夢と苦労を詰め込んだGXRの設計(上):隣のメカ設計事情レポート(4)(3/3 ページ)
リコーの新製品「GXR」は、本体とレンズが切り分けられているコンパクトデジタルカメラ。切り分けの裏に潜んだメカ設計担当者の暗中模索とは?
レンズが大きくなる可能性がある、すなわち
「もし、このグリップのへこみ(指が掛かる部分)がもう少しレンズ寄りだったら、例えば将来、もう少し径の大きいレンズのユニットが出てきた場合、指がレンズの付け根に来てしまいます」(篠原氏)。
カメラをしっかり握るには、手に深く収まっていた方が、安定感があってよい。安心なホールド感と、GXRに取りつく可能性のある最大のレンズ径とをトレードオフした結果が、現在のグリップのへこみの位置だという。
なおグリップの材質は、フィット感が増すように、GR DIGITALを踏襲したラバーグリップになった。
フラッシュ周り
システムを分割化したことにより、「フラッシュをどちらに付けようか」という議論もした。
例えば、それぞれのカメラユニットに最適なものを付けるなら、カメラユニットに付けた方がいいかもしれない。そして、GX200と同じような、レンズの真上(鏡胴側に寄っている)にくるポップアップフラッシュをそこに付ければよい。
ただ、「フラッシュが付く」ということで、もれなく付いてくるのは、たくさんの電気をため込む大きなコンデンサ。つまりカメラユニットにフラッシュを付けようとなると、そこにコンデンサがもれなく付いてくる。これはかさばる。
「じゃあ、コンデンサだけ本体ユニットに付けたらいいじゃないか」とおっしゃる方もいるかもしれない。しかしそれでは高圧の配線をコネクタ越しにやり取りすることになる。フラッシュを発光させるために蓄電したコンデンサに直接手を触れてしまうと、強烈な痛みが走る。それほどの高電圧は扱いづらく、リスキーだ。
編集部注:メーカーの担当者が実験や検証でカメラを分解して作業する際は、コンデンサの徐電を行います。ユーザーは危険ですので分解しないでください
消去法で、フラッシュは本体ユニットに付けることに決めた。まず今後のカメラユニットの形態でフルフラットになった場合を考慮して、カメラ前方向に出っ張るGX200のポップアップフラッシュは断念し、その代わりGR DIGITALのような右上配置のポップアップフラッシュに置き換えた。
このとき、『ストラップは平ひもタイプでの2点つり方式』という企画要求に応えるため、GR DIGITAL よりも少し内側に配置することになり、これまた全体スペースを圧迫することになる。
併せて、EVF用のコネクタ、EVFや外付けフラッシュを固定するホットシューも、フラッシュと同様、筐体上部に配置しなければならなかった。それらをすべて、レンズ上部の空きスペースにうまく収めたかったが、企画・デザインの要望縦寸どころか、許容最大の縦寸すらも超えるものとなってしまい、またひともめ……。
メカ構成の詳細状況を説明したうえで、デザイン担当に縦寸の延長をしてもらうことにした。「デザイン担当者は当初、上面が2段になることによる違和感を懸念していました。やはり上面はGR DIGITALのようにフラットであるほうが美しいと。ただ実際、ものになってみると、案外気にならず、周りのデザインともよくなじんでいます。もちろんその辺は、デザイン担当者の力量も大いに発揮された部分だと思いますが」(篠原氏)。
コンデンサ
先に出てきた、電池サイズの拡大のしわ寄せはフラッシュ用のコンデンサにまで及んでいた。同社のGX200やGR DIGITALのコンデンサは、電池室の横に配置している。GXRでもそれにならいレイアウトしたが、すでにに横幅もいっぱいいっぱいである。
ではグリップ内に配置できないか? ところが、先の事情で電池がかさばるうえ、筐体の厚みもなるべく増やしたくない。そうすると、いままで使用してきたコンデンサは、確実に入らない。
しかしそこ以外の場所となると、どう考えても厳しい。本体ユニット内のスペースは、限られている。かといってカメラユニットに付けようか、となれば上記で説明したとおりだし……。
「コンデンサは異径(径が異なった)コンデンサを3本使い、グリップ内のスペースをやりくりしようと考えました」(篠原氏)。
ただし、元のデザイン区想定のグリップ寸法では、上の策を取ったとしてもスペースが厳しかった。ここでもデザイン区と相談し、グリップの厚みを少し増すことにした。結果としてそれは、グリップホールド感もより増すことへとつながったとのこと。
「基板が上下で泣き分かれ」の巻
画像処理エンジンを積むことになり、カメラユニットにも電装部品の配置が必須となった。GXRのカメラユニットは、「GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO」(以下、「GRレンズ」)「RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC」(以下、「RICOHレンズ」)の2種がある。
この2つのユニットの電装部品の配置は大きく異なっている。
GRレンズは比較的シンプルな構成で済んだが、RICOHレンズは何やら、アクロバティックな構造になってしまった。
「当初は鏡胴の付け根の上あたりに2枚基板を重ねていました。しかしそれだと、レンズが下に追いやられて格好悪いと、事業部全体のレビュー時に指摘を受けました。なので、ぐるりと鏡胴の周りを囲む形へと変更しました。実装作業は前の案の方が断然楽だったのですが、道具としてのバランスを重視しました」(篠原氏)。
ー−
システムの切り分け検討の話だけで、これだけのボリューム。暗中模索の後、切り分けが決まった後は、カメラユニットを付けたり取ったりするための機構検討で、またさらに紆余曲折(うよきょくせつ)……。この続きは次回で!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ポメラが10周年、電子ペーパーを採用して折り畳みキーボードが復活、Kickstarterにも
キングジムは2018年5月15日、新製品『デジタルメモ「ポメラ」DM30』を発表した。価格は4万3000円(税別)で、同年6月8日から販売開始する。2018年度の販売目標数量は1万台だ。2016年10月に「DM200」を発売して以来、約1年7カ月ぶりの新製品登場だ。 - ポメラ DM30を分解――メカ・電気・デザインのコラボに優れた製品
2018年6月8日発売のキングジム製の新製品『デジタルメモ「ポメラ」DM30』を分解する。 - 若手エンジニアたった1人のメーカー経営(前編)
若手でマルチなエンジニアが、たった1人きりでデザイン家電開発に取り組み、世界的デザイン賞も受賞。今回はその開発の軌跡を紹介する。 - 童心に返る――春のおばかモノづくり祭
仕事中には見ないでください!? 各地のモノイストから、おばか製品の数々が寄せられてしまったので紹介する。年に一回なので、笑って許して!