自社開発品が特許侵害に?! 身近に潜む知財リスク:自社事業を強化する! 知財マネジメントの基礎知識(1)(5/5 ページ)
技術開発戦略には知財管理が必須。ロボットアーム工業に降りかかる災難を例に、まずは知財リスクの確認を。
身近に潜む知財リスク 事例3:大企業から共同研究の提案が……!
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社長〜!あの超有名企業XYZ社の方がお見えです!!
えっ!XYZ社? うちのような中小企業に何の用だろう……!?
〜〜訪問してきたXYZ社の担当者を会議室に通して、路保社長と地西さんで対応しています。〜〜
実は今回、御社にお邪魔したのは御社の高い技術力を見込んで、ぜひともXYZ社と次世代ロボット開発のために共同研究パートナーになっていただくのをお願いするためです。
えっ!? 弊社がXYZ社さんのような超有名企業の研究パートナーですか?
そうです。弊社の次世代ロボット開発チームのメンバーは御社のロボットアームの技術力を高く評価しています。ぜひとも共同研究のパートナーになっていただきたい。
いや〜、天下のXYZ社からそのようなご提案をいただくだけでありがたいです。弊社としても断る理由はありません。なぁ、地西君。
そうですね。非常にありがたいお話です。
それでは、共同研究内容の詳細や共同研究を行うための契約書を当方より後日送付しますので、内容を確認のうえ、ご返送ください。
〜〜XYZ社担当者が帰った後……〜〜
やったな〜! 地西君!! うちの技術力もXYZ社に認められたか!
そうですね、やりましたね、社長(心の中で「でも何か気になるんだよな……。なんで、XYZ社がうちを選んだのかなぁ? うわさではうち以外のロボットアーム中堅企業とも技術交流があると聞いたことがあるんだけど……)。
〜〜後日、XYZ社から共同研究内容の詳細資料と共同研究の契約書が送付されてきた。〜〜
社長、XYZ社から来た共同研究内容については確認しました。ちょうどわれわれが進めようと思っていた研究開発内容と似ているので、XYZ社の方からのアドバイスも取り入ればいい製品になると思います。ただ、契約書の内容については私にはよく分からないので、社長の方でご確認いただけますか?
超有名企業XYZ社の契約書だから内容に問題はないだろう。サイン・捺印するからXYZ社に返送しておいてくれよ。
〜〜契約が締結され、XYZ社との共同研究がスタート。共同研究前からアイデアを温めていたYYYY機構について特許出願しようとしたところ……。〜〜
今回発明したYYYY機構については弊社サイドで生まれた発明をベースにしているので、特許出願人はロボットアーム工業株式会社だけでいいですよね。
いや〜、それは困ります。YYYY機構についてもロボットアーム産業さんと弊社XYZの共同出願として特許出願してください。
でも、YYYY機構は御社との共同研究開発前から弊社で温めていたアイデアなんですが……。
共同研究開発契約書には、「御社と弊社の共同研究に関連する発明はすべて共同出願する」と書いてありますよ。いまさらそういうことをいわれても困りますねぇ。
えっ!? 契約書ですか?
そうですよ、契約書の知的財産権の取り扱いの条項について見てないんですか?
信用できる相手に見えても契約書は入念にチェックを
事例3ではロボットアーム工業株式会社が契約書の内容をしっかりとチェックしていなかったために、もともと自社で温めていたYYYY機構に関する特許を単独出願することができずに、共同出願せざるを得なくなりました。
極端にいえば、XYZ社に特許をかすめ取られてしまったのです。
「そんな自社に有利な契約書を送り付ける大企業が悪い!」と憤慨するのは勝手ですが、契約書の内容をしっかりと確認していないロボットアーム工業株式会社側にも責任があります。
契約は紳士協定ではありませんので、契約書の一言一句までしっかりと内容を確認しましょう(自社だけで対応ができないのであれば法律の専門家である弁護士・弁理士に相談するといいでしょう)(※)。
※:知っておきたい特許契約の基礎知識(http://www.ryutu.inpit.go.jp/info/tebiki/index.html
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以上で第1回は終了です。お疲れさまでした。
今回紹介した知的財産リスクはあくまでも一例にすぎません。知的財産を軽視していると、会社の存続そのものが危うくなってしまうかもしれないということだけは、ぜひ覚えておいてください。
次回からは「知的財産をどのように事業に利用していけばいいのか」について解説します。
筆者紹介
ランドンIP合同会社 野崎篤志(のざき あつし)
1977年新潟県生まれ。
2002年慶応義塾大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻修了(工学修士)。
2010年金沢工業大学院 工学研究科 ビジネスアーキテクト専攻修了(経営情報修士)。
日本技術貿易株式会社・IP総研を経て、現在ランドンIP合同会社シニアディレクター(日本事業統括部長)。
知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、Webサイトe-Patent Map.net・e-Patent Search.netやメールマガジン「特許電子図書館を使った特許検索のコツ」を運営・発行している。
著書に『EXCELを用いたパテントマップ作成・活用ノウハウ』(技術情報協会)、『知的財産戦略教本』(部分執筆、R&Dプランニング)、『欧州特許の調べ方』(編著、情報科学技術協会)、『経営戦略の三位一体を実現するための特許情報分析とパテントマップ作成入門』(発明協会)がある。
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