「業績予想」の質を担保する:セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論(2)(3/3 ページ)
実態とかい離しがちな業績予想をいかに正確なものにするか。S&OPプロセスを使って、どのようにしてさまざまな経営課題を解決していくかについて見ていく。
「S&OPの7つのパワー」のうち戦略実行力と財務評価力がものをいう
前稿「世界のバリューチェーンから日本がはじかれる!? S&OPに対応すべきこれだけの理由」で、読者の皆さんにチェックしていただいた「バリューチェーン上の課題のチェックリスト」にある、
- チェックポイント3:戦略実行力
- チェックポイント4:財務評価力
が威力を発揮するのです。
以下に内容を抜粋しましょう。
チェックポイント3
【課題】基幹業務を取り巻く環境の変化のスピードが高まり、バリューチェーンをタイムリーかつ効果的にマネジメントし、戦略と業務をつなぐ必要が生じている。
=戦略と基幹業務(現場)をつなぐ戦略実行力が求められている。
チェックポイント4
【課題】昨今の世界的な景気の変化を受けて、幾度となく業績予想の修正を余儀なくされており、年次予算の編成に多大な労力を割いているが、硬直的であり、変化の激しい経営環境の下では機能していない。
=最新の経営環境に基づきトップマネジメントが意思決定をした「売上高、コスト、粗利、在庫」のローリング予算、もしくは財務数値を月次に入手する財務評価力が求められている。
S&OPプロセスにより戦略と現場をつなぎ「戦略実行力」を高める
期初に公表される「業績予想」は、中期経営計画そして単年度の事業計画と結び付けるとともに、経営者が資本提供者に対してその達成を約束したコミットメントとして現場で着実に実行されることが求められています。そして、この戦略実行力を支援するツールがS&OPです。
S&OPによるソリューション:S&OPが戦略と基幹業務をつなげる連結環の役割を果たす
激変の時代にあっては、基幹業務を取り巻く環境変化のスピードが高まり、四半期に一度、戦略の実施状況をモニタリングするだけでは、変化に対して積極的かつタイムリーに対応することはできません。
そこで、図3に示すように、中期経営計画や事業計画の達成に向けた、戦術レベルでの基幹業務(需給プロセス)の積極的な調整活動として、バリューチェーンをタイムリーかつ効果的にマネジメントし、戦略と業務をつなげるS&OPが機能します。
S&OPプロセスにより「財務評価力」を高める
変化の激しいグローバル市場にあって、「通期の業績予測値」を計算し、必要に応じて修正するためには、業績の実績を迅速に把握するとともに、最新の経営環境に基づいたマネジメントの、需要予測・供給予測そして新製品の発表やM&Aなどに関する適切な判断に基づく財務数値が必要となります。この財務評価力を支援するツールがS&OPなのです。
S&OPによるソリューション:S&OPスプレッドシートがボリュームと財務的評価をつなぐ
1)実態に応じた経営判断と業績予想
S&OPプロセスでは、本連載第1回「経営と現場の情報は『超』シンプルにつなぐべし」でご紹介したように、原則として製品ファミリー単位で、
- 「ステップ2. 需要マネジメント」では、販売(会計用語では売上高)
- 「ステップ3. 供給マネジメント」では、在庫(棚卸資産)と製造(製造原価)
について、ボリューム(数量)を単位として、最短で18カ月先の計画対象期間にわたって、月次サイクルで見直しを行います。そしてこれらのボリュームデータを基に、
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この一連のS&OPプロセスを通じて、図4に示すように、最新の経営環境を反映した有用な情報に基づきトップマネジメントが意思決定をした「売上高・コスト・粗利・在庫」といった主要勘定に関連する項目のローリング予算、もしくは財務数値を月次に入手することが可能になるのです。
このため、「業績予想」の発表や修正発表に際しても、「売上高・営業利益・経常利益・当期利益」などについて、S&OPのデータを活用することにより、経営の現状と会社方針に照らしてマネジメントが合意した情報に基づく作成が可能になるのです。
2)年次予算策定工数の削減と予算の質の向上
「売上高・コスト・粗利・在庫」といった主要勘定については、S&OPの計画対象期間を最短でも18カ月とすることで、次期の年次予算の策定時にあらためて手間の掛かる作業を実施するのではなく、中期経営計画や事業計画とも連動し、ビジネスの実態を反映した、客観的な前提条件に基づいてマネジメント間で合意に至ったS&OPのデータを活用することによって、年次予算策定のための工数を削減しつつ予算の精度を向上させることが可能となるのです。
参考文献
- 浅野敬志「経営者の利益予想バイアスと市場反応」『会計・監査ジャーナル』(日本公認会計士協会出版局、2009年12月号)
- 『ユーザアンケート調査報告書2009〜企業アプリケーション・システムの導入状況に関する調査』(ERP研究推進フォーラム、2009年5月)
より詳しくS&OPを学ぶための参考文献
S&OPが1988年に提唱されてから20年余りが経過しますが、ここ5年間程、グローバル化の進展などから、英語圏ではS&OP関連書籍が増えてきています。日本語でS&OPを包括的に取りまとめた書籍としては、拙著『S&OP入門 グローバル競争に勝ち抜くための7つのパワー』日刊工業新聞社、2009年6月があります。
筆者紹介
松原 恭司郎
キュー・エム・コンサルティング有限会社 取締役社長
公認会計士/情報処理システム監査技術者
現在、中央大学専門職大学院(国際会計研究科)特任教授、東北福祉大学(総合マネジメント学部)兼任講師、BSCフォーラム会長、ERP究推進フォーラムアドバイザーなどを務める。
国際会計事務所系コンサルティング会社などを経て1992年より現職。バランス・スコアカードを活用した戦略マネジメントと業績管理、ERP、S&OP関連のコンサルティング業務に従事。
S&OP/ERP/MRP?関連の著訳書に、『S&OP入門』、『図解ERPの導入』、『キーワードでわかるSCM・ERP事典』(編著)、オリバー・ワイト著『MRP?は経営に役立つか』(訳)、アンドレ・マーチン著『実務DRP』(訳)日刊工業新聞社などがある。またBSC関連の著訳書に、『バランス・スコアカード経営』’00日刊工業新聞社、ニーブン著『ステップ・バイ・ステップ バランス・スコアカード経営』(訳)’04、『バランス・スコアカード経営実践マニュアル』(共編著)’04、『税理士の戦略マップ』(共編著)’07中央経済社などがある。
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