欧州でのFlexRay採用事例と取り組み:次世代車載ネットワーク FlexRay入門(4)(3/3 ページ)
FlexRay入門の最終回。今回は「欧州での採用事例」「開発効率化のためのさまざまな取り組み」「今後の動向」などについて紹介する。
3.今後の動向
現在、FlexRayは欧州の高級車メーカーを中心に着実に普及している一方、高級車以外の車種も多く開発しているような自動車メーカーでは、まだ本格的な採用に至っていません。果たして、FlexRayはCANのように普及するでしょうか? 今後の動向のヒントとなるような事項を以降で紹介します。
まず、普及に向けた課題です。欧州の高級車メーカー以外の自動車メーカーでまだ実用化されていない理由にはさまざまな原因があると思いますが、その中でも、単純に「コストが高い」ことが主な原因の1つとして挙げられます。
通信仕様の複雑さなどから起因する開発コストの増加に対しては、前章で紹介したようなさまざまな取り組みが実際に行われていますが、CANと比較するとまだまだコスト高の面があります。また「通信コントローラの価格が高い」「開発環境、開発ツールが高い」という点については普及の程度に依存するため、それらが「ニワトリが先か? タマゴが先か?」の関係に陥っている感があります。
一方、この課題がある程度解決されたとき、FlexRayの普及は大幅に進む可能性があります。CANも当初は「コストの高い通信プロトコル」といわれていましたが、そのコストが許容レベルになった後、一気に普及しました。FlexRayでも同様なことが起こる可能性が考えられます。
次に、FlexRay以外の有力な“次世代車載ネットワーク”として「イーサネット(Ethernet)」があります。既に、車両外との通信に活用されており、また短中期的にはカメラインタフェースとして活用することが検討されています。また、長期的な施策として、車両のバックボーンネットワーク、もしくは現在の車載ネットワーク全てをイーサネットに置き換える検討が行われています。これはあくまでも長期的な検討であり、現時点で実用化するにはまだ多くの課題があります。FlexRayを既に採用しているBMW社やDaimler社などもイーサネットの検討を行っていますが、あくまでもFlexRayの“次の”車載ネットワークとして捉えており、短中期的には“現状のCANやFlexRayで十分”と考えているようです。しかし、まだFlexRayを採用していない他の自動車メーカーにおいて、状況次第では“FlexRayを飛ばしてイーサネット”ということになるかもしれません。
このように“FlexRayが大幅に普及するか?”についてはまだ未知数です。しかし、本連載の第1回「次世代車載ネットワーク FlexRayとは?」で紹介した現在の課題「車載ネットワークの通信量の増加、複雑化」は、今後ますます深刻化するでしょう。各自動車メーカーは現在、CANのチャンネル数を増やすなどの工夫により何とか対応していますが、近い将来、この方法では対応し切れなくなり、別の車載ネットワークが必要になることが考えられます。このとき、どの通信プロトコルを採用するかは各自動車メーカー次第ですが、少なくても、実績や性能面でFlexRayが最有力候補であることは間違いありません。
以上、4回にわたってFlexRayが策定された背景から、その仕様の概要、採用事例などを紹介してきました。本連載が皆さまのFlexRayの理解に少しでも参考になれば幸いです。(連載完)
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