Inventor 2012に環境負荷を見積もる機能が登場:米国開催のイベントで、オートデスクの製造関連新製品発表
米オートデスクは、オレゴン州にある同社の製造業分野の研究開発拠点で製造業向け各種製品の最新バージョン2012について発表した。
米オートデスクの製造業に関連する各種製品の最新バージョンの詳細が、2011年3月29〜30日にオレゴン州で開催された同社のメディアイベント「Autodesk Manufacturing Tech Day」で明かされた。設計した製品の環境への影響度を試算する新機能や、製造業関連ツールをパッケージ化した新製品などが紹介された。またクラウド版CADの「AutoCAD WS」については、近く米Apple社製品だけでなく、Android製品にも対応する予定もあるという。
以下に主な新機能および新製品について紹介する。
設計段階で環境負荷を見積もる機能
製造業向け3次元CAD「Autodesk Inventor 2012」(以下、「Inventor 2012」)では、新機能として「Eco Material Adviser」が搭載された。これは設計している製品の環境に与える負荷を見積もる機能だ。英Granta Design Ltd.との提携によって開発した。製品に使用する各種材料のデータベースを持っており、設計者が必要なパラメータを設定すると、例えば製造の過程で生じる二酸化炭素の排出量や水の使用量などを専用のウィンドウに表示する。同社によれば、コストや性能を犠牲にすることなく、環境への負荷を最小限にするような材料を選択できるという。またシミュレーション結果のレポートの出力機能も持つ。
Inventor 2012ではより操作を簡単・便利にしたり、起動速度を速めたり、自動設計のさらなる効率化といったチューニングも行っている。
ワークフロー全体をカバーするパッケージが登場
今回は新しく製造業向けの関連ツールをまとめたパッケージ「Autodesk Product Design Suite 2012」が発表された。製品デザインから設計、量産、販売まで広い領域をカバーしている。
同製品については、以下の3バージョンが用意された。
- 「Standard」:「AutoCAD Mechanical」設計データ管理ツール「Autodesk Vault」、ビジュアル作成ツールの「Autodesk Showcase」「SketchBook Designer」「Autodesk Mudbox」。
- 「Premium」:Standardに加えて「Autodesk Inventor」(以下、「Inventor」)、高品質CG作成ツール「Autodesk 3ds Max Design」。
- 「Ultimate」:Premiumに加えて、解析機能付き3次元CAD「Autodesk Inventor Professional」、製品デザインツール「Autodesk Alias Design」。
同製品では、設計ツールを中心として、上流の製品デザイン(意匠)ツールや、CADデータを利用してCMやプレゼンに用いる製品イメージを作るツール、CADデータの管理ソフトなどをそろえた。これは、同社の掲げる「ワークフロー全体のデジタルプロトタイプ化」を促進させるパッケージであり、普段目の向かなかったツールを活用することによって、さらなるワークフローの効率化を図ることを狙っているという。単品で購入した場合と比べて価格は大幅に安くなるとのことだ。
ダイレクトモデリングソフトでデータのやりとりをスムーズに
今回は「Inventor Fusion」が複数のツールに同梱されることが発表された。Inventor Fusionはヒストリーベースの3次元CADデータをダイレクトモデリングで編集できるソフトだ。従来、β版としてInventorへ同梱するなどして提供してきたが、今回、正式版となった。AutoCAD Electrical/MechanicalやInventor、樹脂流動解析ツール「Autodesk Moldflow」、メカニカル解析ツール「Autodesk Simulation(旧Autodesk Algor Simulation)」、製品デザインツール「Autodesk Alias Design/Automotive」に同梱されたが、これによる価格の上昇はないとのことだ。
「Inventor Fusionは3次元モデルの変形やインテグレーションが直感的に行える機能で、他社CADからもデータが取り込める。さまざまなツールに同梱し、手軽に使えるようにした」(同社)。このソフトによって、Inventorでは3次元データのヒストリー・ベースの編集だけでなく、直観的に編集できるダイレクトモデリングの選択肢も得られる。DWG形式で、オートデスクのツール間でデータを簡単にやりとりする役目もある。Inventor Fusion自体が重くないため、同時に立ち上げたツールとの行き来も簡単だという。
AutoCAD WSがAndroidに対応予定
冒頭でも紹介したように、AutoCAD WSについては、現在対応している米Apple社のiPad、iPod Touch、iPhoneだけでなく、Android製品にも対応する予定だという。ユーザーからAndroid OSへの対応への要望が大きかったことから、近々対応することにしたとのことだ。
AutoCAD WSはネット上にアップロードしたDWG形式のファイルをWebブラウザ上で閲覧・編集できるクラウド型のCADツール。複数のアカウントでファイルを共有したり、同時に編集の作業などもできる。なおAutoCAD WSは無償で提供されており、AutoCAD 2012や今回発表されたAutoCAD Electrical/Mechanical 2012にもプラグインされている。
製品デザインツールも使用感を向上
デザイナー向け製品デザインツールの「Alias Design/Surface/Automotive 2012」では、インタフェースの追加や操作の高速化を図った。「Transform CV」というインタフェースを作図領域に用意した。これにより、操作のたびに離れていくコントロールパネルのエリアに戻る必要がなくなるので、素早く作業できるとのことだ。トリムについては、従来は表面1つずつを選んで繰り返さなければならなかったが、複数の面を選択して同時にトリムできるようにするなど、操作のスピードアップも図った。
工場レイアウトの効率化
2010年6月に発表した「Autodesk Factory Design Suite」についても新版を発表した。同パッケージは、工場などにおける製造ラインのレイアウト検討に役立つツールをまとめたものだ。前バージョンと比べて、プレゼンや説明資料などに使う用途を想定し、ビジュアル面を強化したという。前バージョンでのセットは、Inventor、建築設計専用CAD「AutoCAD Architecture」、建築施工シミュレーションツール「Autodesk Navisworks」、データ管理ツール「Vault」、工場設計用レイアウトツール「Autodesk Factory Design Utility」の5本だったが、今回はそれらに「AutoCAD Mechanical」、「3ds Max Design、Showcase」が加わった(グレードによって組み合わせは異なる)。
このパッケージを発売した理由について同社は、「現在アメリカだけでも製造ラインの非効率性によって年に158億ドルが無駄になっている。問題が起こってからレイアウトを変更するより、あらかじめ検証するほうが効率的」としている。
従来のAutoCADでレイアウト設計を行っているユーザーが多いため、AutoCADのデータを効率よく利用できるパッケージを用意したという。ライン変更を頻繁にする規模の大きい工場を想定しているものの、製造業以外の食品工場や、展示会のフロア、病院などのレイアウトでも引き合いがあるということだ。
Navisworksは、InventorやAutoCADをはじめ、さまざまなツールで設計した設備のデータを2次元と3次元を混在させながらレイアウトできるシミュレーションツールだ。今回は、ラインを移動するのに掛かる金額や時間を計算する機能を持たせた。「Material Flow Analysis」という「設備をどこに置けば一番無駄なく作業者が動けるか」を分析する機能に追加した。また2次元と3次元両方の情報を持っているベルトコンベアなどのパーツのデータを約100、ネット上に用意しており、必要に応じてダウンロードできる。このパーツは今後も追加していく予定だという。
Profile
加藤まどみ(かとう まどみ)
技術系ライター。出版社で製造業全般の取材・編集に携わったのちフリーとして活動。製造系CAD、CAE、CGツールの活用を中心に執筆する。
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