第5話 “別の管理手法”の秘密:がんばれ! 新米班長 イトウくん(5)
個別受注生産をしている場合は「別の管理手法」が必要。という重大なキーワードを入手したイトウくん。それで、その管理手法って……?
前回、久々の定時退社で彼女とのデートを実現したイトウくん。そこで仕事の話をしてみると、なんと彼女は「その道」のエキスパートだったことが発覚!
純和風の居酒屋で軽く食事をした後、バーに寄って彼女の講義を聞きます。
さっきの話の続きなんだけどさ。“新たな管理手法”ってやつを教えてよ。
あら、新たな管理手法とはいってないわよ。“別の管理手法”っていったのよ。
うん、うん。それで……?
まずは“プロジェクト管理”よ。
えー。プロジェクト管理なら知ってるよ。本も読んだ。ただ、プロジェクト管理ってプロジェクトごとに管理する手法じゃない? 工場の中には、何百ものプロジェクトが同時に流れていて、そのプロジェクトを1件ずつ管理しても、結局いわゆるリソースというやつが競合しちゃってまったく使えないんだよねぇ。
そうね。よく知ってるわね。でも、まだ続きがあるのよ。イトウくんの工場は、複数のプロジェクトが錯綜(さくそう)している状態でしょ?
そうだけど?
従来のプロジェクト管理手法には、複数プロジェクトのマネジメントという観念がなかったの。それに元の期間を短縮するためにどうしたらいいかというアプローチや方法論もないし、予定は遅れるという前提でいかに遅れないようにするのかを問題にしていたものなのよ。
へーそうなんだ。すごいよ。
まぁワタシもまだ勉強中なんだけどね。つまりね、日本の製造業は、従来のプロジェクト管理手法とは違って、元の期間、つまり工期を短縮するためにどうしたらいいかっていうアプローチでカイゼンを行ってきたの。
イトウくん。ところで“リソース”の定義だけど、どんなものがあるの?
うちの工場の場合には、作業者・機械、それと作業場所がリソースかな。
ふぅん……。作業場所ってなぁに?
かなりの大物を製作してるから、作業する場所が問題になるんだよ。
そっか。そんな“制約”もあるんだね。
うん、それで?
まぁまぁ、せかさないで聞いてね。
にこっとしながらボクをなだめる彼女の目は相変わらず輝いています。
2つ目の手法は“カイゼンのアプローチ”よ。
えっ。えっと、よく分からないんだけど……。
カイゼンというアプローチで、まずは現状の工場の状態を理解することね。例えば、イトウくんがかかわっている製品のリードタイムはどのように決まるのかな?
えーっと……。各職場長が図面を見ながら工数を見積もるかな。
ふーん。じゃぁ、その図面がない場合はどうするのかな? 例えば受注とかプロジェクトの開始時点とか。そういった場合のリードタイムはどうやって決まる?
うーん、それは……。過去の同様の物件を参考にして、かな。
そうなるわよね。ところで、リードタイムの定義は?
すべての工数の合算だよ。いわゆるクリティカルなんとかで決まるんだっけかな。
あぁ“クリティカルパス”ね。でもそれだとカイゼンの糸口が見つからないわよ。
うーん。
なんだかもうボクにはさっぱり分かりません……。頭からケムリが出そうです。
んー、しょうがないなぁ。じゃっ、答えを教えてあげるね。リードタイムの定義はね。ものを製作する作業の時間と、それから当たり前だけど運搬などの時間もあるよね。それから“滞留”も考慮したすべての時間の合計っていうのが正解なの。
つまり、リードタイムが作業の時間の合計だという認識だと何もカイゼンに結び付かないのよ。停滞の認識があまりないということは、カイゼンの可能性がたくさんあるってことね。
そういうと、彼女はノートとペンを出して何かを書き始めました。
いままでの話を整理すると、イトウくんの職場の特徴は……。
【イトウくんの職場の特徴】
- 一品一様であり、作業時間を正確に見積もることは困難
- 経験的な工数算出は可能だが、作り直しが発生したり、設計変更が発生する
こういうことね。変更が発生したときの工数は事前に予測することは無理だよね。でも、すべての進ちょくが把握できていて、その進ちょく状況を反映して計画の組み替えがスピーディーにできればいいよね?
うーん。いっていることは分かるけど、具体的にはどうしたらいいのかはさっぱり分からないよ。
えぇっ! こんなに分かりやすく教えてあげたのに〜。
ちょっと怒り気味の声とは裏腹に、彼女の表情はますますキラキラ輝き出した! いまの話はさっぱりチンプンカンプンだけど彼女はかわいいなぁ……。
……と、ハナの下が伸びまくるイトウくん。いよいよ春の足音が聞こえてきた!?
筆者紹介
株式会社シムトップス
シニアソリューションアーキテクト
伊藤 昭仁(いとう あきひと)
個別受注生産の製造業向けの生産スケジューラ/工程管理システムの導入前の提案からシステム導入後の立ち上げサポートまで、広範囲の業務に従事。
国内主要自動車メーカの金型部門、工機部門、試作部門、半導体製造装置から原子力、火力、水力発電の設備や石油精製設備などのプラント設備まで、幅広い個別受注タイプの生産工場へ100社以上のシステム導入経験を持つ。
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