機械設計業界では図面を軽視しているの?:「技術の森」モリモリレビュー(3)(3/3 ページ)
今回は、自社の製図スキルの低さに対して非常に憤慨しているという投稿だ。あなたの職場はどう?
もう転職するしかない?
それでは、職場にはびこる“製図は力業”の認識を変えるには、どのようにしたらいいのだろうか。
「担当者と上司の双方からアプローチしなければならないと思います。トップダウンでもなく、ボトムアップでもなく、互いに重要性を理解して、図面に取り組む姿勢を作り上げなければ浸透しないでしょうね。
上司や担当者も含めて、図面は部品を製作するための単なる情報ツールだと思っていることが問題なんです。また加工技術者のいいなりになってしまい、設計意図も関係なく加工しやすい寸法記入が、本来の図面の目的だと刷り込まれている人も多いようです。その認識をまず変えなくてはいけません。つまり上司は部下に設計意図を表現させ、機能レビューできる図面を要求し、担当者は上司に設計意図が伝わりレビューしてもらえる図面を描く努力をしなければいけないと思います」(山田氏)。
回答17の方は、投稿者のこれからの動き方に対し、下記のような選択肢を提案していた。
- 味方を探す
- 諦めて、同じ色に染まる
- 地道に活動する
- 退職する
(回答17さん)
技術の森に投稿しにきたこと考えると1は厳しそうだ。2についても、そう割り切れるなら、そもそも投稿をしてこないだろう。4は……何だか切ない。ベターなのは、3の「地道に活動する」だろうか?
しかし投稿者は、回答17さんに対して、下記のように返信した。……切ない方向へ片足を突っ込んでしまっている。
「私も考えたんですが、味方もいないですし、諦めて同じ色に染まる気もないですし、地道に活動しても無理です。変わらないです。
もう、私が転職するしかないかもしれません。
本当にこんな会社がなりたっていることに、奇跡と思います。」 (投稿者さん)
「私はその部長に改善の話を提案しましたが、設計者が設計していないという事自体を認めてもらえませんでした(CADゾーンにいつも正社員が居ないのを見てくださいと言っても)。残念ですが長年染み付いた体質を変えるのは容易ではありません。上司も巻き込んで3年以上はかかるでしょう。選択肢は残ってがんばるか去るかです」 (回答18さん)
「なぜか、改善しようという方向には持っていかないんですよね。
後から入社してきた人に言われることが、プライドを傷つけてしまうのでしょうかね。でも、そんなの関係ないですよね。悪い点は改善しないと。」 (投稿者さん)
問題意識を持てる人材は外へ流れ、場に流されて何となくいるような人だけが中に残る。それで一番損をするのは、企業なのに。投稿者の職場では、地道に活動しようとしても、非常に苦戦しそうだ。
「私も教える立場ですから、選択肢3のように地道な活動をしていることになります。私なら、さらに『5.企業の倫理観を促す活動すること』を選択肢に加えたいですね。企業の倫理観に訴える手段とは、企業それぞれが、図面の重要性を認識し、大手企業が先導して、下請けの設計者や派遣設計者の教育まで責任を持つことが求められると思います。いま、正社員は教育するが、下請けや派遣設計者は対象外としていることが技術者としての教育格差につながっていると確信しています」(山田氏)。
特に不景気な今日、雇う側の大手企業は、現実的にそこまで手が回るのだろうか。また、中小企業や派遣会社、または個人が、スキルについてどうにかしようと考えたときも、人材面や資金面で厳しそうだ……。もっと個人のレベルから取り組めることはないだろうか?
「昨年の世界同時不況以来、経費を使って外部セミナーなどに参加することが非常に難しくなりました。現状だと、ポリテクセンターや各都道府県にある産業技術財団などが主催するセミナーがあり、国からの補助金が出るために格安で受講できます。会社が金を渋るからと自腹で有給を取って参加する人も散見されます」(山田氏)。
職業能力開発促進センター(愛称「ポリテクセンター」)といえば、求職中の人が通う訓練所というイメージが強いが、在職者を対象としたセミナーも開催されている。この取り組みは、意外と知られていないようだ。「このようなセミナーの情報が、中小企業の設計者や派遣技術者に対して十分に周知されていないと思います」(山田氏)。
その周知のために微力ながら貢献できればと思い、下記に在職者訓練の情報を掲載しているWebサイトを紹介しておく。こちらでは、企業研修も依頼することができる。
鳥かごの中の小鳥?
「少々大きな話になりますが、製造業の『教育格差是正』について国を挙げて取り組まないと、技術立国ニッポンの将来はないかもしれません」と山田氏はいう。それだけ、この投稿の裏にうごめく問題もまた深刻だ。深刻だからこそ、投稿も回答も長文になってしまう。しかも、答えがよく見えない。
その答えは当分、苦しみながら自分たちで探していくしかすべがないのかもしれない……。
「設計作業は毎日夜遅くまで残業するのが当たり前で、仕事をすればするほど、怒られる量も比例します……。設計者は、接待で銀座や北新地に行くこともなく、工場という鳥かごに飼われた小鳥のような存在です。それでも、自分が考えた構造や機構が具現化され、世の中で人の役に立っているということだけが唯一の助けだと思います。大企業に比べれば、中小企業は給料も待遇も悪いのですが、いまの日本の製造業、設計現場を支えて動かしているのは中小であり派遣設計者であると自負してください」(山田氏)。
機械設計者になって、まず面白いと感じたことは、自分の描いた設計図が、実際にモノになった瞬間ではないだろうか。やがて、自分が設計したモノのおかげで、誰かが喜んでくれたときも、このうえない幸せだと思う。1つ1つの作業はとても地味だけれど、自分が作ったモノがきっかけで社会の一部を確実に動かしている。……たまに迷惑を掛けるかもしれないけれど……ちゃんと役にも立っている。どんな仕事でも共通していえることだが、つらいときに一番支えとなるのは、結局、職務へのプライドではないかと記者は思う。
図面の描き方へのこだわりも、そんな職務へのプライドの一部ではないだろうか。
「決して機械設計は図面を軽視していません。これだけは忘れないで!」(回答14さん)
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次回もお楽しみに!
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