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日系製造業 中国進出の歩みと変化いま知っておくべき中国の製造業事情(1) (3/3 ページ)

日本企業の中国進出を支援してきたベンダ企業が見た中国本土の製造業事情とは? 日本企業、中国企業の違いや市場の変化などを事例を交えて紹介していきます。

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「売れるものを作る時代」から「売れる国で売れるものを作る時代」へ

 手前味噌(みそ)になりますが、筆者がかかわる生産スケジューラはすでに日本の市場では十分なシェアを獲得しました。

 市場となる工場数が少なくなっていく現状は、海外に活路を見いださなければなりません。

 その場合、それぞれに日本とは事情の異なる世界を相手にすることになるので、同じビジネスモデルは通用しないといえます。

 筆者のかかわる製品も、中国では日本の価格で販売することが難しいのが現状です。仮にインドの市場に目を向けたとすると、中国以上に低価格で提供できなければ比較検討の俎上(そじょう)にも載らず、商機はないといっても過言ではないでしょう。

 当社の場合、工場数が多い国=当社の製品が多く売れる可能性がある市場となるが、個別の地域では、発展のスピードもコストの上昇も一律ではないので、同じ方法では売れないという事情も考慮しなければなりません。

「売れるもの」とは何か

 簡単にいってしまえば、その国のマーケットに合った製品であり、時宜を得たものとなりますが、現実はそれほど単純ではないようです。

 以前に日本の携帯電話メーカーが次々に中国市場に進出したもののマーケットシェアを獲得できずに撤退していったことがあります。その時代には日本の消費者が好む携帯電話の多機能性が、中国では受け入れられなかったことが主な原因といわれています。ところが現在はどうでしょうか? いまは、中国の消費者が多くの機能を求めるようになり、結果として多機能なシャープ製に代表される日本製の携帯電話がよく売れるようになってきているのです。



いまをどう考えるか

 当社のようなソフトウェア製品も同様で、日本の工場で受け入れられる価格と機能が中国市場では受け入れられないものも多くあります。また、日本の製造業とは異なり、中国国内の工場の管理面での進歩は、各社によりまちまちで同期していないため、それぞれにニーズが異なります。

 このため、低価格・単機能のシステムを希望する企業がある一方で、そうでない顧客も多く存在します。少し乱暴ないい方をすれば、日系製造業にはきめ細かなニーズに対応した高度なシステムを、中国現地の製造業には、単機能な製品から積み上げていく傾向があるといえます。それを裏付けるように、当社の場合も同一製品で機能を絞り、企業の成長に合わせてオプションを提供していく製品シリーズを発表してからは、比較的多くの中国の製造業に受け入れられています。

 また、地理的に離れた日本にいては、中国というスピードの速い市場の「いま」はつかみにくいのが現実です。中国は政治形態として実質的に一党独裁体制であることから、国としての意思決定とその追行が非常に迅速かつ大胆に行われるという特徴があります。例えば一昨年のリーマン・ショック後の政府の不況対策の内容を見ても迅速で大胆です(注3)。


注3:世界同時不況となった2008年末以降、外需が急速に鈍化したことを受け、約4兆元の財政支出などの景気刺激策を決定、加えて家電や自動車購入に対する補助金交付など、消費喚起と産業振興策を同時に実行することで実質GDP8%を維持する政策を打ち出した経緯があります。



参考:丸三証券投資部作成の「スポットニュース:内需主導への移行で成長高まる中国経済」(2009年11月24日)などでその概略がレポートされています。


 良くも悪くも強い政治的リーダーシップによって景気刺激策を直ちに実行できるため、日本のように複数の利害関係が衝突することによる「足の引っ張り合い」ばかりで意思決定が遅れるリスクがない半面、状況の変化に応じてルールが変化していくため、リアルタイムに情報を得続ける必要があります。

 当社も上海に法人を置いていますが、現地にいて現地の情報をリアルタイムに把握しアクションできる体制が、この国の「いま」に対応するためには、不可欠です(前述した、日本人コミュニティにおける情報交換はこの意味で非常に重要なのです)。

まとめ

 ここまでで、「日系製造業の中国進出の変遷(へんせん)」というテーマから、過去と現在、そして未来を予測してきました。

 ここで、もう一度、主題に戻って、まとめてみましょう。

  • 中国企業では生産管理や生産スケジュール管理への対応に大きなばらつきがあるため、サプライヤの納期精度のバラツキも大きい
  • 現地スタッフにノウハウの開示を要請するにはインセンティブなど、担当者のモチベーション付けが重要
  • 日系製造業の多くは、ノックダウン生産から中国国内販売へ、さらに将来は海外輸出の拠点となっていくことが想定される
  • 工場の可視化を達成するためには成功工場をじかに見学させるなど、変革の必要性への理解を促す必要がある
  • これからの中国工場では安価な人件費に頼るのではなくグローバル展開を視野に入れた標準化が必須
  • 政治主導で時々刻々と変化する現地市場のルールをキャッチアップするための情報網を重視する。このためには現地の日本人同士のネットワークを活用する必要がある
  • ダイナミックな変化に対応するために、過去をベースとしたカイゼンよりも予測が重要

 世界中の製造業を支援するためには、当社も世界企業とならねばなりません。しかし、言語も国情も違う国々で日系製造業の顧客をサポートしていくためには、グローバルなアライアンスネットワークが必要です。インターネットの発展は、ネットワークを利用しての製品デモや電話会議を可能にしました。世界に展開する日系製造業の組織人員がグローバルであるように、当社社員も日本人と海外の方が、半数ずつ在籍しています。支店には、日本語と現地語を話す人員を配置しています。ソフトウェア製造業である当社も同様に現地化という課題に対峙(たいじ)しています。

◇ ◇ ◇

 今回は、あくまでも当社の経験の範囲内で、日系製造業の中国進出の変遷を、10年前にさかのぼって考察してきました。

 次回は、まさに、中国のいま、日系製造業が置かれている現状の課題「中国国内生産・市場提供に推移するための障害とその解決」をテーマに、より具体的な事例を交えて紹介していく予定です。当社も昨年から、北京での製品開発・上海法人による中国現地の製造業への製品販売という課題と向き合ってきています。ハードウェア・ソフトウェアの違いがあるものの、お互いに現地生産・現地販売を軌道に載せるために努力している製造業の皆さまに役立つ連載になればと考えています。

 今回は、テーマ上、当社ユーザーのアンケート結果などを基に言及したため、汎用的な内容になりましたが、次回からは、具体的なお客さまのヒヤリング結果を基に、「生々しい」話題を伝えていきます。最終回には、中国のグローバル企業で、非常に有名な会社のインタビューを掲載する予定です。ご期待ください。


著者略歴

アスプローバ株式会社
上海総経理 藤井賢一郎(ふじい けんいちろう)


日本の半導体工場にて製造管理システムを構築。ユーザーSEの経験を生かして、生産管理パッケージソフトウェアの営業として、一貫して製造業のお客さまに基幹システムを提案。Asprovaでは、パートナーのコンサルタント営業時代に、日本・中国を含む300社のお客さまに生産スケジューラを導入した経験を持つ。




海外の現地法人は? アジアの市場の動向は?:「海外生産」コーナー

大手だけでなく、独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。




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