環境配慮設計と標準化の動向:環境配慮設計のいま(3/3 ページ)
欧州議会で公布されたErP指令。あらゆる電機・電子機器製品に影響があるこのルールの現状と、企業への影響を識者に聞く
中小部品メーカーへの影響と取引機会拡大
「素材メーカーや、最終製品のセットメーカーの場合は事業規模が大きい企業が多いため、比較的対応できています。こうしたルールで最も負担が大きいのが、中小部品メーカー企業です」(齋藤氏)
齋藤氏によると、資本が潤沢でRoHS指令やREACH規則にも速やかに対応を講じた「川上」と「川下」メーカーは、ErP規制に対しても同様に対応が進んでおり、多くは一定の適法性を保っていける場合がほとんどだという。一方で、モノの流れの中間に位置する中小部品メーカーでは、情報が少なく、対応に対しても多くの投資が難しい場合が多いという。
「投資は難しいものの、特に、『川下』のセットメーカーからは要件として対応を求められます。ErP指令の場合、セットメーカーがライフサイクルでの環境配慮設計を行うことが義務付けられますので、それに必要なデータなどの情報を中小部品メーカーにも要求することになります。このため、中小部品メーカーでも環境配慮設計の実施はもちろん、そのプロセスにおけるさまざまなデータの管理、開示をどうしていくかは現場には悩ましい課題です。もともと、環境配慮設計の枠組みしか規定されていないので、各社が独自にそれを組織の中で実現していかなくてはなりません。そして、それをサプライチェーンの先にあるセットメーカー企業に対しても証明しなくてはならないのです。漠とし過ぎていて、中小部品メーカーが独自で対応するのは非常に難しいものです」(齋藤氏)
こうした状況を回避するために、国際標準化の世界でも、環境配慮設計の『標準語』作りが始まった。それが、IEC 62430-Environmentally Conscious Design for Electrical and Electronic Products and Systemsで、2009年2月に発行されている。IEC 62430は日本が国際標準化の作業を提案し、市川 芳明氏(日立製作所)がコンビナー(国際主査)として取りまとめたもので、齋藤氏も専門委員として作業に参加した。
「IEC 62430は、環境配慮設計を実施する際の原則やプロセスのコア要件を規定するものです。製品のライフサイクルでの環境側面やその影響を設計段階から評価、改善していくわけですが、商品企画の段階から概念設計、詳細設計、試作などの各段階で、具体的に何を考慮すべきか、その際にどのようなデータが必要であるか、評価・分析のツールはどのように活用するのかなど、プロセス、データ、ツールの要求事項を規定しています。例えば、使用済み製品のエンドオブライフを考えた場合、再使用やリサイクルのしやすい製品の設計を考えること、実際にそれを工場のラインで製造する際のエネルギー消費やその削減なども考えることなども環境配慮設計の要求事項となります」(齋藤氏)
中小のメーカーにとっては、ErP指令準拠の設計・製造プロセス構築に際して、IEC 62430のような標準規格への準拠は1つの確固たる「証明書」あるいは「共通語」として有効だ。セットメーカー側にとっても、サプライチェーン全体が標準準拠で対応していることは一定の担保として機能する。
「こうした『共通語』として環境アセスメントに対応することは、中小部品メーカーにとっては1つのチャンスともいえます。というのも、従来はグループ内取引が中心だった中小部品メーカーがこの『標準語』を取得することで、グループを超えた取引のチャンスを得られるという側面があるのです」(齋藤氏)
グローバルサプライチェーンが長く複雑になることと連動し、メーカー間の商取引もグローバル化しつつある。今やセットメーカーが圧倒的に強い状況ではなく、中小部品メーカーも個々に生き残りを掛け、国や企業グループにかかわらない多様な取引を始めている。
「グローバルで多様な取引が行われつつある中では、IEC 62430のような標準語で『会話』ができる企業はそれだけ1つのアドバンテージを得ることになると考えます。国際競争においてはスピードも必要になりますから、その意味でも、サプライヤ側とセットメーカー側で、まず『標準語』をコアに定め、そのうえで自社のプラスアルファの要素を盛り込んでコミュニケーションを進めていけるように準備を進めておいて損はないと考えます」(齋藤氏)
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