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明石海峡の強風にあおられても、大丈夫?独学! 機械設計者のための自動制御入門(4)(4/4 ページ)

 フィードバック制御をしているからといって、すべてを目標値にできるわけではない。例えば車が風にあおられたときは?

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伝達関数の掛算はボード線図の足し算

前回も説明したように、伝達関数に正弦波入力を与えると、出力もまた正弦波となる(第3回の図5)。だから、図6に示すように、G2にχ2・sin(ωt)を入力して、出力がΩ2・sin(ωt−θ2)なら、

  |G2|=Ω2/χ2

  ∠G2=−θ2

だよな



第3回 図5

図6 伝達関数G2、G3の入出力波形

そうだね。まったく同じことが、G3についてもいえるね。

  |G3|=Ω3/χ3

  ∠G3=−θ3


と、いうことは、G2の入力χ2・sin(ωt)に対してG2・G3の出力は、

  Ω3・sin(ωt−θ2−θ3)

となるから

  |G2・G3|=Ω3/χ2

  ∠G2・G3=−θ2−θ3


そうか、Ω2はχ3のことだから

  |G2・G3|=Ω3/χ2=Ω2/χ2・Ω3/χ3=|G2|・|G3|

  ∠G2・G3=∠G2+∠G3

だね。

 確かに位相についてはG2・G3の位相はG2とG3の位相を足したものになるけど、

  |G2・G3|は|G2|と|G3|

の掛け算だよ


そこで、ボードさんは、振幅比の対数を取ることにした


なるほど! 対数を取れば、

20・log(|G2・G3|)=20・log(|G2|・|G3|)=20・log(|G2|)+20・log(|G3|)

となる。従って、G2・G3のゲインはG2とG3のゲインを足したものになるわけだ。でも、なぜわざわざ、20倍するんだろうね?


実は私にもよく分からんのだよ。デシベルはもともと音響工学で使用されていた単位だから、きっと、音圧と人間の感覚の関係において、20倍することになにかメリットがあるんちゃうか。ボードさんも、それにならったんやろう


ふーん。ま、とにかく、操作部G2のボード線図つまり周波数応答特性が計測できていれば、G3のボード線図は計算で推定できて、G2・G3のボード線図はそれらの足し合わせで描くことができることは分かったよ。でもまだ制御部の伝達関数G1の説明が残ってるね


制御部の伝達関数G1は、車体の位置センサから読み込んだ、車の横方向位置Y3と目標位置Xとの差から、回転すべきハンドル角度の情報に変換するのが役目だ。つまり位置偏差に比例した角度でハンドルを回せ、という指令を操作部G2に出すわけや。

 G1は、目標位置と1mずれたらハンドルを2度回せ、という設定にしよう。G1は、位置偏差情報をハンドル回転情報に電気的変換しているだけだから、位相遅れはほぼ0で一定だ。ゲインも20・log(2/1)で一定だ。

 つまり、

  |G1|=20・log(2/1)=6    (dB)

  ∠G1=0              (°)


そもそも遅れというのは質量やばねといった機械的要素の存在によって起きるから質量のない電子回路では遅れがないんだね


電子回路では遅れが存在しない、というのは誤りやで。機械的要素と比べれば、無視できるほど小さい、というのが正しい理解やね。まず、G1、G2、G3、G2・G3のボード線図は、これ(図7)



図7 G1、G2、G3、G2・G3のボード線図

そして図8には、Goのボード線図を示しておいた。伝達関数の演算が、それぞれの伝達関数のボード線図の足し算となっていることが分かるやろ?



図8 Goのボード線図

そうだね。伝達関数の積は、ボード線図ではゲイン特性も位相特性も足し算になるのは分かったよ。ところで、なぜ制御部G1の設定を目標位置と1mずれたら、ハンドルを2度回せとしたの? 目標位置と1mずれたら、ハンドルを20度回せっていう設定じゃ駄目なの?


図8には、制御部の伝達関数G1の設定が2(°/m)と20(°/m)の2つの場合の開ループシステムの伝達関数Goのボード線図を載せている。20(°/m)の場合は2(°/m)に対して10倍高くなるからGoのゲイン特性が20・log(10)=20(dB)上にあるやろ。そうするとゲイン余裕がなくなり、システムが不安定になる。だからG1のゲインはあまり大きくできないんや


なるほど、前回学習したフィードバックシステムの不安定性がここで問題となってくるわけだ


さて、それじゃあ、Go/(1+Go)とG3/(1+Go)の周波数応答特性について説明しよう。いまは静特性について検討しているから、低周波域での特性が分かればいい。図8からω⇒0のとき、|Go|と|G3|のどちらも、同じ割合で⇒∞だから

となる。図8から分かるように、低周波域ではG3のゲイン特性はG2・G3の特性に等しい。低周波域ではGo=G1・G2・G3=G1・G3だから、GoとG3のゲイン特性の差はG1のゲインの差となる。つまり、その差は6(dB)


6(dB)は「比」に直すと2だったよね


すると、式(12)はω⇒0で……


(21)

結局、横風が吹いていると、車は目標位置Xから2・Y2’ずれることになるわけだね


たとえば操舵角が1度ずれるような横風が吹いているとすると、Y2’=1°だから、車は目標位置Xから0.5mずれることになる


お詫びと訂正(筆者)

GoとG3のゲインの差は、低周波域でマイナス6(dB)なのでG3とGoの比は2分の1です。従って、操舵角が1度ずれる横風が吹くと、車は目標位置Xから0.5mずれることになります(記事掲載時は2mとなっておりました)。謹んで訂正とおわびを申し上げます。なお、0.5mという値は制御部G1の設定が2(°/m)とY2’=1°ということから簡単に求めることができます。



ふーん。このままでは強い横風が吹くと、車はガードレールに衝突してしまうね。これでは車の自動運転制御システムとしては失敗だね。でも、人間は横風が吹いても、問題なく車をコントロールしてるよ。人間のように、強風が吹いても正しい位置の車を制御するためにはどうしたらいいんだろうね


それが2つ目のテーマや。いわゆる制御系の補償設計というやつ。さて今日はこのくらいにして、そろそろ夕食にしようか。この近くに、薪釜(まきがま)でピザを焼く、美味しいイタリアンの店があるんや。今晩は、淡路島の街の灯りと、虹色に変わる明石海峡大橋のネオンでも眺めながらワインを飲んで、『明石鯛(たい)のカルパッチョ』と『明石蛸(たこ)とトマトときゅうりのレモンサラダ』でも食べるか


うん、いいね。叔父さんの昔話に付き合ってあげるよ。その代わり、神戸牛のステーキも頼むよ


 次回は、強い横風が吹いていても車を直進させるためにはどうしたらよいか、ということについて説明します。

Profile

岩淵正幸(いわぶち まさゆき)

1953年生。技術士(機械部門)。日本セメント(現太平洋セメント)、川崎重工業精機事業部(現カワサキプレシジョンマシナリ)を経て、現在事務処理機器メーカーでシミュレーションを活用した設計方法の開発および設計コンサルティング業務を担当。川崎重工では、油圧制御システム設計、旧石油公団(現石油天然ガス・金属鉱物資源機構)委託研究による圧力波通信システムの開発研究、対戦車用ミサイル操舵装置の開発に従事。



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