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世界が注目するEVベンチャー“テスラ”の実力は?知財コンサルタントが教える業界事情(2)(2/2 ページ)

EV関連技術の開発競争が熾烈(しれつ)を極める中、注目を集める米テスラ・モーターズ。一体どんなポジションを狙っている?

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テスラモーターズと出資企業との出願状況比較

 テスラモーターズと同社に出資しているダイムラー、トヨタ自動車、パナソニックのEV関連特許について出願状況を比較してみたいと思います。電気自動車の基本構成要素であるバッテリ、モータ、電力変換器、そしてEV全体のシステム別に各社の件数を算出しました(各企業の件数は本社がある国・地域の特許に基づいています。例えばトヨタ自動車であれば日本公開特許を対象にしています)。

図4 テスラモーターズと出資企業のEV関連公開特許技術分野別件数比較(テスラの検索条件は図2・3と異なっているため、件数に差異が生じている)
図4 テスラモーターズと出資企業のEV関連公開特許技術分野別件数比較(テスラの検索条件は図2・3と異なっているため、件数に差異が生じている)

 累積件数の実数ベースで見ると、トヨタ自動車がテスラやダイムラー、パナソニック+三洋電機を大きく引き離していることが一目瞭然です。特にEVシステムに関する特許出願は直近10年間で約5000件となっており、件数面では圧倒的な優位性を誇っています。バッテリ技術に強みを持っているテスラですが、件数面だけで捉えればダイムラーよりも少なくなっています。

 次に公開件数比率ベースで各社の技術分野別の注力分野を見てみましょう。テスラモーターズは全体の70%近くがバッテリ関連特許であり、ダイムラーやトヨタ自動車はEVシステムが全体の70%近くを占めているのと対照的です。

 事業的に成功を収めるために、特許件数の多さは必ずしも必要ではありません。重要な点は、「強豪がひしめく中で自社独自の競争優位性をどのように確保するか」にあります。その点でテスラは出資企業であるダイムラー、トヨタ自動車、パナソニック・三洋電機に特許件数面で遠く及びませんが、EVにおける基幹技術であるバッテリ技術でテスラ独自の競争優位性を築くことに成功したといえます。

テスラモーターズの日本公開特許

 テスラモーターズはEVを販売しているメーカーではありますが、日本で公開されている特許(下記)を見るとバッテリの技術開発に注力しているバッテリメーカーであるといってもよいかもしれません。

公報番号 発明の名称
特表2008-541386 電池を取り付け、冷却、接続および保護するための方法および装置
特表2010-528406 セルとの熱的接触を密接にするための最適化された冷却チューブ形状
特表2010-533361 故障したバッテリセルを非活性化する方法
特表2010-534053 コストおよび寿命に基づいたバッテリ充電
特表2010-534054 バッテリ充電
特開2010-108932 大型バッテリパック用の改良された熱放散
特開2010-165676 電気自動車のためのマルチモード充電システム
特開2010-200604 バッテリパック温度最適化制御システム
特開2010-200605 バッテリパック寿命を延長させるためのインテリジェント温度制御システム

分析仕様・条件

 本稿では、下記の分析条件で各社の動向を考察しました。特許データベースの使い方が分かれば、下記の条件検索パラメータを活用してご自身でも確認できます。調査方法は連載記事「自社事業を強化する! 知財マネジメントの基礎知識」で解説していますので、こちらも参照ください。

分析仕様・条件
データベース DEPATIS(ドイツ特許庁データベース)

分析条件
テスラモーターズおよび出資企業の出願状況比較 PA= "TESLA MOTORS"
EVシステム PA=(企業名) AND ICB=(B60L?) AND BI=(VEHICLE# OR CAR# OR EV#) AND PY=(2001 OR 2002 OR 2003 OR 2004 OR 2005 OR 2006 OR 2007 OR 2008 OR 2009 OR 2010) AND PC=US AND PCOD=A#
バッテリ PA=(企業名) AND (ICB=(H01M? OR H02J?) NOT ICB=H01M8/?) AND BI=(VEHICLE# OR CAR# OR EV#) AND PY=(2001 OR 2002 OR 2003 OR 2004 OR 2005 OR 2006 OR 2007 OR 2008 OR 2009 OR 2010) AND PC=US AND PCOD=A#
モータ PA=(企業名) AND ICB=(H02K? OR H02P?) AND BI=(VEHICLE# OR CAR# OR EV#) AND PY=(2001 OR 2002 OR 2003 OR 2004 OR 2005 OR 2006 OR 2007 OR 2008 OR 2009 OR 2010) AND PC=US AND PCOD=A#
電力変換器 PA=(企業名) AND ICB=(H02M?) AND BI=(VEHICLE# OR CAR# OR EV#) AND PY=(2001 OR 2002 OR 2003 OR 2004 OR 2005 OR 2006 OR 2007 OR 2008 OR 2009 OR 2010) AND PC=US AND PCOD=A#
企業名について テスラモーターズ:"TESLA MOTORS"
トヨタ自動車:TOYOTA
ダイムラー:DAIMLER?
パナソニック+三洋電機:MATSUSHITA? OR PANASONIC OR SANYO(1W)ELECTRIC


筆者紹介

ランドンIP合同会社 野崎篤志(のざき あつし)

1977年新潟県生まれ。
2002年慶応義塾大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻修了(工学修士)。
2010年金沢工業大学院 工学研究科 ビジネスアーキテクト専攻修了(経営情報修士)。
日本技術貿易株式会社・IP総研を経て、現在ランドンIP合同会社シニアディレクター(日本事業統括部長)。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、Webサイトe-Patent Map.nete-Patent Search.netやメールマガジン「特許電子図書館を使った特許検索のコツ」を運営・発行している。
著書に『EXCELを用いたパテントマップ作成・活用ノウハウ』(技術情報協会)、『知的財産戦略教本』(部分執筆、R&Dプランニング)、『欧州特許の調べ方』(編著、情報科学技術協会)、『経営戦略の三位一体を実現するための特許情報分析とパテントマップ作成入門』(発明協会)がある。



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