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市場変化に対応するための日本製造業の課題グローバルPLM〜世界同時開発を可能にする製品開発マネジメント(1)(3/3 ページ)

生産のグローバル化を超え、いまや設計・開発のグローバル化とローカライズが求められる時代。世界同時開発・市場投入で勝負をするために、日本企業が行うべきこととは

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問題1)販売先の市場ニーズの理解が不十分

 新興国を対象とした場合、現地の市場ニーズを把握し、それを商品企画に反映し、迅速に製品を立ち上げ、市場に供給していく必要があります。しかし、従来のバリューチェーンでは、国内で商品企画したものを海外市場向けにチューニングして販売する方式が一般的でした。かつて、国内と同じ白物家電や携帯電話を新興国で販売しようとして失敗した例からもそれが分かります。

 一方、日本の自動車メーカーがインドで現地メーカーと協業し、現地のニーズや低価格製品を投入することで成功しました。これは市場ニーズを理解し、商品企画とモノづくりプロセスを連携して成功した例であるといえます(※5)。

問題2)設計と生産の連携の悪化

 生産が海外シフトすることにより、設計と生産の地理的な距離が離れました。それにより、情報伝達のタイムラグ、設計・生産相互のコミュニケーションロス、生産現場のことを理解しない設計、海外への製品立上支援の定常的な高負荷、といった問題が発生するようになったといわれています。

 コミュニケーションロスの例を考えてみましょう。

 例えば、図面を紙で起こしていた場合、いくら空輸便を使ったとしても、国内拠点でやりとりする方法と比べ送付時間が発生しますので、国内に閉じて設計を行う場合と比較して数日リードタイムが長くなります。この問題を解決する方法として、TV会議などのコミュニケーション方法もありますが、重要なマイルストーンや意思決定時においては、顔を合わせてミーティングを実施する必要があります。実際に出張するには時間も経費も発生してしまいますが、いまのところ、生産拠点へのノウハウ移転や製品立ち上げのために、多くの国内技術者が海外の生産工場に出張したり、あるいは出向して対応しています。

 もう1つの問題である生産現場のことを理解しない設計とはどのようなものでしょうか。

 例えば、国内工場には大型のプレス機があるが、海外工場にはない、という事情を設計者が知らない場合、国内の生産設備を基準に設計することがあります。国内では生産できますが、海外ではそのままの図面では生産できませんので、海外の生産技術者が生産できるように図面を描き直す必要があります。このようなことが、製品の立上期間に影響を及ぼしています。

 製品立ち上げ期間の短期化が市場シェア獲得の重要因子となっている現在では、国内の設計技術者が海外の生産事情をよく理解し、設計に反映させる必要があります。設計と生産の距離が近いと、このようなことも解消されやすくなるのではないかと思います。

 変更要求に対する承認や変更実施においても、国内と海外現地法人を横断した変更ワークフローで処理する必要あります。組織を横断しているのですから、承認者も多くなり、リードタイムは長くなります。業務プロセスをシンプル化したグローバル企業との競争では、適切な権限委譲を含めて、グローバルで最適化した業務プロセスを設計する必要があるのです。

動き始めた本格的な開発設計の海外シフト

 これらの問題に対して、多くの日本製造業が取り組んでいるのが「今後」のバリューチェーンで表現されている、「海外での商品企画」と「海外設計」の実現です。

 某半導体製造業では、今後2年間で海外設計要員を倍増する計画を発表しました。従来、供給先の電気メーカーとの仕様調整は国内で行ってきましたが、ICや部品の種類が増え、作業が複雑になったことに加え、納期までのスピードも求められるようになったことが背景です。日系電気メーカーでは、現地に権限を与え、設計から製造までを行い、現地での決定権が強くなってきており、今後現地化・現地密着型の流れは加速するといわれています(※6)。

 しかし、拠点や国を横断した商品企画やコラボレーション設計を推進する際には、コード体系や開発プロセスが標準化されていないとなかなかうまく情報共有や活用ができません。日本の製造業では、拠点や事業別にコード体系や帳票、業務プロセスが違っていることが多く、人間系処理でそれらの差異を吸収しているのが実態です。グローバルPLMシステム(グローバルレベルで製品開発マネジメントを支援する技術情報管理システム)の導入のためには、コード体系の統一や開発プロセスの標準化が前提となります。

 次回以降、これらの課題に対する日本製造業の新しいバリューチェーンを実現するためのモノづくり戦略の実施例についてご紹介していきたいと考えています。

【参考文献】

1:2010年版ものづくり白書(経済産業省、2010年6月)
2:「豊富な経済活力を備えた10大都市」(日中通信社『月刊中国NEWS』2010年7月号)3:中国洗濯実態調査 第I報(花王、2010年7月30日)
4:中国上海におけるアルミサッシ構法に関する現状調査 : 中国におけるサッシ・カーテンウォールに関する研究(海外各部構法・宇宙、建築計画I、『日本建築学会大会学術講演集』2007年8月)
5:「日本製品の競争力の源泉」(『日経ものづくり』2010年3月号)
6:「ローム 海外の設計拠点強化…人員倍増、2年で300人」(『読売新聞』2010年4月6日)


筆者紹介

三河 進(みかわ すすむ)

三河 進(みかわ すすむ)

NECコンサルティング事業部
http://www.nec.co.jp/service/consult/services/07.html

NCPシニアビジネスコンサルタント
システムアナリスト(経済産業省)
全能連認定マネジメントコンサルタント
PMP(米国PMI)

精密機械製造業、PLMベンダ、外資系コンサルティングファームをへて、現職。
専門分野は、開発設計プロセス改革(リードタイム短縮、品質マネジメント、コストマネジメント)、サプライチェーン改革(サプライヤマネジメント)、情報戦略策定、超大型プロジェクトマネジメントの領域にある。

自動車・電機・ハイテク・重工などのPLM・SCMに関する業務改革プロジェクトに従事中。

論文「モジュール化による設計リードタイムの大幅短縮」で平成20年度の全能連賞を受賞。

おことわり

本記事は執筆者の個人的見解であり、NECの公式見解を示すものではありません。




世界同時開発を推進するには?:「グローバル設計・開発コーナー」

 世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。



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