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どうすればプロジェクトを阻む要因を排除できる?シックスシグマの落とし穴(3)(1/3 ページ)

部署横断プロジェクトに理解のない上司、担当者ごとの分析粒度の違い、あせる余りの勘違い……。目的遂行の阻害要因を排除するヒントとは?

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シックスシグマには多くの企業が取り組んでいるが、適用の仕方次第では望む結果が得られない場合もある。どう導入すればいいのか、どう考えると間違いなのかを身近な例題を基に解き明かしていく(編集部)

 皆さまこんにちは! 五葉コンサルティングの楊です。

 前回はいくつかの例を使って、シックスシグマの導入や運用の際に陥りやすい、「3つの落とし穴」についてご紹介いたしました。シックスシグマを導入したものの定着化が図れず、逆に社員の不満の種になってしまう理由の一部を理解いただけたかと思います。

 しかし一方では、このような落とし穴をしっかりと避けながら、シックスシグマプロジェクトを成功させ、その効果を十分に実感している企業も多く存在しています。

 今回は、実際にプロジェクトを実行する際に起こりがちな障害を、D(定義)、M(測定)、A(分析)のフェイズごとに見ながら、シックスシグマプロジェクトのチームがどのようにそれら障害に対処し、乗り越えているのかをご紹介したいと思います。



1. Define(定義)フェイズに潜む障害

 Dフェイズはプロジェクトの行方を大きく左右する、非常に重要なフェイズです。このDフェイズの中で、しっかりとプロジェクトの範囲を固め、プロジェクトチームの一体感を醸成し、利害関係者からの支援ムードを得られることができれば、プロジェクトは7割がた成功するといっても過言ではないでしょう。

 プロジェクトが進むに従って出てくる障害には、このDフェイズにやるべきことを積み残したまま先に進んでしまったことが要因になっているものが多々あります。ここでは、プロジェクトの成否に大きな影響を与えるにもかかわらず、なおざりになりがちな、ステークホルダー(利害関係者)が生み出す障害とその対策について、見ていきましょう。

事例1:「本業優先」でプロジェクトに貢献できない

 機械メーカーA社では、社内にシックスシグマを導入し、その第1号のプロジェクトとして、欠品率の低減をテーマに取り上げました。リーダーには物流部のK課長が任命され、各部門から集められた精鋭メンバーとともに、部門横断的なプロジェクトチームを立ち上げました。

 K課長はシックスシグマの基本に忠実に、プロジェクトのゴールや期間、改善範囲などをチャンピオンである物流部長と明確に合意し、チームの一体感を高めるためにメンバーとも緊密なコミュニケーションを取るようにしました。

 K課長の努力で、チームはいいスタートを切れたかのように思われたのですが、営業部門から参加したメンバーFさんが、仕事の多忙さを理由に、次第に会議を欠席するようになりました。

 Fさん自身も、チームに貢献できずに申し訳ないという思いを抱えながら、「本業優先」を強調する営業部長の前では、何も手が打てない状況が続いていました。


対応策:ステークホルダー分析

 プロジェクト早々に発生したこの障害に対応するために、K課長はシックスシグマのトレーニングで学んだ『ステークホルダー分析』を行うことにしました。

 今回の件に限れば、物流部長から営業部長へ話をしてもらう、という手が考えられます。しかし、ほかのメンバーからも、このプロジェクトに対して、部門ごとに温度差があるという声が挙がっていたため、個別に手を打つ前に、現在の状況を分析することにしました。

 ステークホルダー分析は、このプロジェクトが取り扱うプロセスの中で影響を与え得る個人やグループに対して、プロジェクトに対する関心度、参加度、影響度、役割について分析をする手法です。これにより、考え得るリスクや懸念事項を洗い出し、円滑にプロジェクトを進めるためにそれぞれに対する対策を検討することが可能になります。

ステークホルダー分析の例
ステークホルダー分析の例

分析表の記載ルール

1(低い)⇔5(高い):関心度についてはポジティブ/ネガティブも併せて評価する

RACI:ステークホルダーのプロジェクトに対する役割を層別

Responsible:プロジェクトの大部分に責任

Accountable:プロジェクトの限られた部分に責任

Consulted:プロジェクトに対し、助言やデータの提供などが求められる

Informed:自身のアクションは不要で、プロジェクトからの報告を受ける


 社内・社外を問わず、考え得る限りのステークホルダーに対してこのように分析をしてみると、ネガティブな関心度が高く影響力も高いタイプや、関心度も参加度も低いけれど影響度は高いといったタイプのステークホルダーが存在するということに気付きます。

 今回の営業部長のように、ネガティブな関心度が高く、影響力も高いステークホルダーに対しては、今後プロジェクトを円滑に推進することを考えると、関心をポジティブな方向に変えるための対策や、影響度を弱めるための対策を打つことが必要となります。

 リーダーのK課長は、関心をポジティブな方向へ変え、参加度も高める方策として、営業部長との個別定例ミーティングを設定し、Fさんも交えて情報を共有することで、営業部長のプロジェクトに対する支援ムードを上手に醸成することに成功しました。

 また、この分析を通じて、営業部長以外にも問題が生じる前に手を打っておくべきステークホルダーがいることに気付いたK課長は、それぞれのコミュニケーションプランを作り、プロジェクトがスムーズに進められるための土台を固めていきました。

ポイント:リスクを分析して排除する

 プロジェクト管理のポイントの1つであるリスクを事前に排除するという観点から見ても、ステークホルダー分析は短時間で実施でき、かつ高い効果を上げられる手法です。シックスシグマプロジェクトに限らず、複数の利害関係者を巻き込む活動をする場合に、ぜひ一度この分析を行うことをお勧めします。

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