世界市場での製品競争力向上を目指す「Obbligato III」:ものづくり支援ソフトウェア製品レポート(8)(2/3 ページ)
コア・非コア機能をオンプレミス・クラウドで使い分けた運用を提案するObbligato III。グローバルPLM実現に向けた狙いとは
グローバル市場を見据えた「マーケットイン開発」を支援する「企画BOM」
Obbligato IIIの最大の機能強化ポイントは、グローバル市場における製品競争力の向上を支援するための新機能を数々実装した点だ。冒頭でも述べた通り、日本の製造企業は今後、グローバル化の波を避けて通ることはできない。「グローバル化」という表現をする場合、これまでは生産拠点や調達業務の海外移転を指すことが多かった。しかし今後は、エンジニアリングチェーンの上流工程、すなわち企画・設計業務も海外に移転する動きが加速するはずだと松原氏は述べる。
「新興国の市場ニーズに合致した製品を開発するためには、企画・設計業務の担当者が現地で直接ニーズを吸い上げて、それを速やかに製品の企画・設計に反映しなくてはいけない。いわゆる『マーケットイン開発』と呼ばれる開発手法だ。例えば、中国ではじゃがいもを洗える洗濯機が売れている。あるいは、インドでは1日中エアコンを付けっぱなしなので、コントローラーは要らない。こうした市場ニーズは、日本国内に閉じこもっていては絶対に分からない」(松原氏)
ただし、企画・設計部門の海外移転を実現するためには、各拠点で生成される企画・設計情報を効率よく、かつ、セキュアに管理するための手段を講じる必要がある。そこで、各拠点でバラバラに情報を管理するのではなく、本社で構築したObbligato IIIの共通データベース上にすべての情報を集約し、システム運用やセキュリティ管理作業の効率化を図るというわけだ。しかし、このソリューションにはそれ以上に重要な、ビジネス戦略上のある狙いが込められているという。
「各国の市場ニーズに沿った要件や仕様を1個所に集約し、詳細に比較検討することで、製品の共通仕様を発見できる。この共通部を製品のプラットフォーム部分として国内開発し、それに各国向けの仕様を加えることでローカライズする。メーカーでは『モジュラー開発』『群開発』などと呼ばれている手法だが、これによりエンジニアリングチェーンを大幅に効率化できる」(松原氏)
Obbligato IIIには、こうした開発手法を支援するために「企画BOMソリューション」という新たな機能が追加されている。製品企画の段階で発生する要件や仕様、機能などに関する製品情報を一元管理し、これらをマトリクス表で参照できる。仕様や要件の間の依存関係が、スコア付けされた形で可視化されるので、前述したような各国向け製品の共通仕様の抽出のほか、仕様変更や設計変更時の影響範囲も一目で把握できるようになるという。
グローバル対応には必須となる情報漏えい対策
しかし、PLMのデータベースをグローバルで共有するためには、いくつかの技術的なハードルも存在する。中でも、多くの企業が懸念するのがセキュリティの問題だ。製品の企画・設計情報は、製造企業にとっては生命線ともいえるほど重要な情報だ。これが海外拠点経由で漏えいしてしまうことは、何としても避けなければならない。Obbligato IIIはそのために、情報の持ち出しを制御するための強力なセキュリティ機能を備えている。
具体的には、Obbligato IIIのデータベース中の機密データと一般データを区分し、機密データに関しては、クライアントPCにダウンロードされた後も、権限のない持ち出し、コピー、印刷などを厳しく制限できるようにしている。一般データに関しては従来通り、コピーや印刷も可能なため、利便性が高い。なお、この機能の実装には、暗号化技術を一切使っていないため、暗号化技術の持ち込みを厳しく制限している中国国内でも問題なく運用できる。
また、ユーザーインターフェイスにはWPF(Windows Presentation Foundation)というRIA(Rich Internet Applications)技術が採用されている。Webブラウザさえあれば非常にリッチなクライアント環境が実現でき、かつWebサーバにつながるインターネット環境さえあればシステムを利用できるため、現地拠点に別途サーバを設置したり専用線を敷設する必要がない。
「現在、多くの製造企業は中国やインドの市場をターゲットに想定しているが、今後は対象マーケットもどんどん変遷していくだろう。そうなった場合、現地拠点を新設する際にいちいちサーバ設置などのシステムインフラ構築を行っていては、マーケットの変化に追従できない。その点、Webアプリケーションでどこからでもシステムインフラにアクセスできれば、拠点設立当日から通常業務を実行できる。さらには、生産マップフリーや生産拠点の統廃合といったダイナミックな業務シフトに迅速に対応するためにも、RIA技術はメリットが大きい」(松原氏)
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