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そもそもEDAって何なの?電気回路設計者向け 実践! EDAツール活用法(1)(2/2 ページ)

電子機器設計のあらゆる場面で利用されているEDA。設計プロセスでのEDAの目的や活用方法を分かりやすく解説

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4. EDAツールの歴史

 とても便利なEDAツールですが、その誕生はわずか40年ほど前にさかのぼります。はっきりしたことは分かりませんが、1970年代前半にカリフォルニア大学バークレー校で開発されたSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasisの頭字語で「スパイス」と読む)が最初ではないかといわれています。これはアナログ電子回路の機能をシミュレーションするためのソフトウェアで、現在も開発が継続されています。

 その後、半導体レイアウト設計ツールや回路図入力ツール、プリント基板設計ツール、論理合成ツールなどが相次いで登場します。信じられないかもしれませんが、当時はメインフレームなどの大型コンピュータが、EDAツール専用のハードウェアとして利用されていました。

 幸運なことに、EDAツールは新しい製造技術に対応した革新的な設計手法を機能として組み込むことで成長し続け、ハードウェアの性能向上の恩恵も受けて大いに発展しました。いまではPCでの個人利用が可能なレベルまでになっています。EDAツールの歴史は、コンピュータを含めた電子機器の進歩の歴史とともにあったといえるかもしれません。近年のトレンドとしては、これまでポイントツール(設計プロセスの一部をカバーするもの)として利用されてきたEDAツールを、システム化して設計フロー全体に適用し、より効率のよい設計環境を構築、推進しようとする試みがなされています。

5. EDAツールの課題

 これまでにEDAツールの利点のいくつかに触れてきましたが、いいことばかりではありません。まずEDAツールそのものの金額があります。ものにもよりますが、1ライセンス当たり数千万円というEDAツールも存在します(安価なものでは数千円というものもあります)。それだけ選定には慎重になりますし、導入費用の回収に見込まれる期間によっては、メリットを見いだせずに検討を止めてしまうこともあり得ます。いざ導入に至ったとしても誰もが簡単に使えるとは限りません。実際の設計に適用するまでには、専属のエンジニアを割り当て、教育に時間とコストを投資する必要があるかもしれません。さらに、EDAツールの導入によって設計プロセスに変化を強いることになるので、周囲の理解を得るための調整も必要になります。

 また実際に運用を始めてみると、シミュレーションに使いたいモデルがなかったり、取引先から受け取ったデータが正しく取り込めなかったりといった問題も出てきます。あるいは、導入当初には想定もしていなかったことを行う必要に迫られたとき、そのEDAツールが機能的に満たしていないといったことも起こり得ます。

 運用時の問題に関しては、EDAベンダか販売店に相談するとよいでしょう。ソフトウェアは継続して機能追加などが行われており、これまでできなかったことが近い将来には実現されることも十分に考えられます。EDAツールにはサポート契約というものがありますので、新しく機能が追加された製品を入手したり、運用に関するアドバイスを受けたりすることができます。なるべく早い時期に運用できる状態が作れれば、それだけ投資効果も早く表れます。

6. EDAツールにはどんなものがあるの?

 前章でも少し触れましたが、EDAツールは集積回路やプリント基板の設計プロセスにおけるさまざまな段階で使われています。世間に流通しているEDAツールを大別すると、以下のようなものがあります。

半導体デバイス設計/シミュレーション

半導体の製造プロセスと構造から、その動作特性を計算します。

システム設計/シミュレーション

システムに要求される仕様を満たすため、回路を実現可能ないくつかの機能ブロックに分割し、各ブロックに求められる性能を決定します。

回路設計/シミュレーション

実際の回路素子を、数学的記述や特別な言語で等価モデルとして表現し、回路動作を検証します。主にアナログ回路で用いられますが、デジタル素子を含めて混在解析に用いられることもあります。

論理・タイミング設計/シミュレーション

デジタル回路が所望の動作を実現するよう論理の設計を行います。現在は言語を用いて記述することが一般的です。タイミング設計では、信号の遅延や半導体チップ内の特性のばらつきを考慮しつつ、その動作を保証します。

LSIレイアウト(マスクデータ)設計

LSIの製造工程で使われるフォトマスク作成に必要な物理構造データを設計します。この構造は、機能設計に用いられた回路図と等価なものとして表現されなくてはいけません。また製造可能なルールに従って配置・配線されている必要があります。

寄生要素抽出

回路図レベルで機能回路を完全に設計しても、物理レイアウトを行うと、その配線や基板の寄生的な成分から、特性に影響が出てしまうことがあります。寄生要素を含めて計算することで、要求仕様に反しないかどうかを確認します。

プリント基板レイアウト設計

基板の製造工程で使われるフォトマスク作成に必要な物理構造データを設計します。この構造は、機能設計に用いられた回路図と等価なものとして表現されなくてはいけません。また製造可能なルールに従って配置・配線されている必要があります。

EMI・EMC設計/シミュレーション

ほかの機器に対して電磁放射による影響を与えないこと、あるいは周辺の電磁波による動作への影響を受けないことを確認します。各国の基準で厳しい規制があり、これらを満たしているかどうかを検証できます。

熱設計/シミュレーション

電子機器の熱伝導、対流、放熱特性を、部品、基板、システム全体で計算します。機器の高速化・高密度化に伴い、品質管理の観点から需要が拡大しています。

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画像2 Cadence OrCAD/PSpiceでの回路設計・解析例

 次回からは、プリント基板設計プロセスを例に取り、その中で使われる主要なEDAツールの機能や特長、役割について解説していきます。

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