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“バッファ傾向グラフ”で課題を把握する過剰在庫と欠品を撲滅! TOC/S-DBR(4)(1/2 ページ)

TOCの制約理論については過去の連載でも多数取り上げてきました。今回はその中からDBR(ドラム・バッファ・ロープ)の実践と、近年注目されつつある、よりシンプルな発想に基づいたS-DBRについても紹介していきます。

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現実は簡単にいかない!?

 こんにちは、ゴール・システム・コンサルティングの村上悟です。

 前回はS-DBRの仕組みの中心になるバッファ管理について説明してきました。

 具体的な運用方法として、赤・黄・緑の色で優先順位を示す、シグナルの仕組み、納期遅れやさまざまなトラブルから納期を守るために行われるバッファ会議の方法をご紹介しました。

 説明したように、この仕組みどおりにS-DBRを運用できれば多くの工場では短期間で劇的な納期順守率の改善と製造リードタイムの短縮、さらには生産性向上が成し遂げられるはずです。

 読者の皆さんはどうですか? もうすでにS-DBRにトライしてみようと気になっておられますか? それともまだ納得し切れない感じでしょうか?

 恐らく多くの方が「考え方は分かったけれど、現実はそんなに簡単じゃない。だからS-DBRの手法をどう使ったらいいかよく分からない」と考えられているのではないでしょうか。

生産性と納期のジレンマ

 S-DBRを現実に運用するには、販売が急に増えたり減ったり、生産設備が突発的に故障し、品質的トラブルが発生し、顧客から短納期の緊急受注が来るというような、それこそ日々の混乱をどうやって鎮めるのかか納得できないと次のステップの導入には踏み切れないと思います。ですから今回はこの点について考えていきましょう。

 工場には「永遠の課題」ともいうべき、「生産性」と「納期」にまつわるジレンマが横たわっています。

 すなわち、工場が収益を確保し、生産性を向上させるためには生産量を確保しなければならず、一方で顧客納期を守るアクションは、多くの場合、生産量や生産性を下げることに直結します。

 従って、納期と生産性の戦いは中途半端、とどのつまりその場しのぎの域を出ることはないのです。このようなジレンマを引きずったアクションによって多くの問題が引き起こされるのです。

 ではこのような悪循環をS-DBRを使って断ち切れるのか、検討していきましょう。

S-DBRの管理システム

 S-DBRの管理システムには以下の特徴があります。

  • 適切なタイミングでの投入を行いバッファマネジメントを機能させる
  • 個別のオーダーと工程全体の納期についてリアルタイムに把握できる3色に色分けされたアラーム機能を持つ
  • その情報を基に、遅れに対する迅速な対処を行うことができる
  • 工程全体の負荷を検知しボトルネック工程の出現を管理する

バッファ傾向グラフを読むことで課題が見えてくる

 このうち、赤バッファが多発するという状況については、以下の2つの状況が考えられます。

  1. 局所的なトラブルが発生したり特定工程の能力を大きく占有する製品が流れたりして一時的に工程の生産能力が失われた
  2. 受注が工程能力を上回っており物理的なボトルネック工程が発生し渋滞(バッファの侵食)が発生している

 問題が発生したり負荷が能力を超えたりして過負荷に陥れば、赤バッファのオーダーが増え、優先指示を出しても流れなくなります。

 赤バッファのオーダーが1工程に1オーダーならば、問題なく優先して流すことができますが、特定の工程に10も20もの赤オーダーが固まってしまったらどうでしょうか? こうなると、どう調整しても納期遅れの可能性が高まることになります。

 従って納期遅れを出さない(黒ゾーンにオーダーを突入させない)ためには、赤オーダー品の比率を一定以下に抑える必要があります。

 これによって無用な渋滞を引き起こすことなく、全体の負荷を適正に保つことが可能になります。そのうえで局所的なトラブルの発生やバランスの偏りによる局所的なボトルネックの発生を抑えることができれば、工程全体は常にスムーズな流れを維持できるのです。

 そしてこの適切な負荷管理を実行するために必要なのが、日々のバッファレポートを集計したバッファ傾向グラフなのです。

図1 バッファレポートとバッファ傾向グラフの関係
図1 バッファレポートとバッファ傾向グラフの関係
バッファの状況を可視化することで課題がどこにあるかが見えてくる

 このグラフを継続的に記録していくことで、赤バッファがある程度の比率になると黒バッファ(納期遅れ)が発生することが読み取れるようになります。

 黒バッファの発生は局所的なボトルネックや全体の過負荷によって発生しますから、現在の赤オーダーの水準を把握すれば、負荷がどうなっているのか、納期遅れが発生しそうなのか、そうでないのかの判断材料になります。つまりこのグラフは、「近日中に負荷がどのように推移し、その結果納期遅れの可能性の有無」ということを教えてくれるのです。

 日々このデータを監視することで、納期と生産性のジレンマがどのような問題を発生させているのか、またどのような対策を実行しなければならないのかが分かってきます。

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