏に聞いた(図1)。


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図1 日本ナショナルインスツルメンツ 事業開発本部新エネルギー事業の部長を務める早川周作氏 グラフィカルシステム開発の導入と、汎用品(CODS)の採用、接続性の担保の3つがスマートグリッドの開発に欠かせないという。

@IT MONOist(MONOist) スマートグリッド開発といままでのものづくりの違いは何か。

早川氏 スマートグリッドに限らないのだが、日本のものづくりは、従来のようなよい部品、製品をつくればみなが幸せになれるという発想から抜け出す必要がある。

 われわれは「ものづくり」から「価値づくり」への転換が必要だと考えている。価値づくりの価値とは、グローバルな顧客が特別な意味を感じるものだ。前提は、ものともの、人とものがつながること、つながることによって価値が生まれるということだ。ソーシャルネットワークの広がり、AppleのiPhoneやiPadの盛り上がりを見れば、次世代の産業が目指す方向はものの機能やスペックではないことが分かる。ものづくりは機械産業ではなく、情報産業に変わってきたということだ。

 スマートグリッドは電力の情報を宅内で、隣家と、居住している都市とやりとりする。ものとものがつながり、ものと人がつながることで情報が生まれる。太陽電池の変換効率を高める技術開発も必要だろうが、重要なのはつながりをいかに素早く作り上げるかということだ。

MONOist どうすればそのようなものづくりができるのか。

早川氏 設計、試作、実装という開発プロセスを短縮して、意味的価値を作り出す余力を持たなければならない。もう1つある。顧客の要求仕様を丁寧に聞き取って数百ページの仕様書をつくり、顧客に戻して……、という開発プロセスでは到底スマートグリッドは開発できない。例えば顧客の目の前で基本的な機能を満たす試作品を作り上げ、そのまま同意を取り付け、詳細な仕様は後ほど変更できるという開発プロセスが望ましい。

 当社はものづくりを圧縮する技術を持っている。試作品を素早く作り上げる技術も提供できる。

開発プロセスを短縮する手法は3つ

MONOist 開発プロセスを圧縮する手法を教えてほしい。

早川氏 3つある。1つは開発効率の高い開発ツールを使うこと、次に自社で専用部品を開発しないこと、最後に完成した機器に通信機能を標準で備えることだ。

 データ集積や制御、運用などに使うコードをC言語などで記述しないことで、開発効率が高まる。スマートグリッドであれば、計測、実装、制御のそれぞれの段階で素早く開発できるツールが望ましい。

 専用部品については、餅は餅屋に任せろということだ。プロセッサやFPGA、プロトコル、分散同期技術などの性能、機能は放っておいても向上していく。これらの技術の中核は枯れており、性能が高まる一方でコストは必ず下がる。スマートグリッドの特定の機能に適した専用LSIやプロトコルを時間をかけて自社開発するよりも、容易に入手可能な市販の汎用品(COTS:Commercial Off-The-Shelf)を使った方がコスト低減に役立つという主張だ。専用品が必要になるのはスマートグリッドが普及し、個々の部品、モジュールの性能向上が求められたときであって、試作、普及段階ではない。

 通信機能は欠かせない。スマートグリッドでは個々の機器が互いに通信するからという理由もあるが、それだけではない。プロセッサ(SoC)やFPGAなどの内容を後からインターネット経由で書き換えられることが重要だ。スマートグリッドは大量に導入されないと効果を発揮できない。まず特定のプロトコルで実装し納入し、後ほど正式なプロトコルが決まったときに遠隔地から書き換えればよいという考え方だ。もちろん、試作品を作り、テスト中に不具合を修正する際にも役立つ。

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