アジャイルな判断を支える需給情報の読み方:セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論(3)(3/3 ページ)
本稿では、日本企業の経営者が直面している重要な経営課題の1つとして、激変する需要変動とグローバル化への対応を取り上げ、S&OPプロセスがこれらの課題をどのように支援するのかについて見ていくことにします。
S&OPの7つのパワー:俊敏力とグローバル調整力
この激変する需要変動とグローバル化への対応については、前稿「世界のバリューチェーンから日本がはじかれる!? S&OPに対応すべきこれだけの理由」で、読者の皆さんにチェックしていただいた「バリューチェーン上の課題のチェックリスト」のうち、
- チェックポイント2:俊敏力
- チェックポイント1:グローバル調整力
が威力を発揮します。
以下にその内容を抜粋して紹介しておきましょう(ここでは解説の流れにあわせ、1と2の順序を入れ替えて紹介します)。
チェックポイント2
【課題】ビジネスのグローバル化やデジタル化、それに伴う製品ライフサイクルの短期化など企業を取り巻く変化のスピードが増しており、従来のように中期経営計画や事業計画を四半期ごとにレビューしたり、ましてや年次にローリングしていたのでは、まったく追いつかなくなってきている。
=環境対応型の戦略計画と業務計画をつなぐ俊敏力が求められている。
チェックポイント1
【課題】日本、米州や欧州の市場に対して中国や東南アジアで製造した製品を輸出するなどのグローバル化によって、調達、生産、物流、販売などのバリューチェーンの機能が分断されてしまっている。
=グローバルに分断したバリューチェーンをシームレスにつなぐグローバル調整力が求められている。
期末に気付くのでは遅い! アジャイルな市場対応力を付けよ
変化の激しいグローバル市場にあって、従来のように中期経営計画や事業計画を四半期ごとにレビューしたり、ましてや年次にローリングしていくようなマネジメントを行っているようでは、このような急激な変化に対して、まったく追いつくことができなくなってきています。
例えば、第2四半期が始まったばかりの時点でバリューチェーンに大きな影響を与える事象が発生しても、その確認と対応は3カ月遅れになりかねません。そして、この激変する市場に迅速に対応する俊敏力を支援するツールがS&OPなのです。
環境対応型の戦術レベルのプロセス
図2にあるように、戦略計画としての中期経営計画や事業計画は、四半期ごとのレビューないし年次のローリングで更新させるため、変化にアジャイル(俊敏)に対応することはできません。
一方、工場や購買などの業務スケジューリングは、随時、日次〜週次の間隔でレビューし更新されますが、その計画対象期間は1〜3カ月であるため、バリューチェーン全体への影響を予測するには短過ぎます。
そこで、S&OPプロセスでは、図1に示したようなバリューチェーンの各要素で起きている事態に対して、18カ月以上という適切な計画対象期間を対象とします。そのうえで、変動する環境にアジャイルに対応しつつ、上位の中期経営計画や事業計画、下位の工場や購買などの業務スケジューリングに適時に伝えるギア(連結環)の役割を果たすのです。
グローバル化で分散したバリューチェーンをつなぐ
グローバル化するバリューチェーンの統合管理
欧米のグローバル企業の多くが、グローバル化の下に分断されたバリューチェーンの各要素を中央集権的に管理する体制に移行し始めており、マネジメントが中期的な視野を持って、分断されたバリューチェーンを統合的に管理する仕掛けが求められています。そして、このグローバル調整力を支援するツールがS&OPなのです。
バリューチェーンも「仮想化」で統合管理すべきとき
グローバル化が進むいま、行うべきは各地域に分散したバリューチェーンの各要素を、統合された1つのバリューチェーンに統合して迅速に管理して行く必要があります。
米州、欧州に加えて新たにアジアの新興国など海外に分散した市場と、中国、東南アジアそして日本などの生産拠点との間の需給にかかわるバリューチェーンのネットワーク化を促進するために、進化した新たなS&OPの手法を特に「グローバルS&OP」と呼んでいます(図3参照)。
グローバルS&OPプロセス設計のポイントには、次の点が挙げられます。
責任と権限を置くポジションの明確化 グローバルな需給のバランスに向けて、グローバル、リージョン、国、工場などのレベルのどこに意思決定の権限と報告責任を置くかを明確にすること
サブプロセスの形態と支援システムの利用ポイントの整理 需要マネジメント、供給マネジメント、そして統合された調整活動などS&OPサブプロセスの形態と、ITなどの支援システムをどのように活用するか
参考文献
- 「各社トップ念頭に決意。世界企業への脱皮・「太陽光」に力・再編へ準備」(日本経済新聞2010年1月5日朝刊)
- ベンホッカー、デイビス、メンドンカ「マッキンゼーが予測する近未来トレンド10選」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』(ダイヤモンド社、2009年11月号)
より詳しくS&OPを学ぶための参考文献
S&OPが1988年に提唱されてから20年余りが経過しますが、ここ5年間程、グローバル化の進展などから、英語圏ではS&OP関連書籍が増えてきています。日本語でS&OPを包括的に取りまとめた書籍としては、拙著『S&OP入門 グローバル競争に勝ち抜くための7つのパワー』日刊工業新聞社、2009年6月があります。
筆者紹介
松原 恭司郎
キュー・エム・コンサルティング有限会社 取締役社長
公認会計士/情報処理システム監査技術者
現在、中央大学専門職大学院(国際会計研究科)特任教授、東北福祉大学(総合マネジメント学部)兼任講師、BSCフォーラム会長、ERP究推進フォーラムアドバイザーなどを務める。
国際会計事務所系コンサルティング会社などを経て1992年より現職。バランス・スコアカードを活用した戦略マネジメントと業績管理、ERP、S&OP関連のコンサルティング業務に従事。
S&OP/ERP/MRP?関連の著訳書に、『S&OP入門』、『図解ERPの導入』、『キーワードでわかるSCM・ERP事典』(編著)、オリバー・ワイト著『MRP?は経営に役立つか』(訳)、アンドレ・マーチン著『実務DRP』(訳)日刊工業新聞社などがある。またBSC関連の著訳書に、『バランス・スコアカード経営』’00日刊工業新聞社、ニーブン著『ステップ・バイ・ステップ バランス・スコアカード経営』(訳)’04、『バランス・スコアカード経営実践マニュアル』(共編著)’04、『税理士の戦略マップ』(共編著)’07中央経済社などがある。
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