生産拠点・設備の災害リスク管理で知っておくべきこと:東日本大震災の教訓を生かせ(3/3 ページ)
生産設備や事業所などのリスク分析を専門とする筆者が、震災の教訓から対策を示します。高度にネットワーク化した社会でリスクを低減するために、踏み込んだ議論の必要もあります。
自己完結型の復旧を目指せ(東日本大震災の教訓1)
災害復旧には人や資材、重機や電力など、人・物・エネルギーが必要になります。局所的な災害の場合、周辺地域や関連企業から多くの手が差し伸べられ、早期の復旧が可能になります。ところが今回のような広域災害では、人・物・エネルギーは行き渡らず、被災企業から見れば時間ばかりが経過する、歯痒い状況になります。
このよう状況にならないためには、企業内の人や資材を使って復旧を目指す、いわゆる自己完結型の復旧戦略が必要になります。そのためには、建物の倒壊、あるいは調達に時間がかかる製造装置の損壊など、他者の手を借りなければ復旧できない致命的な被害は回避しなければなりません。
また、従業員が発災後速やかに参集できる仕組みを整備しておくことも重要です。致命的な被害を回避するには、工場設備などの建物の補強、製造装置や釣り設備の支持、各種ユーティリティの耐震化、代替の生産機能の準備など、ハード対策を確実に行うことが必要です。
設備の耐震化は復旧曲線を活用して優先順位を検討せよ
しかしながら、やみくもに行うと過剰な出費となり、合理的とはいえません。このような場合、復旧曲線の計算過程で求められるボトルネック指標(Bottleneck Index)が役に立ちます。ボトルネック指標は、生産活動への影響度(重要性)、耐震脆弱性、復旧難易度の積で表されるもので、耐震化の優先順位を知ることができます。図4はその例を示したものです。縦に列記した設備は、復旧曲線を求める際の構成要素に相当し、工場建屋や各種ユーティリティなども含まれます。
図4の例では、屋内変電所、工場2と3の建屋、プレス工程が要対策施設であることが分かります。これらの施設を補強することで、指標は均一化され、ボトルネックが解消することになります。その結果、復旧期間は大幅に短縮され、自己完結型の復旧が可能になります。
製造業にとって自己完結型の復旧は必ずしも容易ではありませんが、生産の早期再開は、従業員のみならず周辺の罹災(りさい)者にも希望を与えます。同時に地域の復興に大きく貢献します。
互いの地震リスクを持ち寄り共考しよう(東日本大震災の教訓2)
物流、情報、水や電力などは、さまざまな構造物が点や線となり、これらが有機的に連結することで機能し、そして経済活動を支えています。
東日本大地震では、点は破壊し、線は遮断され、経済活動は完全にフリーズしました。このことから、私たちの社会が、高度に組織化されたネットワーク社会であることをあらためて知りました。また、復旧過程にあっても1カ所の復旧が遅れたために、物流や情報が遮断されたままになる、といった脆弱な社会であることも知らされました。つまり、インフラを含めた社会全体が一定の防災性能を持たなければ、一企業が十分な備えをしても、必ずしも業務の早期再開に結び付かない、ということです。組織化された社会においては、企業努力の及ばないところで、操業停止を余儀なくされる現実を理解する必要があります。
テリトリを越えてリスク評価、復旧シナリオを共有せよ
そこで、事業所や工場、物流拠点やデータセンター、さらに鉄道や道路、港湾や空港施設などのインフラ、電力や情報通信などのライフラインなど、民間資本から社会資本に至るまで、それぞれの組織、立場で、大地震が発生した際に予想される被害や復旧期間を推計し、互いに共有してはいかがでしょうか。
これにより、企業は原料や中間品などの輸送経路、発注先の地域分散、自家発電を含めた電力確保の方法、情報通信機能の多重化など、さまざまな備えを検討することができます。また、共有情報を議論できる開かれた場を持つことで、互いの依存度や影響範囲を把握することができ、さらに耐震性に関する過不足を指摘し合うこともできるのです。
想定を超える広域災害に対しては、事業所や企業、国や自治体が個別に防災対策を検討するのではなく、互いの地震リスクを持ち寄り、協同して地域あるいは国全体としての減災対策を議論することが必要と考えます。
筆者紹介
中村孝明
篠塚研究所 取締役(工学博士)
篠塚研究所:東京都新宿区西新宿4−5−1
東京都市大学大学院 客員教授、早稲田大学 非常勤講師、工学院大学大学院 非常勤講師
著書に「地震リスクマネジメント」技報堂出版,「確率論的資産マネジメント」山海堂,「アセット・マネジメント」鹿島出版会などがある。
専門はリスクマネジメント、アセットマネジメント、信頼性工学。
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