資料から見るERP導入の“大きな忘れもの”:セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論(4)(3/3 ページ)
本連載では、日本企業の経営者が直面している重要な経営課題を取り上げていますが、今回は経営を支援するIT(情報技術)面の課題として、巨額のERPシステム投資を経営に生かす方法を取り上げて、S&OPプロセスがどのような役割を果たすのかについて筆者の意見をご紹介します。
「S&OPの7つのパワー」のうち「IT活用力」がものをいう
ERPパッケージについては、前稿「世界のバリューチェーンから日本がはじかれる!? S&OPに対応すべきこれだけの理由」で、読者の皆さんにチェックしていただいた「バリューチェーン上の課題のチェックリスト」にある「チェックポイント7:IT活用力」が威力を発揮します。
以下に内容を抜粋しましょう。
チェックポイント7
【課題】ERPパッケージは導入したものの、財務アプリケーションへの偏重と統合利用の遅れによって本来のERPの統合のメリットを享受できておらず、また多大なカスタマイズによるコスト増など、巨額なERP投資から経営上の効果を引き出せないでいる。
=ERPシステムの全体導入を加速し、ITアプリケーションとデータをつなぐIT活用力が求められている。
S&OPによるソリューション:S&OPがERPパッケージの統合導入を加速させる
「日本におけるERP導入の大きな忘れもの」=S&OP
日本において、ERPパッケージへの移行は、汎用機からクライアントサーバ方式へといった機能の側面が強調される傾向にありました。一方、欧米では1990年代の初期から、IT面でのERPパッケージへの移行と同時に、マネジメント上の付加価値を与えるものとしてS&OPが積極的に採用されてきた経緯があります。
つまりS&OPは、「財務中心のERPパッケージ」を導入してきた日本のERP導入が忘れていた重要なマネジメント・コンセプトであり、その意味で、「日本におけるERP導入の大きな忘れもの」といっていいでしょう。
S&OPがERPパッケージ利用の統合化を促進する
拙著『図解ERPの導入』(1997年)で、「S&OPは、導入が難しい「計画系」機能の上位に位置するプロセスでありながら、その採用によりERPの計画・管理の充実と統合化の促進の2つの特徴を兼ね備える「計画の統合」、つまり横断的統合(部門間)と縦断的統合(戦略から管理レベルまで)が実現され、ERPの全プロセスをうまく回すトリガーとなるプロセスである」と紹介していました。
マネジメント・レベルが情報や機能の必要性を確信する
生産拠点のグローバル展開の流れは、日本企業にもERPパッケージをベースにした生産管理の導入を加速させることになります。これを支える人材に対するERP教育が進んできていることは、APICS(米国生産在庫管理協会)の中国における活動として、『世界のバリューチェーンから日本がはじかれる!? S&OPに対応すべきこれだけの理由で紹介したとおりです。
マネジメントがビジネスをコントロールしていく際のドライバとしてのS&OPプロセスを体験することで、実効性あるS&OPプロセス運用できるようになります。
そのためは需要マネジメントと供給マネジメントの双方について、取引レベルでの実績と計画の情報をタイムリーに提供するとともに、MPS(基準生産計画)やMRPといったリソース計画機能を提供するERPシステムそのものの整備を求めるようになると考えるからです。
この意味で筆者は、グローバル化が進む経営環境にあって、S&OPがERP普及のドライバとなることを期待しているのです。
S&OPを支援するツールとしてのERPパッケージ
S&OPを支援するITシステムは、S&OPのサブプロセスを支援するツールと、S&OPプロセスで活用するデータを維持、管理するインフラとなるシステムがあります。
S&OPのサブプロセスとそのインフラとなるシステムとの関係については、以下の通りです(図5参照)。
1)新規アクティビティ・マネジメント 新製品開発や、戦略的なアクティビティ(プロジェクト)などのプロジェクトマネジメントを支援するシステム
2)需要マネジメント CRM(顧客関係性マネジメント)による大口顧客の受注状況のデータや、統計的予測機能を用いた需要予測システム
3)供給マネジメント リソース計画や在庫管理などERP/MRP IIの生産管理関連とAPS(上級生産スケジューリング・システム)などのシステム
4)統合された調整活動 見積財務諸表や予算管理関連のシステム
5)エグゼクティブ・ビジネス・レビュー OLAP(オンライン分析処理)などの分析システムやシミュレーション機能
参考文献
- 「2009 ERP市場の最新動向:企業アプリケーション・システムの導入状況に関する調査―ユーザアンケート調査報告書」(ERP研究推進フォーラム、2009年5月30日)
より詳しくS&OPを学ぶための参考文献
S&OPが1988年に提唱されてから20年余りが経過しますが、ここ5年間程、グローバル化の進展などから、英語圏ではS&OP関連書籍が増えてきています。日本語でS&OPを包括的に取りまとめた書籍としては、拙著『S&OP入門 グローバル競争に勝ち抜くための7つのパワー』日刊工業新聞社、2009年6月があります。
筆者紹介
松原 恭司郎
キュー・エム・コンサルティング有限会社 取締役社長
公認会計士/情報処理システム監査技術者
現在、中央大学専門職大学院(国際会計研究科)特任教授、東北福祉大学(総合マネジメント学部)兼任講師、BSCフォーラム会長、ERP究推進フォーラムアドバイザーなどを務める。
国際会計事務所系コンサルティング会社などを経て1992年より現職。バランス・スコアカードを活用した戦略マネジメントと業績管理、ERP、S&OP関連のコンサルティング業務に従事。
S&OP/ERP/MRP?関連の著訳書に、『S&OP入門』、『図解ERPの導入』、『キーワードでわかるSCM・ERP事典』(編著)、オリバー・ワイト著『MRP?は経営に役立つか』(訳)、アンドレ・マーチン著『実務DRP』(訳)日刊工業新聞社などがある。またBSC関連の著訳書に、『バランス・スコアカード経営』’00日刊工業新聞社、ニーブン著『ステップ・バイ・ステップ バランス・スコアカード経営』(訳)’04、『バランス・スコアカード経営実践マニュアル』(共編著)’04、『税理士の戦略マップ』(共編著)’07中央経済社などがある。
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