分からないものを素早く分かるようにするCAE:踊る解析最前線(9)(1/3 ページ)
コンピュータのシミュレーションを活用して、モノの本質や設計の本質、設計原理をスピーディーに目に見える形で提供するCAPとは?
わが国のモノづくりの現場において、機械や構造物の能力を十全に発揮させるため、その前提となる条件が幾つかある。まず当然ながら、その機械・構造物自体の性能。これが優れていなければ始まらない。そして、その安全性の保証と適性なコストももちろん重要なポイントだ。しかし、これらは多くの場合、モノづくり現場において相反する関係となるから、全てを満たすことは容易ではない。いかにして3つをバランス良く実現するかが、現場における普遍的な課題となるのである。
横浜国立大学大学院工学研究院の准教授、于強(う・きょう)博士の研究室では、このようなモノづくり現場からの要請に応えるべく、材料力学をベースとする多様なCAE技術や実験計画法などを有機的に組み合わせ、より質の高い構造信頼性技術を確立することを目指している。于氏は、実装部品のはんだ接合部の非線形解析研究の第一人者として知られ、近年は大手メーカーを中心とする企業各社との共同研究や共同開発の事例も多い。まさに最先端の「モノづくり現場」を知る于氏に、これからの日本のモノづくりにおける設計の在り方と、CAE活用についてうかがった。
モノづくり現場でシミュレーションツールを生かす
――近年の先生の研究テーマをご紹介ください
于氏:われわれの研究室では、もともとはシミュレーションのツールを使って、さまざまな材料力学や設計に関わる諸問題を解決していくことをテーマとして研究してきました。こうしたテーマは大学により、研究室により、アプローチの仕方がさまざまで、例えば解析の方法論を中心に研究してらっしゃるところも多いようです。しかし、当研究室では、あくまで実際のモノづくりの現場における諸問題解決のため、「どんな風にシミュレーションツールを生かすべきか?」というスタンスを取っており、これが1つの特徴となっています。
――具体的にはどのようなアプローチとなるのでしょうか
于氏:例えば会社で使う電子機器を例に考えてみましょうか。どんな電子機器でも、使えば大抵発熱します。そのため機器の信頼性もこの温度サイクルによって決まってしまうわけで、ここに大きな問題が潜んでいます。もちろん最初から壊れないような製品が作れるならそれが一番いいのですが、なかなかそうはいきません。最終的には、やはり「壊れるか/壊れないか」、実際の評価を行う必要があるわけです。ところが実際に温度サイクル試験などを行っていくと、普通の製品でも3カ月から半年ほどもかかってしまうのですね。ご承知の通り、いまのモノづくりのサイクルの短さからすると、半年など到底待てる長さではありません。もしシミュレーションを使ってこの問題にきちんと対応できれば、評価試験の時間自体を大きく節約できるでしょう。
――実験せずに評価しようとすると、やはり定量性が重要になりますね
于氏:そうですね。この定量性を考えていくと、そこで使われている材料やその材料特性などが重要になってきます。ところが実際には、これはいろいろな方がいろいろな測り方をしているので、そのまま引っ張ってきて使おうとしても、うまく合いません。向こうで使っているサンプルと、実際のモノのサンプルとでは条件が違いますからね。そういう点から、当研究室では定量性を重視しており、全て自分たちで責任を持って計測するようにしています。当然、高い精度が求められますから、そのためにはどういう方法がよいのか、どういう解析がよいのか、ということを考えながら、常に実物の整合性に関して最大限ケアを行っているのです。もっとも、ウチの研究室でできたから、すぐにモノづくりの現場で使えるという話ではありませんよ。さまざまな企業でいろいろな方が使うのですから、どこでやっても、ある程度、結果の安定性が保たれるようにしなければならないわけです。
――求められる精度はどの程度のものなのですか
于氏:サイクル試験なので、基本的には「疲労試験」なのですが、われわれの目標としては、予測の結果と実験の評価結果の差が最低でも2割以下の範囲に収めること。できれば1割以内に抑えたい。これが常にわれわれの抱える……というか(企業から)求められる目標値となります。これくらいの精度を実現していかないと、企業からは「使えるツール」として認めてもらえません。また、これと並行して、当研究室では別のテーマにも取り組んでいます。これもモノづくりに寄与する技術として開発しているもので、われわれはこれを「CAP」と呼んでいます。
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