続・ブレーキってどうなっているの?:いまさら聞けない シャシー設計入門(8)(3/3 ページ)
前回説明し切れなかったブレーキの構成部品についての解説。ブレーキキャリパやキャリパピストンなどにも、工夫がたくさん。
ブレーキディスク
ブレーキディスクは「ブレーキローター」とも呼ばれ、自動車では鋳鉄製のものが主に使用されます。雨に直接触れやすい2輪用ではステンレス製のものが主に採用されます。超高温域での使用が求められるレースやスポーツカーではカーボン製*のブレーキディスクが採用されていますが、制動力を発揮できる温度域が決まっているために取り扱いが非常に難しいとされています。*炭素繊維強化炭素複合材料
ブレーキは運動量を摩擦によって発生する熱エネルギーに変換しますので、当然のことながらブレーキパッドとブレーキディスクは瞬間的に数百度という温度に達します。熱はブレーキディスクへのひずみや熱係数の変化による制動力の低下、ブレーキフルードの沸騰(ベーパロック)の原因となりますので、少しでも早く冷やしたいところです。
そこでブレーキディスクは放熱性を向上させるため、2枚のディスクを合わせ、その間に多数のフィンを設けた「ベンチレーテッドディスク」(写真7)が主に採用されています。
ほかに放射状に溝を施した「スリットローター」があります。ブレーキパッドとブレーキディスクとの間に発生する摩耗粉やガスなどを効率よく排出し、常に良いコンディションで制動を行えるようにしています(写真8)。
2輪では軽量化に加えてスリットローター同様にブレーキパッドの摩耗粉などを効率よく排出するために全周にわたって小さな穴を開けた「ドリルドローター」があります。ドリルドローターは2輪に限らず自動車でも採用されることもあります。
また鋳鉄製では免れない瞬間的な熱ひずみに対応するため、内周と外周とをピンで接合して熱を受ける外周を内周から一定の隙間を保って切り離した「フローティングローター」があります(写真9)。
ブレーキ強化のために「ブレーキキャリパを大型・多ピストン化」する方がいますが、これはつまり前回説明したパスカルの定理に基づいたものです。
ブレーキホースという非常に小さい面積からブレーキキャリパ(ピストン)へと面積が大きくなりますので、油圧は数倍になります。このときに広がる面積が大きければ大きいほど制動力は向上しますので、ブレーキキャリパを大型化(多ピストン化)することは理にかなっているといえるのです。ブレーキディスクの大径化は受け取れる熱容量が増えるため、安定したブレーキ性能を維持することにも貢献します。
ただしブレーキシステムに限らずエンジン出力向上でもいえることですが、結局それらの力は全て路面に設置しているタイヤの性能次第です。
タイヤ性能が良くなければ、せっかくのハイパワーエンジンも大容量ブレーキシステムも全く役に立たないことになります。少し例が古くなりますが、どれだけ俊足なカールルイスでも靴が路面を全く捉えられないツルツルの状態では速く走れないということです。
逆にタイヤさえ良ければトータル性能が飛躍的に向上するともいえます。スポーツ走行を頻繁に行う方にとっては当たり前のことですが、意外と一般的なユーザーはタイヤを軽視しがちです。どれだけABSや車体制御装置が発達していても、タイヤが劣化しているだけで自動車は安定して停止できません。
次回はABSなどの制御装置について説明しますが、自動車は全てタイヤが鍵を握っていることをあらためて再認識していただければと思います。それでは次回もお楽しみに! (次回に続く)
Profile
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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