「業績予想」の質を担保する:セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論(2)(1/3 ページ)
実態とかい離しがちな業績予想をいかに正確なものにするか。S&OPプロセスを使って、どのようにしてさまざまな経営課題を解決していくかについて見ていく。
「ネジ回しシンドローム」に陥らぬように
本連載では、これから4回にわたって、経営者が直面しているいくつかの重要な経営課題を、S&OPプロセスを使って解決する方法についてご紹介します。
ただし、その前に肝に銘じておくべき重要な教訓を読者の皆さんと共有しておきたいと思います。
次のようなお話を見聞きしたことはないでしょうか。
「数ある大工道具の中でもネジ回しが大好きな人がいました。彼は、どんな日曜大工の作業も、ネジ回し1本で対処できると信じて疑いません。ネジを締めることはいうに及ばず、キリのように穴を開ける、ノミのように溝を彫る、金づちのように釘を打つ、揚げ句の果てには、ノコギリのように材木を切ることも、ネジ回し1本で簡単にできると主張するのです」
いわば「ネジ回しシンドローム」です。
読者の皆さんはどう思われますか。彼の日曜大工作品の出来栄えはいかほどのものか容易に想像できるでしょう。
実は、ビジネスの世界では、彼と同様の行動を取ってしまうことがよくあるのです。TQM、JIT、シックスシグマ、ERP、SCM、TOCなどのツールやコンセプトを知ると、それで経営上のすべての問題を解決できると思い込んでしまうのです。
グローバルビジネスの有効なソリューションとして、グローバル企業を中心に注目を浴びているS&OPも、このネジ回しと同じ1つのツールにすぎません。S&OPを知り、そのファンになったからといって、S&OPで、経営上の課題のすべてを解決できると思ってはいけないのです。
今回からは、ツールとしてS&OPが有効に使える、今日的な重要な経営課題について4回にわたって取り上げていきます。
五里霧中の経営環境の中でいま「業績予想の修正」の嵐が吹き荒れている
2008年秋のリーマンショック以降の世界的な不況で、世界規模での市場の不透明感が増し、多くの上場企業が「業績予想」の頻繁な修正を強いられる事態に陥っています。
市場は企業の業績予想の修正に敏感に反応する
最近、ある公開企業の「業績予想の下方修正」発表の直前に、内部情報を基に「空売り」による株取引で不当な利益を得たとして、金融商品取引法違反(インサイダー取引)容疑で元役員らが逮捕されるというニュースが流れていました。
これは、市場では予想利益の上方修正に対する正の株価反応よりも、下方修正に対する負の株価反応の方が大きく上回る傾向があるとされていることから、業績予測の下方修正が資本市場に与えるインパクトを逆手に取った犯罪なのです。
速やかに「業績予想の修正」を開示することが求められている
「業績予想」は、証券取引所の要請で企業の経営者が「決算短信」や「業績予想の修正」で開示するもので、売上高、営業利益、経常利益、当期利益、1株当たり利益、1株当たり年間配当金に対する当期予想値が開示されます。
東京証券取引所の場合を例に挙げれば、売上高については直近の予想値に比べて10%以上変動する場合、営業利益・経常利益・当期利益については、直近の予想値に比べて30%以上変動する場合には、直ちに「業績予想の修正」を開示しなければならないことになっています。
図2は、期中の下方修正を避けるため、期初時点では業績予想を保守的に計上する傾向があるとされる本田技研工業が2009年10月27日に発表した「第2四半期連結累計期間業績予想との差異および通期業績予想の修正に関するお知らせ」の通期連結業績予想の一部を引用したものです。これは、四半期(3カ月)の間に、売上変動および構成差などの影響、そしてコストダウンや研究開発費の削減など、激変する市場や経営努力により、いずれの項目も業績予想の上方修正となったケースです。
図2 本田技研工業が2009年10月27日に発表した「第2四半期連結累計期間業績予想との差異および通期業績予想の修正に関するお知らせ」からの抜粋
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