資料から見るERP導入の“大きな忘れもの”:セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論(4)(2/3 ページ)
本連載では、日本企業の経営者が直面している重要な経営課題を取り上げていますが、今回は経営を支援するIT(情報技術)面の課題として、巨額のERPシステム投資を経営に生かす方法を取り上げて、S&OPプロセスがどのような役割を果たすのかについて筆者の意見をご紹介します。
統合化が進まぬ日本のERPパッケージ導入の実態
財務モジュール中心の日本のERPパッケージ導入の実態
ERP研究推進フォーラムの先の調査によれば、図3が示すようにERPパッケージのモジュール別の導入状況は、財務会計が43%と財務関連モジュールに極端なまでに偏り、販売管理16%、生産管理17%、物流管理10%と基幹系業務への適用が一向に進んでいないのが実態です。
日本のERPパッケージの導入実態として、財務モジュールへの偏重が浮き彫りになっています。
ERPパッケージの統合導入が遅れるわけ
日本では当初から「統合型基幹業務システム」と意訳して紹介されてきたERPパッケージの、この極端なまでの財務関連モジュールへの偏りはいったい何なのでしょうか。
その要因としては次の点が考えられます。
- 財務アプリケーションは、会計規則、税法などの法規制による標準化が進んでおり、企業により違いが少なく汎用的なパッケージに最もなじむこと
- 特に日本においては、販売・生産・物流などの基幹業務は、他社と差別化すべき戦略業務領域であり、自社開発すべきであるとの考え方がいまだに支配的であること
- 日本の生産管理はブラックボックス化され、企業や工場ごとにまちまちで、標準化が遅れている。米国育ちのMRP(資材所要量計画)を主たる生産スケジューリング・エンジンとするERP/MRP II(製造資源計画)が簡単に導入できる土壌にないこと
- 特に生産管理領域については、TQM、カイゼン、5S、JITなどの現場中心主義が日本の真骨頂であり、多額のIT投資に対する優先順位は相対的に低くなる傾向があること
こうした理由から、ERPパッケージの導入の実態は、統合システムではなく財務関連機能中心のモジュールとしての活用が主流となっており、その結果が、先の低いユーザー満足度、低いERP投資効果へとつながっていると筆者は考えています。
まだ日本企業の多くがERPのコンセプトを正しく理解していない
以上のことから、「日本企業の約4割がERPパッケージを採用している」にもかかわらず、財務関連モジュールに極端なまでに偏った導入実態を考えると、ERPパッケージの財務関連モジュールは普及したが、「ERPのコンセプト(図4に示すように、筆者はERPの特徴は、1. 統合化の推進、2. 計画・管理機能の充実、3. グローバル化への対応、そして4. 最新ITの活用の4つあるとし、これを「ERPクロス」と紹介している)とそれに基づくプロダクトである「統合基幹業務システム」としてのERPはまだ普及していないということができるでしょう。
S&OPに期待する理由:日本企業がERP投資を生かす最後のチャンス
グローバル化と激しく変化する今日のビジネス環境にあって、導入から10年近くが経過しているERPパッケージの多くの初期ユーザーでは、種々の要因から更新のタイミングを迎えてきています。
巨額なERP投資から経営上の効果を引き出す方法として、財務アプリケーション中心の導入という現状から脱却し、販売・生産・物流といった基幹業務への適用領域の拡大と本来の統合利用へ向けた動きが求められています。その引き金となると筆者が期待しているのが、このS&OPです。
「S&OPもしくはグローバルS&OP」を、いかに日本のマネジメントに広めるかが、日本企業が本当の意味でERPパッケージを使いこなす最後のチャンスとなると考えています(図4参照)。
S&OPはプロセスであり、それ自体、大規模なIT投資は必須条件とならないことは、本連載第1回『経営と現場は「超」シンプルにつなぐべし』で説明したところです。では、なぜS&OPの普及がERPパッケージの普及を促進させるというのでしょうか。
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