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自動車部品の技術で作った優しい毛抜きマイクロモノづくり〜町工場の最終製品開発〜(9)(3/3 ページ)

鍛造で長年自動車部品を作ってきた町工場の技術を生かした製品とは?

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NOOKを生み出す「NOOKチーム」

 NOOKは、ミサト工業が1社だけではなく、これまで川嶋氏がさまざまな機会で知り合った、プロダクトデザイナーや、Webや広告用のチラシを作成する会社、販路の開拓を支援してくれる商社などから構成される「NOOKチーム」から生み出されています。

 チームは年に2、3回MTGを行うだけで、実際にはインターネットのメーリングリスト上でのやりとりで仕事を進めているということです。

 メーリングリストだけで、意思疎通に問題がないかと思い質問したのだが、これまで特に問題は発生していないとのこと。それぞれがプロとしての自覚があるメンバーが中心だからこそできることなのでしょう。

 また、収益のシェアの仕方に関して聞いたところ、デザイナーと協議の上、プロダクトデザインなどに関しては、「製品が1つ売れたら、いくら」というマージン性にしてもらっているそうです。これは、これまでの多くのマイクロモノづくりと同じように、中小企業というイニシャルにコストはなかなか掛けられないという実情も反映をさせています。

ソーシャルメディアと「マイクロモノづくり」の相乗効果

 川嶋氏は商品を効果的にPRする手段としてFacebookやtwitterなどのソーシャルメディアを積極的に活用して、ユーザーの口コミを広げる活動をしています。その背景には、単純な口コミ効果を狙う、だけではなく、実際に使用しているユーザーからの書き込みを基にして、製品の色のバリュエーションを増やしたり、横展開をするなどの活動を検討されています。

 そして、ユーザーからの反応を切り口に次の製品開発のネタとするような構想もお持ちだということです。

 実際に、これまでのユーザーの反応を基にして、ペット専用の毛抜きや、今後、医療認定が必要なりますが、眼科医向けの毛抜きなどの展開なども考えているということでした。

 ユーザーからの反応をダイレクトに受けられるFacebookなどのソーシャルメディアと、中小企業だからこそ、ユーザーの声をすぐに製品開発に反映できる強さ。この2つが重なりあってこそ、新しい時代の「マイクロモノづくり」のスタンダードになっていくと考えています。

Facebook
Facebook上のNOOKファンページ

「マイクロモノづくり」と「マイクロ起業家づくり」

 今回の取材の最後に、川嶋氏は現在進めている興味深いプロジェクトの紹介もしてくださいました。それは、「マイクロモノづくり」ならぬ、「マイクロ企業家づくり」の取り組みです。

 川嶋氏は、岐阜県郡上市の地元の商工会議所と連携しながら小学生を対象として「ベンチャー・キッズ・チャレンジ」という、子ども向けのベンチャー起業家養成ワークショップの運営者として参加されています。

 川嶋氏の地元、郡上市には、木工細工を中心とした多くのクラフト系モノづくりがあります。そこで、体験学習として、子どもたちに木工などを中心とした製品開発を行わせて、「社長」「経理」「生産」などの役割分担を行い、経営計画を立てさせ、お金の貸し手という想定で川嶋氏たちの「銀行員」に事業計画を説明してもらい、融資を依頼させるという取り組みです。

 興味深いのは、「銀行員」との面談で、子どもたちのあいさつが悪かったりしたら、ダメ出しをするなど、実社会の厳しさも教えつつ、実際に半日だけ、自分たちが製造した製品を売るらせてみるということでした。

そして、事業の構築の手段、お金の借り方、商売の仕方などを学ばせるということです。そして最終日には実際に販売したあとで、決算報告をさせるということでした。

 参加する子どもたちは、小学生を中心とした子どもたちなので、例えば12歳の子どもたちがこのワークショップを経験し、10年間やれば22歳なので、その中から実際の起業家が出てくるのではないか、自分たちで製品を企画して、自分たちで製造、販売するという、「マイクロモノづくり」を子どものうちから体験することで、次世代のマイクロモノづくり起業家を養成されているということでした。

会場
ベンチャー・キッズ・チャレンジの会場の模様

「マイクロ起業家の育成」と地域活性化

 この話を川嶋氏からお伺いして、「マイクロモノづくり」の持つ別の可能性に関して真剣に考えさせられました。

 それは、日本の地方が既に持っている、素晴らしい技術に裏付けられた伝統工芸品や産品などを、作り手が自分で企画し、販売するという地域の活性化にもつながるということです。

 今回、「マイクロモノづくり」の概念は、若い世代の日本人にとって「自分で製造して、自分で販売する」という、これまで日本人が行ってきた商売の基本を呼び起こさせる刺激になると再度確信しました。

 これまでの下請け構造のように企業から依頼されたものを製造し、販売するのではない。自分たちの地元の良さを再認識して、地方にある伝統工芸品たちを現代風にアレンジする。ソーシャルメディアを使い、日本語・英語を駆使しつつ世界に対してそれをアピールして、販売していく。

 ――そのようなことが当たり前になったとき、日本の地域に眠っている数多くの産品が、世界的なプロダクトとして次々と産み出せる国になる可能性を感じました。


Profile

三木 康司(みき こうじ)

1968年生まれ。enmono 代表取締役。「マイクロモノづくり」の提唱者、啓蒙家。大学卒業後、富士通に入社、その後インターネットを活用した経営を学ぶため、慶應義塾大学に進学(藤沢キャンパス)。博士課程の研究途中で、中小企業支援会社のNCネットワークと知り合い、日本における中小製造業支援の必要性を強烈に感じ同社へ入社。同社にて技術担当役員を務めた後、2010年11月、「マイクロモノづくり」のコンセプトを広めるためenmonoを創業。

「マイクロモノづくり」の啓蒙活動を通じ、最終製品に日本の町工場の持つ強みをどのように落とし込むのかということに注力し、日々活動中。インターネット創生期からWebを使った製造業を支援する活動も行ってきたWeb PRの専門家である。「大日本モノづくり党」(Facebook グループ)党首。

Twitterアカウント:@mikikouj



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