環境配慮設計と標準化の動向:環境配慮設計のいま(1/3 ページ)
欧州議会で公布されたErP指令。あらゆる電機・電子機器製品に影響があるこのルールの現状と、企業への影響を識者に聞く
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@IT MONOist編集部一同
日本の電気機械工業系業界団体の1つである日本電機工業会(JEMA) 環境部 環境対策推進第一課長で書籍『EuP指令入門〜エコデザインマネジメントの実践に向けて』(産業環境管理協会刊、2006年)の執筆陣の1人である齋藤 潔氏に、ErP指令が電子機器・電機産業に与えるインパクトとその意義についてお話いただいた。
EuP指令、ErP指令とは
EuP指令はErP指令の前身となるEU議会による法規制。「Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on establishing a framework for the setting of Ecodesign for Energy Using Products」の略称で、日本語では「エネルギー使用製品に対するエコデザイン要求事項の設定のための枠組みを設けることに関する欧州議会および理事会指令案」と訳される。EuP指令では対象製品はエネルギー使用製品に限定されていたが、EuP指令の改定として示されたErP指令(Energy-related Products)は、「エネルギー関連製品のエコデザイン指令」と呼ばれ、対象製品が「エネルギー消費に影響を及ぼす製品」に拡大され、電子機器以外の製品も規制の対象になり得る。
ErP指令は、EuP指令を改正し「エネルギー関連製品のエコデザイン要件を設定する枠組みを確立する指令2009/125/EC」として、2009年10月31日付けのEU官報で公表されており、官報公表後20発行日目に発効されている。
「ErP指令の対象は、エネルギー消費に影響を及ぼすさまざまな製品へと対象が拡大されていることもあり、その影響範囲は非常に大きくなっています」(齋藤氏)
ErP指令への対応が難しい理由
ErP指令は、市場へ提供する製品について、事業者が、環境に配慮した製品設計を実施したことを自ら証明することを要求される制度だ。実際には、Lotと呼ばれる製品カテゴリごとにエネルギー効率の改善や消費電力量の削減に基準値が設けられるなど、要求される内容は定義を含めて実施措置と呼ばれる個別の規則が発効される。
「例えば、Lot 26−Networked standby lossesというカテゴリが新たに検討されていますが、社会のデジタル化に伴うネット環境の待機時消費電力の増加を視野に入れて、そこに規制を講じようという動きが見られます。具体的には、家庭やオフィスにおけるデジタル・ネットワーク全体の待機時/無負荷時消費電力を特定し、その削減を義務付ける、という議論です」(齋藤氏)
ネットワークといっても、キャリア、プロバイダー、ユーザー、あるいは関連機器を製造するメーカーと、関係者は多数存在するが、どのように責任を切り分けるのだろうか。
「実際には、プロバイダーやユーザーに対して要求することは難しいでしょう。まだ確定しておらず予備調査と称される検討が行われている最中ですが、削減を義務付ける以上は基準値とその測定方法が特定される必要があります。従って、結局のところ、機器が持つ機能を維持しつつ、待機時/無負荷時消費電力の削減が可能となる設計をメーカー側に要求するような形で何らかの削減基準値が法的要求事項としてまとまるのではないかと想像されます」(齋藤氏)
無論、齋藤氏は日本の工業会という立場から、関係メーカーとともに予備調査の段階から意見や要望を提出しているが、「あくまでも欧州の法律であり、その中でのさまざまな利害関係を理解する必要がある。実際、予備調査を経て実施措置が発効されるまでには調整が難航しているものも多い。われわれとしては、スケジュールやドラフトの内容をしっかりとフォローし、都度、意見表明をしていく必要がある」としている。
ErP指令自体は枠組指令であり、パソコン、TV、冷蔵庫、モーターなど電機・電子機器製品全体を包含し、それらの環境配慮設計に関する一般的な要求事項がざっくりと規定されている法規だ。前述の通り、個別の製品カテゴリごとに実施措置と称される規則が発効される。既に、テレビや冷蔵庫など、環境配慮設計に関する一般的な要求事項に加え、特定要求事項とされるエネルギー効率の改善や消費電力量の削減に関する基準値を含む実施措置が「EU官報」から公布されているものもある。
ErP指令に基づき予備調査などの検討がなされているLotは30近く存在している。製品カテゴリごとに扱う官庁や予備調査の実施機関も異なる。現在、検討段階にあるものから、既に公布済みのものまでばらばらのステータスで中身が検討されているため、最終的に、規制のルール作りの考え方において、必ずしも整合していないケースもあるという。
こうした動向について日々ウオッチしている齋藤氏によると、ErP指令を「EUならではの事情を反映した指令」だと語る。
「日本の法規制は、まず対象製品の定義から詳細に検討され、同じ法規制の中ではルール作りの考え方において整合性が保たれている場合が多いと思います。企業側がそれらの法規制に対応する際のルールも細かく規定されるため、比較的分かりやすいのですが、EUの場合、EU自体が複数の国家の集合体であって、法規制作りはEU議会の合議プロセスにおいて国際交渉を伴うものと理解します。もともと、微に入り細をうがつような詳細を法規制に求めるよりも、加盟国間の対応能力の差もありますし、シンプルなルールメーキングが必要とされています。時間もかかりますし、われわれが日本の感覚で眺めていると、確かに、決定のプロセスが分かりにくい場合が多くあります。同時に、企業側が自ら判断せざるを得ない場合が多いのも特徴です」(齋藤氏)
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