分からないものを素早く分かるようにするCAE:踊る解析最前線(9)(2/3 ページ)
コンピュータのシミュレーションを活用して、モノの本質や設計の本質、設計原理をスピーディーに目に見える形で提供するCAPとは?
シミュレーションで「本質」をスピーディーに見せるCAP
――CAPとはどのような技術なのでしょうか
于氏:CAPとは「Computer Aided Principle」の略称で、コンピュータによるシミュレーションを活用して、モノの本質や設計の本質、設計原理といったものをスピーディーに目に見える形で提供する、ということです。かみ砕いて言えば、「分からないもの」を素早く「分かる」ようにする、そのアプローチを支援するための技術ですね。
――CAPの取り組みの狙いはどこにあるのですか
于氏:少々大きな話になりますが、現代の日本では、どこの国でも作れるような簡単な製品はほとんど作っていません。簡単なものは日本国内で作る必然性がありませんからね。極論すれば、日本国内で作られるものは全て「難しいもの」と言っていい。現代のモノづくりとは、イコール「難しいモノ」づくりなのです。では、それがどれくらい難しいのかというと「作っている人自身も理解できない」くらい難しい(笑)。裏を返せば、自分が分かっているような内容は他人も分かっているわけで、そんなものは難しくないし、あらためて国内で作る意味もない。結果、日本のモノづくりの最先端は、今や誰も分かってないものを、自分たちが分かっていないにもかかわらず作らなければならない、という流れになっているわけです。
――「分かっていないもの」を作るというのも大変ですね
于氏:ええ、特に近年は、モノづくりのサイクルが非常にスピードアップしているので、内容を理解できるように考える時間が与えられません。それこそ理解できる前に作り始めなければならないのです。で、分からないまま適当に作り、作りながら考える、ということをしている。それならば、コンピュータシミュレーションを活用し、モノの本質とか設計の本質・原理をいち早く「見える」ようにしていくことで支援してやればいい、というのが私たちのCAPの狙いです。そうやって「分からないモノ」を素早く「分かる」ようにしていけば、より早く、より質の高いモノづくりが可能になるのではないでしょうか。
モノづくりは、「できたモノさえ良ければいい」というものではありません。大切なのは、「なぜ良くならないのか?」「なぜ難しいのか?」「なぜそういう特徴があるのか?」「なぜリコールの確率が増えるのか?」といった問題意識であり、こういった問題の答えが分かっているのといないのとでは全く違ってくるはずです。
――なぜ日本のモノづくりはそんなに「分からない」状態に?
于氏:モノづくりに関する問題の中身が変わってきたからです。昔は線形問題に関連するものが多かったのに、近年はこれがほとんどありません。少なくとも日本で発生しているものは、非線形問題やダイナミクス、システ厶といった問題が主体になっています。つまり、組み立て後に発生する問題が多いんですね。そして、困ったことにこうした新しい問題は、どれもまだ基礎的な学問が確立されていません。いや、ダイナミクスに関しては学問もできていますが、非常に単純で、とても現代のモノづくりに適用できる内容ではないんですよ。そのため勉強する機会も少なく、内容を想像するのも困難で、結果的に何もかもちんぷんかんぷんになってしまっている。解析しようにも従来の理論的な解析では難しく、数値シミュレーションでないと解も出せません。だからCAEしかない。そこで「CAEを使ってこれをどう支援していこうか?」というのがCAPの役割なのです。
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