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設計のねじれプロセスを正しCAEの浮島を築くMONOistゼミ レポート(4)(2/2 ページ)

解析部門と設計部門との間に置く“浮島”における最重要キー“仮想実験室”に、PCクラスターのパワーは不可欠である

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3限目『設計者CAEとHPCのコラボレーション』
講師:キャドラボ 取締役 栗崎 彰氏

 「1限目、2限目は、コンピュータサイエンスな話でしたが、わたしはもう少し泥くさい現場的な話をしましょう」――栗崎氏の講演はこんな一言から始まった。

 設計者が解析をするニーズは確実に高まっていると栗崎氏はいう。それなのに、設計者は材料力学や有限要素法に関する知識が欠落しているとも(設計者の解析教育については、過去のゼミナール記事「設計者がCAEを成功させる10の方法」をご覧ください)。知識を系統立てて習得する場もないことも大きな問題だと同氏はいう。

 もう1つの問題は、解析結果を判断するための十分なデータ(材料定数や安全率の制定など)が整備されていないこと。これらのデータは会社側、もしくは解析専任の部門が整備すべきだが、残念ながら成されていない。しかも、この問題が比較的大きめな会社に多かったという。


あなたは分かりますか?:解が得られても、その改善の方向が分からなければ設計者として失格

 それから、いまの設計者はとにかく多忙で時間がない。その原因の1つとして、近年の3次元CADの普及を指摘した。

・リコール数と3次元CADの普及

 7月9日開催のMONOistセミナーは、栗崎氏も聴講していた。セミナー終了後、栗崎氏は当日の講演者だったMSC加藤氏からこんな話を聞いた。

「栗崎、面白いこと教えてやるよ。インターネットでさ、国土交通省のホームページ行ってみ。(日本国内の自動車業界における)リコール数が出てるから。それとさー、3次元CADの導入率っていうグラフも出てるぞ」(加藤氏)。


加藤

そんないい方してないよ……


栗崎

そんなチンピラみたいないい方してなかったですね。もっと高尚に……『キミ、インターネットにこういう(グラフの)データがあるから、このグラフに、重ねて、みたまえ』と……


※ MONOistゼミでの実際の会話です


キャドラボ 取締役 栗崎 彰氏

 上記のようにグラフを作ってみると、「3次元CAD導入したことで、リコール率が上がっている」というデータになる。

 「確かにこういう見方もあるな、と。ほかにもいろいろ原因はあるかと思うのですが」と栗崎氏。

 「3次元CADが普及したことで、リコール数が増加」――これは最近、さまざまな方面から聞かれる意見である。 この問題は、本来の設計順序と大きく変わってしまっていることが起因していると栗崎氏。以前は、構想図については検討会で話したいところのみ詳細を描き、あとは略図で示してきた。その構想検討から、自分が主にどこを抽出して設計すればいいか明確にし、詳細設計を進めていく。

 ところがいま、2次元CADや3次元CADで、まるで完成図のような構想図……もとい詳細図を作ってしまう。つまり詳細図作りに時間をかけてしまい、しかもそれが終わらないと構想検討ができない。「略図だとさぼっていると思われてしまう、ということが実際にあるようです」(栗崎氏)。そのような、ねじれてしまった設計プロセスを問題視し、正すことも大事だという。

・解析専任者の事情と、溝

 一方、解析専任者が恐れていることは、(先述したように)技術的知識が欠落した設計者が勝手に解析されること、彼らの勝手なルールを解析結果に織り込んで一般化されてしまうこと。実験との誤差が数パーセントという解析精度の実績を誇る彼らは、設計者によってその信頼を汚されたくないと思っている……ともいう。

 だが、解析専任者たちの理解と協力がなければ、設計者は永遠にCAEやHPCの恩恵を得ることはできないと栗崎氏は述べた。

 栗崎氏は、過去の講演で設計者と解析専任者の間にはびこる溝について言及してきたが、「その溝は埋まりません」と断言。その代わり、両者の溝の間に「バーチャルアイランド(バーチャル浮島)」を置けばいいと提言した。その島を行き来するには、「手形」が必要となる。


設計者と解析専任者のための「浮島」 概念図

 設計者にとっての手形は、「解析結果を判断するための材料力学や有限要素法の最低限の知識(線形解析の範囲でよい)」。最低限の技術知識がなければ、CAEは使ってはならないことにする。

 解析専任者にとっての手形は、「設計者が正しい解析を行える環境(バーチャル実験室)を構築する」。つまり、現実世界の実験をバーチャルでリアルに実施できる環境を整備すること。

 このバーチャル実験室構想には、HPCのパワーが手助けとなるが、「設計者がHPCの面倒を見るのは事実上無理です」と栗崎氏はいう。アプリケーションの並列化、負荷分散などコンピュータサイエンスの知識が必要となり、専門が異なる設計者にそれを期待することは厳しい。

 ある自動車メーカーでは実際に“仮想実験室”の取り組みが行われているとのことだ。「実験室の裏では、ABAQUSが流れていようが、MARCが流れていようが構わない。とにかく(仮想実験室を利用することで)設計者が欲しい情報が取れ、精度よく設計ができるようにする。そんな環境を用意するのが解析専任者の仕事です」(栗崎氏)。

4限目『富士通のPCクラスタへの取組み』
講師:富士通 プラットフォームビジネス推進本部 PCクラスタビジネス推進室 営業支援グループ プロジェクト部長 浜崎 正昭氏


富士通 プラットフォームビジネス推進本部 PCクラスタビジネス推進室 営業支援グループ プロジェクト部長 浜崎 正昭氏

 浜崎氏は、HPCの歴史に触れながらPCクラスタの特徴や性能の基本について述べた。最後には、富士通製品やサービスについても紹介。

 同氏はPCクラスタの特徴について以下の4つにまとめた。

  • ハードウェア、ソフトウェアともに汎用品を利用可能なためコストが抑えられる
  • 高性能化が著しい市場の製品を取り入れるため、高い計算機能を維持できる
  • 予算や用途に応じ、規模を自由に拡大縮小可能
  • 数多くのISVアプリケーションが利用可能

 PCクラスタの性能の基本としては、

  • PCサーバの単体性能
  • 並列計算を実行することによる性能

の2つの要素に大別できると説明した。単体PCの性能を高めるためには、とにかく速いCPUを選定すればいいわけではない。CPUの高速化とともにメモリバンド幅が大きくなければ、処理すべきデータ供給が間に合わなくなり、メモリネックが発生してしまう。

 またマルチコアCPUの場合、コア数が増えるごとにライセンス費用が掛かる。ハードと比較するとその費用が占める割合が結構多くなってしまうため、注意したいとのことだ。「わたしどものお客さまからは、ハード費用が1だと、アプリケーション費用はサポートも含めて3だという話も聞きました」(浜崎氏)。コア数を増やしたからといって、望む性能が得られるとは限らない。コア数を抑え、ノード数を増やした方が性能を得られるケースもあるとのことだ。

 並列計算を実行する場合、ノード数が増えることで通信量が相対的に増えていくため、高性能かつ高速なネットワークを利用しなければ、通信遅延が起こる。そういった場合には、InfiniBandなどの採用が有利だと浜崎氏は説明した。

 最後に、ハードウェアだけでなく、ミドルウェアやアプリケーションなど、動作するために必要なすべてのシステム構成を検証済みの状態で顧客に納めてくれるPCクラスタ製品(PCクラスタおすすめ構成「Quick Start Suite」)について紹介。「流体解析・電磁場解析」「衝突解析・落下解析」「構造解析・非線形解析」といった解析分野別に適したシステム構成も用意しているとのことだ。


解析分野ごとのメモリ容量やI/O性能

 HPCの世界は、奥が深い。設計現場でそのマシンパワーを余すところなく利用するには、解析専任者の協力が不可欠だ。「ねじれた設計プロセスを正常に」「思想が大きく異なる設計と解析の部署間に浮島を設けよ」……組織の考え方や慣習を大きく変えるには、やはり経営層の理解を得ることが重要。しかしそれは、そう簡単にはいかないこと……。ただ、いまの日本製造業は、「それでも、やるしかない」という奮起の時期であることも間違いない。

 次回は、設計現場の事情により深く切り込んだパネルディスカッションの内容を紹介する。

栗崎彰氏講演のプレゼンテーション資料はここからダウンロードしてください(PDF)。



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