IGESが消える日がくるかもしれない?:「技術の森」モリモリレビュー(6)(1/2 ページ)
IGESで3次元モデルのデータはきたけれど、読み込んだデータの状態があまりにひどく、結局、自分で一から作り直す。そんな経験はないだろうか?
今日流通するミッドレンジ〜ハイエンド3次元CADやCAEは、さまざまなファイルフォーマットに対応し、他社CADのフォーマットも積極的に取り入れている。「マルチCAD対応」という言葉も、最近は非常によく聞かれるようになった。最先端の3次元CADを使うユーザーにとっては、かつての時代と比べれば、IGESやDXFなど中間ファイルを扱う機会はだいぶ減ってはいるのかもしれない。
しかし2次元CADの製図がまだ多い業界、特に加工業においては、まだまだ中間ファイルによる図面データや3次元データのやりとりが多い現状。今回「技術の森」から紹介する質問も、そんな背景からきたようだ。
IGESで3次元モデルのデータはきたけれど、読み込んだデータの状態があまりにひどく、結局、自分で一から作り直してしまった。そんな経験はないだろうか?
さて今回お話をお伺いしたのは、キャドラボ 取締役の栗崎 彰氏。
MONOistの読者の中では、「材料力学やFEMの解説を書いている、解析ソフトウェアに詳しい方」というイメージを持たれる方も少なくないかもしれない。しかし、同氏が精通しているのはCAEだけではない。実は、栗崎氏はCATIAの開発元であるダッソー・システムズの日本法人ができたときの1人目の社員! だから3次元CADに関する事情も、十八番。
「中間ファイルについては、過去、自分自身も悩まされました」という元生産技術者でenmono 技術担当取締役の宇都宮 茂氏も、本記事のコメントにちょっぴり登場する。本企画毎回恒例である同氏執筆の『技術の森』内のコラムも、ぜひ併せてお読みいただきたい。
*本記事内の技術の森の投稿内容の転載につきましては、運営元であるエヌシーネットワークの許可を得ています。
「IGES」といえば「化ける!?」
PARASOLIDとIGESの互換性
駆け出しの3DCADオペレーターです。
弊社では3DCADにSOLID系のものを使っていますが、客先から支給されたデータがIGESのようなデータの時に有理面の非有理化や、面のずれ、エッジの割れなどが多く、検証や図面化に手間がかかり困っています。
しかし、この技術の森でもこのあたりの相性差に関する質問は少ないように思います。(あるにはありますが)
ソリッド化や縫合、あとは切断→一体化時の自動誤差修正による有理化(これは裏技的な感じですが)などを現在使ってはいるものの、百分代、千分代の加工が求められる部分だと非常にやっかいです。先輩方はこの問題にどうやって対処されておられるのでしょうか?
それとも最近の3DCADはそのあたりの互換性がスムーズにいくのでしょうか?
投稿者がいうように、IGESで加工データをもらう際、モデルに化けが生じると、何らかの補正・修正を行う。しかし、ミクロン(μm)単位で加工を行う場合では、(修正の対応は)非常に厄介である、と。
栗崎氏の日々のコンサルティング業務においても、いまだにIGESのデータが多く行き交っているという。「私どもで行っている3次元モデリングのベンチマークの際にお客さまからいただくモデルでも、この質問のような問題は非常に多いです」。
規格とは名ばかりのIGESの現状
「IGES」とは「Initial Graphics Exchange Specification」の略で、1981年にANSIの規格として承認されたファイルフォーマット。ご存じのとおり異種のCADやシステム間とのデータ交換で使用するもの。もともとは2次元データ を扱うフォーマットだったが、後に3次元データにも対応できるよう進化していった。1996年のIGES5.3が最終版とされている。
「このフォーマットは、CADベンダそれぞれで改良が進められており、世界標準といわれながらも統一化されていないのが現状です。例えば、寸法線の矢印の角度を調整するパラメータを独自で作ってしまうなど、さまざまな“方言”ができてしまっている感じです。その方言がうまく解釈できないため、データが化けるのです」(栗崎氏)。
そもそも不安定なIGESではなく、もっと安定したフォーマットを利用すればいいのだろうか? STEPなど3次元モデル専用の中間フォーマット形式も存在するが、その変換ソフトの値段は、ローエンドあるいはフリーのCADを使うユーザーにとっては高価(100万〜200万円)なものだ。「必然的に、一番コストがかからないものが業界標準となり普及していくものですよね。たとえ問題を抱えたフォーマットであったとしても、広く使われ続けていくことになります」(栗崎氏)。
上記のようにばらついてしまった仕様については、特定の企業なり団体(ANSI含む)なりが取りまとめをしようという動きも、現状では一切ない。日本では、日本自動車工業会が中心となり、IGESのサブセット(限定仕様)「JAMA-IS」を制定している。つまり規格に対する規格であり、そのようなものを作らなければならないこと自体が、IGESの仕様のばらつきを証明していると栗崎氏はいう。
つまり、CADユーザー自身で工夫しながら、IGESと上手に付きあっていくしか方法がないというわけだ。
ここで一番重要な鍵となるのは、「トレランス (tolerance)」というパラメータ。ざっくりいえば、「部品間の1μmのすき間は、接合か否か」を判断するための値だ。IGESを出力するCADと読み込むCADでこの値が適切に設定されていないと、フィレットと平面部のつなぎ部分がつながっていないと認識されたり、インポート先のCADでねじれたような形状になったりなどの不良が生じる。また、インポート先でとてつもなく巨大な曲面が出現するような現象は、一見平面に見えるほどのR寸法(例えばR1000など)による曲面のトリム形状が認識されないため起こってしまうという。
加えて、「それぞれのCADの持つ曲面の定式化」にも注意したいと栗崎氏はいう。ベジェやNURBS(Non-Uniform Rational B-Spline)など曲面を表現する関数がIGESフォーマットではどのように変換されるのかを理解しておく必要があるとのこと。「IGESにはもともと高度な定式化曲面を扱うフォーマットがありません。IGESとしてエクスポートした時点で、有理Bスプライン曲面、トリム面などに置き換えられてしまうか、無視(曲面のない状態)するかになります」(栗崎氏)。
このデータ受け渡しについて、現役技術者時代、非常に苦労したという宇都宮氏は、このように述べた。「加工に渡すモデルは、カクカクしたものでいい。フィレットもごくシンプルなものにする。自分自身がモデリングして加工する場合は、間違いなくそのようにするのですが、お客さんにはちょっといいづらいものですね……」。
データ受け取った側は、上記のような化けたモデルの修正にたくさんの手間と時間をかけることになる。その労力は、ときに一から作り直した方が早いと思えるほどだという……。
IGESのインポート時のデータ化けに、すっきり完全に解決する策は、残念ながらないという。ただ、エラーを極力減らしていくことならできるとのこと。
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