競合他社も市場投入を急ぐ
Freescale社は2011年1月、アプリケーションプロセッサ「i.MX 6シリーズ」を発表した。同シリーズは、最大1.2GHzで動作するCortex-A9を4個搭載した「i.MX 6Quad」、同2個を搭載した「i.MX 6Dual」、同1個のみを搭載した「i.MX 6Solo」の3品種をそろえる。同社は、これまでに、Cortex-A9とほぼ同じアーキテクチャを持つ「Cortex-A8」を搭載した「i.MX 51」と「i.MX 53」を車載情報機器向けに展開している。「ARM社のコアを用いた車載情報機器向けICについては、当社が先行していると考えている。また、 Windows Automotiveだけでなく、車載情報機器のプラットフォーム開発を目的とする非営利組織のGENIVIが採用している『MeeGo-IVI』、カナダQNX Software Systems社の『QNX CAR』、そしてAndroidなど、マルチプラットフォームでの対応が可能だ」(Freescale社)という。
NVIDIA社は、Androidを用いたタブレット端末で採用が広がっている「Tegra 2」を、車載情報機器にも展開する方針である。Tegra 2は、Cortex-A9をデュアルコア構成で搭載するほか、パソコン向けのGPU「GeForce 6800」相当の処理性能を持つGPUコアを備えている。また、電力管理用にARM社の「ARM7」コアも搭載している。最大の特徴は、GPUの高い処理能力と、3次元のユーザーインターフェース(UI)の開発に、パソコン用アプリケーションなどに用いられている3Dグラフィックスの豊富なシェーダライブラリを利用できることだ。また、ドイツAudi社は、2012年以降に発売する車種において、車載情報機器の純正品にTegra 2を採用することを決定している。
東芝は、2010年12月にパシフィコ横浜で開催された『Embedded Technology 2010』において、Cortex-A9をデュアルコア構成で搭載する「TMPA972」を参考出品した。2D/3D対応のグラフィックスアクセラレータや車載カメラとのインターフェース、LEDドライバ機能、DRAMなど、車載情報機器に求められる機能を備えている。Cortex-A9の動作周波数は 336MHzと、競合他社品と比べると低い。ただし、処理能力は最大で1665DMIPS(Dhrystone MIPS)となっており、「車載情報機器向けとしては十分」(東芝)だという。
TMPA972は、複数のダイを1パッケージに収めることで多機能化を図るSIP(System in Package)技術を利用している。具体的には、4つのダイが1つのパッケージに収められている。4つのダイとは、プロセッサコアを含めたデジタル回路のダイ、車載カメラとのインターフェースやA-Dコンバータ、D-Aコンバータを中心としたアナログ回路のダイ、LDO(低ドロップアウト)レギュレータやDC-DCコンバータ、LEDドライバなど電源回路のダイ、そして容量が1GビットのDDR(Double Data Rate)2 SDRAMのダイである。
富士通セミコンダクターは2011年3月、Cortex-A9を1個搭載する映像表示用IC「MB86R12」を発表した。同製品は、アプリケーションプロセッサというよりも、カーナビや液晶ディスプレイを使ったメーターなど、複数のシステムにおける高解像度の映像の入出力を統括する役割を担うICとして位置づけられている。その最大の特徴は、最大3ギガビット/秒(Gbps)の速度でデータを転送できる差動伝送信号インターフェース「APIX 2.0」を搭載したことだ。ドイツInnova Semiconductor社が開発したAPIX 2.0は、1本のケーブルで、データ信号以外に、制御信号と電力も伝送することを可能にする技術である。
Xilinx社は2011年3月、Cortex-A9をデュアルコア構成で搭載し、周辺機能や入出力インターフェースはFPGAのように再構成できるIC 「Zynq-7000ファミリ」を発表した(図1)。28nmプロセスを用いる同社のFPGA製品群「7シリーズ」と同じアーキテクチャを利用して開発されている。Zynq-7000ファミリのうち、プログラマブルロジック部の容量がASIC相当のゲート数に換算して43万個の「Zynq-7010」と、同130万個の「Zynq-7020」は、車載情報機器に最適だとしている。特に、Zynq-7010については、「100万個購入時の単価は15米ドル」(Xilinx社)としており、同社の意気込みが見て取れる。
(朴 尚洙)
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