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ASICとFPGAの対比で見る“転換点”FPGA Watch(2)(1/2 ページ)

ASICとFPGAが迎えた本格的な転換点とは? 双方の特長を踏まえたうえで、半導体製造プロセスにおけるテクノロジ・ギャップについて解説する

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 おととし(2008年)の秋以降、産業界、特に“モノづくり”分野にとって大変厳しい経済状況が続きました。その結果、当社が属する半導体業界も売上金額では、大変つらい思いをしました……。

 ところが、昨年(2009年)末あたりから、受注件数が回復の兆しを見せはじめ、開発案件も徐々に増えつつあります。そして、以前にも増してFPGAに対する関心が高まり、本格的にFPGAの採用を検討しはじめるお客さまが、より一層増えつつあることを実感しています。

 こうした新しいFPGAユーザーの方々のバックグラウンドはさまざまですが、大きな流れとして、“ASICまたはASSPからFPGAへ移行する”というパターンが多くなってきているといえます。連載第1回「いま振り返るFPGA普及・発展の歴史」の後半部分で、少しだけASICとFPGAの対比について触れましたが、今回はその部分(ASICとの対比)に焦点を当てて、もう少し掘り下げた内容を紹介したいと思います。

ASIC、ASSP、FPGAのそれぞれの利点

 ASICとは「Application Specific Integrated Circuit(IC)」の略です。和訳すると「特定用途向けIC」です。一方、ASSPとは「Application Specific Standard Product」の略で、和訳すると「特定用途向け標準製品」となります。

 広義のASICはASSPも包含すると考えてよいのですが、狭義のASICは“特定顧客向け”を指すのが一般的です。つまり、ASICは「カスタム品」、ASSPは「特定用途向けの市販品」というわけです。いずれにしても、さまざまな用途に広く使用できる“汎用品”ではありません。能動的に動作するもので汎用品と呼べそうなものに「マイクロプロセッサ(MPU)」「DSP」「マイコン」などがありますが、細かくいえばMPUもサーバ用やノートPC用といった区別がありますし、さらにDSPやマイコンも使用用途に合わせてI/O機能を変えた多くの品種があります。

 つまり、実際には「大なり小なり特定用途向けになっている」といっても差し支えないでしょう。実は、特定用途になればなるほど、その機能をFPGAで実現する利点が際立ってくるのです。表1にASIC、ASSP、FPGAのそれぞれのメリットとデメリットをまとめました。

メリット デメリット
ASSP ・標準品であるため開発コストが不要 ・標準品のため、製品の差別化が困難
・ASSPベンダ依存の危険性(入手性、機能セット、スケジュール)
ASIC ・カスタム品(最も自由度が高い)
・チップ単価が低い
・性能、消費電力を最適化しやすい
・開発コストが大きい(マスク、開発ツール、IPライセンス)
・開発期間(Time to market)が長い
・開発リスク(仕様変更、設計ミス)
FPGA ・カスタム品。開発コストが低い
・開発期間(Time to market)を短縮
・開発リスクが低い(プログラマブル)
・単価、性能、消費電力のトレードオフ
表1 ASIC、ASSP、FPGAの比較

ユーザーにとってのASICの問題

 今日、ASICやASSPが持つそれぞれの利点が、ユーザーにとっての利点として効力を発揮する場面が非常に狭まってきました。

 これまでは、半導体製造プロセスの微細化に伴い、「コスト低減」「性能向上」「消費電力低減」といった製品レベルからの要求に応えてきました。しかし、プロセスの微細化は、そのまま「開発費の増大」につながり、その投資を回収するためには莫大な「量産数量が必要」となり、携帯電話端末やゲーム機などのボリュームが見込める一部の市場を除き、ASICによる製品化は事実上不可能になってきているのです。

 例えば、90nm CMOSプロセスでASICを開発する場合、半導体設計のマスクや土台となるウエハなど、1回限りの費用(NRE:Nonrecurring Engineering)は1億円前後といわれています。しかし、開発にかかる費用はそれだけではなく、開発用のEDAソフトウェアの費用だったり、設計全般にかかる工数(エンジニアの人数と時間)の費用も必要だったりします。これらをトータルすると1プロジェクト当たり30億円の投資になるという試算も出ています。

 仮に、売上額に対する開発投資比率を13%に設定したとすると、売上額の目標は30億円÷13%=230億円になります。230億円の売り上げを上げるための市場規模は、例えば市場シェアの目標を10%に設定したとすると、230億円÷10%=2300億円の市場規模が必要だということになります。これでは「ASICによる製品開発、事業展開に限界がある。仮に実行しても市場シェアは小さく、利益率も悪い」という悪循環に陥るでしょう(図1)。

ASIC開発費に対して必要となるビジネス規模
図1 ASIC開発費に対して必要となるビジネス規模

 実際のところ、ASICでデザイン数の多数を占めるプロセス・ノードは、2003年以降130nmのままという調査結果があります(アルテラ調べ)。

 では、古いプロセスを継続使用することで開発費を抑え、かつFPGAよりも低い単価で展開するのはどうでしょうか。この方法で展開している領域ももちろん存在します。しかし、過去に開発したASICを使い回し、FPGAで機能追加する方法ですと、新しい規格への対応が非常に難しい、あるいは技術的に不可能といった限界が見えてきます。こうした問題は、今後ますます増えていく傾向にあるといえるでしょう。

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