設計者CAE議論は終わらない:メカ設計 イベントレポート(14)(1/2 ページ)
3次元CADユーザーたちが自発的に集い、長野で日本のモノづくりの将来を議論するイベントを開催。設計者CAEについても語られた
2010年7月24日、長野県岡谷市で「SolidWorks Club of NAGANO 2nd Impact」が開催された。
このイベントのユニークなところは、あくまでSolidWorksのユーザーが自発的に集まって行われていること。しかも、日本国内のSolidWorksユーザーの中で、このような盛り上がりを見せるユーザーグループはSWCN(SolidWorks Club of NAGANO)ぐらいとのこと。定期的な飲み会も行われ、日本のモノづくりの今後について語り合う。
彼らの間でも、やはり設計者CAEに関する話題は非常にホット。本イベントでも、設計者CAEを語るセッション「解析マラソン2 解析は本当に会社のためになっているのか? 解析推進のための議論」(「解析マラソン1」は、CAEの基礎講習会)が設けられ、熱い議論が展開された。今回のレポートでは、その内容の一部をお伝えする。
このセッションは、GAC 新空調事業部 技術支援室 南山(みなみやま)雄一氏が中心となり、上田日本無線 無線通信ビジネスユニット 無線通信機構設計部 坂井 希世志氏とともに取りまとめた(ベンダ各社も議論に参加した)。
お疲れ日本に、元気を
「中国は3次元データを作ると、その2時間後には型を彫り始めるといいます。一方僕らは、まず図面を描いて、DRして、と……そんな状況で戦えるとは思えません」と南山氏はいう。
「中国の企業がなぜ強いか。彼らは、過去のしがらみが一切なく、最初から最新の技術を使い、一からインフラ環境を築き上げているからだと思います。一方、最近の日本は、なるべく製造工程を自動化して頑張ってきましたが、省人化による人件費抑制もそろそろ限界に来ています。ここ数年、組織力も設計スキルも落ちてきています」(南山氏)。新興国のスピードに追いつくため、日本では設計・製造のマニュアル化を進めてしまい、差別化できる技術の開発を怠ってしまった。
日本モノづくりにとって脅威となっているアジアの新興国――「世界の工場」への対抗手段の1つがCAEだ。従来の設計手法の完全なる刷新とまではいかなくても、その+αの要素としてCAEを活用していくことが大事ではないかと南山氏は述べた。
「究極なイメージですが、設計者自身の作業はより創造的なことに、非生産的な作業はITに任せる。そのための1つの方策としてCAE活用があると思います。本来3次元CADやCAEでビジネスが、元気にならなきゃいけないはず。それが逆に、それらが僕ら製造業のエネルギーをそいでいるのではないかとも思います」(南山氏)。
3次元CADにしても、CAEにしても、モチベーションアップ(元気)になる方向に運用しなければ! そんな思いを胸に、南山氏は、日々のモノづくりIT推進業務にまい進している。
CAEの費用対効果とは?
稟議(りんぎ)書には、その対象となる物品やサービスの費用対効果の具体的な明示を要求される。しかしCAEの場合、これが非常に悩ましい。当然、CAEを導入したからといって、即、利益が倍になるわけではない。
ソフトウェアのベンチマーク結果や、開発期間短縮の予測提示のデータでは、開発現場にいない経営者にとってはピンと来づらいだろうし、正確なジャッジをするのも厳しい。
CAEの導入について、費用対効果を定量化することは至難の業。例えば外部のセミナーでCAE導入に関するさまざまな成功事例を聞いても、自社で同じようにやってみるとうまく効果が出ないことが多くある。そのことから分かるように、CAEの導入効果の出し方は企業ごとにそれぞれである。
ここで大事になるのは、「自社でCAEを導入する目的が、何なのか」。そこがまず明確でなければ、定量化の道は遠い。
ひどいと、「何となく効果ありそうだし、CAE買っちゃう?」と、導入自体にあまり真剣でないケースも。これは言語道断。そうだとすると、うまく説得できるはずはない……。また、社内でCAE導入への前向きな理解が徹底的にない場合も、相当厳しい。
経営層へ向けた具体的で説得力のある資料が整ったとしても、推進担当者が説明下手であればアウト。説明上手な担当者が当たったとしても、現場と経営層との間の思いがすれ違っていれば、稟議は通ることはない……。
CAE導入の稟議を通すだけでも、これだけの壁が存在する。
SWCNメンバーのCAE導入 知恵袋
坂井氏は、SWCN会員を対象にしたアンケートの結果を紹介した。そのうちの1つ、「CAE導入の稟議を通した理由」として、以下のようなコメントが集まった。
- ベンダ主催のセミナーなどに出席して事例について学習し、「他社はとっくに導入して、効果を上げていますよ!」と、上司に切迫感を持って伝えた
- 役員クラス(経営層)とコ(ノ)ミュニケーションを強化した
- 導入効果について、熱い心で説得し続けた
- 景気のよいときに買った
- 買い足しの場合なら、「新商品が成功するカギは、CAE! だからもう1本買って!」といい切った
- 「CAEがないと、新商品開発ができない」といい切った
大きく、「用意周到なケース」「強引に押し切ったケース」に分かれた。
「役員とコ(ノ)ミュニケーションが効いた」というコメントについては、「企業の経営層と仲良くなってしまえば、導入効果を説明した後、買ってもらえるケースがあり得る」と、坂井氏の発表に対しコメントしたベンダスタッフもいた。
「役員とノミュニケーション」と単純にいえば、あまり肯定的にとらえない方も中にはいるかもしれない。確かに、それがすべてになってしまったら、問題かもしれない。しかし、「良いモノづくりをして、自社を元気にする!」という1つの目的を見失わず、それを達成するための1つの道としてなら、ありだ。
CAE導入推進者は、導入目的を明確にしたうえで、決裁権のある上司と思いをシンクロさせることが肝だといえる。
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