FEMの知識総まとめ〜あなたの解析は設計後?〜:設計者CAEを始める前にシッカリ学ぶ有限要素法(12)(4/4 ページ)
設計が終わってから解析している人、本当にそれで大丈夫? 手戻り発生を極力防ぐ解析のタイミングとは
チカラを設定する荷重条件
次に荷重条件です。
荷重条件を与えるにあたって重要なことは、ただ1つ、「できるだけ現象に忠実に」ということです。荷重は必ず、ある面積に与えられます。逆にいえば、一点を針で押すような荷重、包丁でモノを切るような非現実的な荷重は有限要素法では好ましくありません。
荷重が掛かるエリアをよく観察して、そのエリアが有限要素モデルに反映されるようにします。3次元CADのオプションとして解析ソフトがある場合には、ソリッドモデルに荷重エリアを細工する必要がある場合もあります。
さらに荷重エリアにどのような分布で荷重が掛かるのか想定することも大切です。等分布なのか、そうではないのか。
とにかく「できるだけ現象に忠実に」荷重を掛けることが大切です。そして、荷重について、もう1つ大切なこと。それは方向です。荷重の方向がちょっと変わっただけで、構造物や部品に与えるダメージに大きく影響が出る場合があります。ですから荷重の方向もできるだけ現象に忠実にする必要があります。荷重はベクトルですから、大きさと方向があるのです。いくら大きさが正確でも、方向が違っていたら正確に指定した荷重の大きさも台無しです。
荷重の方向を正確に定義するためには、座標系を設定するとラクです。
荷重エリアが少しだけ斜めになっているとしましょう。その荷重エリアに対して垂直に荷重を掛けたい場合、正確に荷重を掛けるためには、荷重が面に垂直になるように荷重を分解しなければなりません。荷重はエリアを持っているわけですから、そのエリアの全ての荷重を分解するのは、とても煩雑になり、事実上不可能です。
ここで登場するのが座標系です。荷重エリアに沿うように座標系を設定することによって、荷重を分解する必要がなく、ラクに荷重を掛けることができるのです。
大抵の解析ソフトには座標系を作成するコマンドがあり、荷重を掛ける座標系として作成したものを選ぶことができるようになっています。拘束条件にも同じことがいえます。
拘束条件と拘束条件は、結局のところ自由度への操作です。自由度がある以上、方向は無視できないものです。ぜひ方向の正しさを意識しながら拘束と荷重を設定することを心掛けてくださいね。
設計プロセスで解析を使う「In Process CAE」という考え方
皆さんはどんなタイミングで解析を使っているのでしょうか。ずーっと設計をして、設計が終わってから解析……。それが一般的なタイミングだと思います。それでいいのでしょうか。ある人は言います。「設計が終わっているのなら、解析なんて必要ない」――とても深い意味を持つ言葉です。
設計者の解析はどんなタイミングで行えばいいのでしょうか。設計が終わってからの解析では、不具合が発見されたときの手戻りが大きくなってしまいます。設計の最中に決断が必要となる要所、要所で解析を使ってみてはいかがでしょうか。僕はこれを「In Process CAE」と呼んで、設計のパラメータを決定するときの裏付けとして解析を使うように提案しています。
例えば、コンロッドのような部品を設計するとしましょう。大体の大きさと材料を決めるために解析をしてみます。3つの案があったら、どれが要件を満たすか解析を使って決定することができます。この時点でダメだと分かったら、手戻りも最小で済むことになります。この時点でダメなものは、この先どんなに頑張っても、成り立たないのです。形状が詳細になればなるほど、剛性は落ちていくからです。
コンロッドですから、2つの軸をつなぐことがこの部品の機能です。よって2つの軸のために2つの穴が必要になります。これを「機能穴」としましょう。機能穴の大きさや位置を決めるために解析を使います。
そして次は、軽量化のための肉抜きです。どのような肉抜きをすれば、最も軽量となり、かつ強度も保つことができるのか。まさに解析の本質的な使い方ですね。そして仕上げに向けてのフィレットはどのくらいの径がいいのでしょう。これも解析を使って決めることができます。
このように、設計の要所、要所で解析を使えば、裏付けのある設計を進めることができます。そしてそれを繰り返していくうちに、皆さんのエンジニアリング力は育っていくと思います。
CAEを皆さんの設計の道具として味方に付けて、ぜひ意味のある、独創性の高い製品を開発してください。
栗サンの「一休みコラム」
また会う日まで……
いやはや、長い連載でした。どうにか連載を続けることができたのも、「この連載を誰かが読んでくれている!」という思いがあったからです。本当にありがとうございました。解析のテクニックについてなど、まだまだ伝えたいことはたくさんあるのですが、取りあえず一区切りということにしたいと思います。
あるブログで「想定外は工学では最も重い罪である」というエントリーを読みました。このタイトルだけでも十分にショッキングです。昨今、「想定外」という言葉が多用されているように思えてなりません。CAEが「想定外」という言葉を少しでも減らすことに役立ってくれることを願わずにはいられません。
日本は今、大変な時期を迎えています。これからの経済にも、モノづくりにも大きな影響があるでしょう。そんな中、皆さんがよりよい、そして夢のある製品を生み出してくださることを心から祈っています。
長い連載にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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