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ドライバーを事故から守る車体制御の仕組みいまさら聞けない シャシー設計入門(10)(2/2 ページ)

今回は、安全運転をサポートするトラクションコントロールシステムやアクティブセーフティー機能について解説する。

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アンダーステアの制御

 次にアンダーステア制御を見てみましょう。

アンダーステア発生
図3 アンダーステア発生

 上のイラストは右旋回時にオーバースピードなどで車体前方が左方向に横滑りした状態です。

 この状態は運転手がイメージした旋回円よりも大きな円となる、つまりハンドル操作に対して車が曲がらずにどんどんコーナー外側に膨らんでいく状態です。これを「アンダーステア」といい、感覚的には「ハンドルを切っても曲がらない!」という状態で前輪駆動車に発生しやすい現象です。

 基本的には前輪のグリップ力を超過した「ハンドル切れ角・速度・ブレーキ」の合算による現象ですので、ハンドルをあえて少し戻した、あるいはアクセルを弱める、ブレーキを弱めるという操作によって回避できます。もちろん一瞬の判断で行わなければいけませんので、非常に難しいですね。

 このとき、横滑り防止機構の制御は右後車輪にのみブレーキをかけます。

アンダーステア制御
図4 アンダーステア制御

 これによって車体に時計回りのモーメントが発生します。左旋回の場合は左後車輪にのみブレーキをかけるということです。

関連リンク:
横滑り制御のしくみ:アンダーステア(本田技研工業)分かりやすい動画です

 旋回時に急ブレーキを踏んだ場合などもスピンの原因となりますが、その場合は外側車輪をメインにブレーキ力を配分させることで安定したブレーキを行うことが可能となります(右旋回の場合は左前後車輪)。

 上記のように、車体の挙動の乱れに応じて最も安定させる制御を瞬時に判断し、運転手の判断だけでは回避することが難しい場面でも事故を未然に防ぐことができるのです。

アクティブセーフティー機能

 耳にする機会が多くなった「アクティブセーフティー機能」は、車側で人間の能力では回避できない領域を少しでもカバーして事故を未然に防ぎたいという発想(予防安全)になっています。先ほど説明したTCSや横滑り防止装置、ABSなどはその代表ですね。

 最近のテレビCMで画期的なシステムとして注目を集めている富士重工業(スバル)の「EyeSight(アイサイト)」は既にご存じ、あるいはご覧になった方もいると思います。

 EyeSightは居眠り運転などによる前方への追突を防ぐため、前方の障害物を検知した車体側が「これ以上ブレーキを踏むタイミングが遅れたら追突する!」ということを察知し、自動的に急ブレーキをかけてくれるというシステムです。

 もちろん速度によっては追突を避けられない場合もありますし、「ブレーキを踏まなくても車が勝手に止まってくれる」といった運転放棄を促すシステムではくれぐれもありません……! あくまでもアクティブセーフティーの一環として、万が一のときに「何もないよりは安全確保がされています」という認識でとらえましょう。

 実はこの手のシステムは数年前から登場しています。EyeSightのような追突防止はもちろん、道路上の白線枠(車線)を認識して自動的に走行レーンをキープしてくれるシステムもあります。

 限度はありますが、ちょっとしたカーブでも勝手にハンドル操作を行ってくれます。これは高速道路などでオートクルーズシステムに連動し、居眠り運転などで走行レーンからはみ出さないように車体側が補正してくれるのです。もちろん車間距離を設定し、自動的に一定間隔を保って前車を追従してくれるシステムもあります。

 最近のナビでは、睡魔に襲われて車が左右にふらついているだけで、

 「車がふらついています。ご注意ください!」

といった音声案内を行ってくれるものも登場しています。

 つまりアクティブセーフティーは事故防止のために技術的にカバーできることは徹底的に対策しようという最新技術の集合体ともいえます。しかしアクティブセーフティーの技術が進化したからといって事故がなくなるわけではありません。

 最新技術を搭載しているからムチャな運転をしても大丈夫! ……ということは絶対になく、基本は運転手による安全運転がベースです。そのうえで、万が一の際に車体の挙動をある程度カバーしてくれる技術がアクティブセーフティーということです。

 既にいまの技術を持ってすれば自動運転も不可能ではなくなってきていると思いますが、「万が一事故が発生したときの責任はどこだ?」といった問題も発生しますので、そう簡単には自動運転化というのは実現しないと思います。

 アクティブセーフティー技術はもちろん、衝突時に働くエアバックシステムなどで万が一のときに人を守る技術というのはこれからもどんどん進化していきます。

 しかしそのような技術があるからといって運転に対する姿勢を変えてしまっては無意味です。「運転する人が常に安全運転を心掛けること」が最も事故防止に効果がある、という基本を忘れてほしくないと筆者は心から願っています。



 次回はパワーステアリング装置について解説する予定ですのでお楽しみに! (次回に続く)

Profile

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



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