いまから出来る! 設計者向けCAE活用の事始め:MONOistゼミ レポート(3)(3/3 ページ)
設計者向けCAEを活用してフロントローディングするためにも教育が大事なのはよく分かった。だけどすぐには無理という人にもひとまずアドバイス
明日からできること、ありませんかね?
最後のパネルセッションでは、栗崎氏が前ページの3ツールの代表選手たちに、厳しい突っ込みを行いました。
今回のパネリストは、オートデスクより梅山氏と笹谷 一志氏、CAEソリューションズからは石川氏、CFdesignジャパンから張 明氏の4名の方々です。皆さん、たまに冷や汗しつつも、真摯にお答えくださいました。
栗崎:3社の設計者向けCAEとしてのコンセプトを非常に簡単にまとめれば、
- Moldflowは経験者のナレッジにより設計者の未熟さをカバーする機能が付いている。
- Algorはモーション・機構連成解析ができ、かつ設計者でも使いやすくなっている。
- CFdesignは、導入の壁が低い。
のようになると私は思います。ただ、私もこの業界(CAEやCAD)が長いもので、正直、気になる点もあります。
Moldflowは、チューニングに時間がかかる!?
栗崎:以前、お伺いした東北のある金型メーカーさんでMoldflowのユーザーがいたのですが、チューニングに10年かかっちゃったよといっていたんです。さまざまな条件を調整し、材料データベースも充実させていかないといけない。ただ、それさえ済めば、カミソリのように正確な結果が出るとおっしゃっていましたが……。その方、現場を知らない数値解析者ではなく、熟練の金型技術者で、しかもたくさんの人に教育をしているような方だったので、これはどうも信憑性が高いように思えて……。Moldflowって、長時間のチューニングが必要って本当ですか?
笹谷:本当です。しかし解析は、現実の世界すべてを再現するわけではありません。つまり現実の現象を100点としたら、100点の結果になるための合わせ込みをしなければと考えるのが普通と思います。“カミソリのような結果”を出すためには、結果のモデル依存の部分、材料依存の部分、ソルバ依存の部分……などを1つ1つチューニングしていかないといけませんから、確かに10年はかかるでしょう。それに材料の世界は、科学的にまだ解明されていない部分もありますし。
解析専任者の方がそこを追求するのはありだと思いますが、設計者の方がそこまでをやるのは現実的ではありません。
Moldflowは部門部門によりゴールが違うことをよく考えなければ、上手に使えないツールだと思います。ツールやスキルの限界を見極めて、目標を設定していくことが懸命だと思います。
実際には、金型を作ってトライアルしてみないと分からない部分もあります。その中で、どうやって設計の方向性を見極めるのかが大きなポイントではないかと思います。例えば、CADデータを取り込み、まずは簡単な解析条件――例えば、ゲート位置はどこか、材料は何にするか――だけでも答えが出ます。ただし、それで終りではなく、そこから条件をいろいろ変えてみて、結果に影響があるかないかを(相対的に)検討していけばよいのではないでしょうか。
Moldflowと教育
栗崎:以前いた会社の部下が、机にこういう標語を貼っていました。
「やったことないことは、本質的に理解できないし、改善できない」
「うわっ、こいつスゲー!」って、思わずメモしてきたのですが、私もこの言葉を見てから、とにかく何でもやってみる、触ってみることにしたんです。クルマを作るロボットの解析をするときも、動いているところを見ないとやらないとか……。つまり、教育ってそういうものではないかと思うんですがどうでしょう。
御社でも当然、工夫された教育プログラムがあるんでしょう?
笹谷:おっしゃるとおり、あります。ただ通常のクラストレーニングでは、決められた題材で解析を行い、その結果の検証で終わります。要は、操作と結果解釈の入り口で終わるのが事実です。ちょっと変わったところで、女性ユーザー限定の『なでしこクラブ』という活動を月1回行っています。これは無料の基礎的な解析勉強会です。
梅山:オペレーションのみをやっているような方々は成型現場を知らないですし、解析業務をしていても達成感がありません。このクラブでは、例えば東京都の成型実習ができる施設に出向いて実習をやってもらう、あるいは当社のユーザーである型屋に出向いて実際現場を見せてもらうなどの活動をしています。また、ある程度クローズドな会なので、実際の仕事の課題を持ってきてもらい、どの点に苦労し、そしてどう解決したのか、発表会もしています。そうすることで達成感を覚え、業務へのモチベーションアップへとつながります。
栗崎:男性は、ないんですか?
梅山:男性だと、人数が非常に多くなってしまいますから、実現が難しいです。ただ、地方に出向いて勉強会を開くことがあります。『オヤジクラブ』っていうのですが(笑)
Algorさん、そんなに非線形の垣根を低くしてもいいの?
栗崎:非線形解析の垣根を低くし過ぎてしまうと、ユーザーが気軽に使い過ぎてしまうのではないかと心配です。設計者が座学をあまりにやらなくなったのは、ソフトウェアが非常に簡単になったからだと思うんです。それは私も含めた、ベンダ側の責任だと考えているのですが、ともかく、そんなに簡単に非線形解析を設計者にやらせてしまってもいいのでしょうか。
石川:簡単といってもやはり非線形ですので、使う側もそれなりに知識が必要ですよね。設計者もできればしたくないではないでしょう。ですが、いまは設計者もそれをやらざるを得ない状況に追い込まれていると思います。
ですがその中で、当然少々の座学の勉強は確かに必要です。まず設計者は、線形解析からやっていただき、それでも無理なら非線形解析に進んでいただくことは、大前提としてほしいです。
この製品の動力解析は、設定は簡単にでき、何か結果も出ます。つまり皆さんの考えた設計機構が、動きます。そこで、自分の想像していたものと違う動きの場合は、何か設定が間違っているんです。『こういう変な動きをするはずがないだろう!』と感覚的に気付いていただくため、つまり注意喚起というか。そういうふうに使ってくれたらいいと思います。
つまり「座学の習得」と「簡単なツール」の両輪で走ってこそ、設計者の解析が成り立つと私は思っています。
CFdesignの精度は大丈夫?
栗崎:CFdesignは、とにかくユーザーインターフェースが優れていると思います。今回も湯と水を混合する蛇口による分かりやすいデモンストレーションにより、このソフトは簡単に使えてしまうものだということが、よく分かりました。しかも最先端のグラフィックテクノロジーも入っている。すごいな、と思ったけれど、気になったのは、精度です。ほかの流体解析系のソフトと比べ精度はどうなのですか? 精度と使いやすさはトレードオフっていうじゃないですか。
張:よくありがちのことですが……ツールを導入し解析したとき、その状況を上司に報告するために、一生懸命パラメータスタディして、実験結果との合わせ込みをします。上司に報告しても怒られない結果にしてまとめます。詳しい上司ならそれを見抜くかもしれませんが、たいていの方はそれを見て『このソフトは素晴らしく、信用できる』と思ってしまいます。精度がいいから信用できるって。しかし、実験値と合わないツールは使えないという認識は大間違いです。
当社の製品は、定性的な面の解析の精度は確実で、重点的に開発している部分です。しかし定量的にやるのは、不可能ではないのですが、正直(少なくとも設計者には)お勧めできません。合わせ込みには時間がかかりますし。
CFdesignも、乱流など定量的な部分を考慮する解析もそこそこは行えます。ただ、設計者が使うのならば、まずは定性的な解析に集中する方がベストではないでしょうか。とにかく、設計者が“使える”ことが一番大事だと私は思います。
ご自身の状況やスキルに合わせてツールを選択していただいきたいと考えています。
栗崎:考えてみれば、非常に恐ろしい意見ですね。これって、つまり定量は当てにならないということでしょ? 張さんは工学博士で、前職の大手CAEベンダにいたときから今日まで最先端の技術を追いかけ、この道できちっとやって来られた方です。この方がそう、力強くいうのですから……。
■結論■
- 定性的な解析からまず行うこと。そのうえで、定量的な解析が行われること
- 定性的な解析をするにしても、まず座学の習得が大事
- 定性解析と定量解析をつなぐのは、やはり教育
その結論はやはり、教育。企業で、栗崎氏の『解析工房』のような座学教育のシステムをいきなり作るのは、さすがに簡単ではないでしょう。ただ、なでしこクラブのように実際に体験してみることは、非常に効果がありそう。例えば、工場見学会の企画なら、手っ取り早くできそうですね。
明日からできること
栗崎氏は最後に、「明日からできることはありませんか? 一言でお願いします」という質問をそれぞれのパネリストに投げかけました。皆さんそれぞれ、頭をひねりつつ答えをしぼり出しました。本音のところは「ウチの製品を買ってください!」なのでしょうが!? さて、その答えは?
笹谷「加工現場を見学し、できるなら加工も体験してみてください。その経験があれば、CAEを使っても間違った判断をしづらくなります」
梅山「自分が設計した部品ができたら、実際に実物の形を見てほしいです。設計とモノがイメージとしてつながってきます」
石川「設計者向けCAEをすでにお使いの方は、とにかくいじくってみてください。(業務外でも)さまざまな条件を変更してみて、どういう結果になるか、たくさん経験してください」
張「とにかく(CAEを)やってみることが大事だと思います。そうしていくうちに、自分に知識が足りないことがよく分かってきて、そこから勉強してみようという意欲も湧くと思います」
明日からとはいわず……すぐにでも実行できるなら、いまからいかがでしょうか。
栗崎氏は、最近の設計者は「ソフトウェアへの好奇心がない」とおっしゃっていました。多くの設計者は、CADにしてもCAEにしても、仕事でしか使わないという状況ではないでしょうか。仕事で疲れ切って、オフでは顔も見たくないかもしれません。でも、仕事を目的にしなければ誰にも怒られませんから、おバカな設定をわざと試してみる「ちょっと遊んでみよう」感覚も、スキルアップにつながっていくきっかけになるのではないかと思います。
※この講演のプレゼンテーション資料はここからダウンロードしてください(PDF)。
栗崎氏より
セミナー当日の資料から、機密性の高いもの、技術的価値の高いものは削除させていただきました。この資料のみでセミナーの全貌を想像することは難しいかもしれませんが、参考程度にご覧ください。
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次回のMONOistゼミナール開催にご期待ください!(編集部)
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