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機械設計業界では図面を軽視しているの?「技術の森」モリモリレビュー(3)(2/3 ページ)

今回は、自社の製図スキルの低さに対して非常に憤慨しているという投稿だ。あなたの職場はどう?

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 「私が恐れているのは、JIS製図のルールから外れた指示が1つでもあると、正しい図面ではないのかと委縮することです。委縮すると、効率よく図面を描けません。

 JIS製図は、あくまでもガイドラインで、設計者が製図する際に直面するすべてのパターンがJISに記載されていません。従って、JISにないものは、オリジナルで表現するしかなく、その内容を第三者が見たとき、解釈に相違がないものであれば、正しい図面といえます」(山田氏)。

 ただし、ここで大事となってくるのは、企業自身が設計作業の一連のフローやルールをしっかり決めること。JISで決められない部分は、企業や扱っている製品の独特の部分。それは当然ながら、その企業で決めるしかないのだが……。

 「投稿者が憤慨する具体的な問題はよく分かりません。ただ、おそらくはJIS製図以前の問題、つまり図面の重要性を理解していないことの問題だと思います。投稿者さんの職場については、製図の社内ルールも決められない体質がそもそも問題だと思います。また、私は図面の基本について『相手に伝わればよい、分かればよい』でOKと思っています。しかし質問文の中では、悪いイメージで使われていますね」(山田氏)。

製図って、力業?

 長文による訴えの後半部では、以下のような質問が投げ掛けられている。

「機械設計という業界では、図面はこんなものなんでしょうか?」(投稿者さん)

 「有名な大企業の社内研修で、設計実務者に実情を聞いたことがあります。特に社内規定で、どう図面のルールを統一するか決まっていない。細かい内容で例えると、注記を書く場合、漢字の送り仮名を平仮名で統一するのか、カタカナで統一するのかがあります。隣にいる同僚が平仮名を使っているのか、カタカナを使っているのか知らないというのです。大企業でさえ、基本ルールが取り決められていないことに、驚きを覚えました」(山田氏)。

 これは大手企業の例だが、中小企業の場合では、特に問題は多くなるという。もちろんすべての中小企業がそうだということではなく、その中には、きっちりとした製図ができている企業とできていない企業がいるわけで、とにかくその格差が著しいそうだ。

 「この投稿者の方がいうような、材質記号を使わずにアルミとだけ描くようなレベルでは、寸法線の入れ方以前に、第3角法で描かれているかどうかも疑わしいです……」(山田氏)。

 以下のように、回答の中にも、図面のスキルが低い設計者を実際に見たことがあるというコメントがいくつか見られた。

「私も、他社の図面を見る機会があって「これめちゃくちゃじゃないか?」と思ったことがあります。図面と製品が合っておらず、規格にも全然入っていません。よくもまあこんな図面で成り立つなぁと思いました。」(回答1さん)

「JISに基づかない、めちゃくちゃな図面は何回も見ています。

造船で図面を習って、三角法と図面に書いているのに、一角法で書き

しかも、矢視で見た方をそのまま書かないで、上下を考えてわざと振って

書いたりして、製作者が間違える(図面通りなんですが…)と、作り直し

を指示して、図面はそのままで、リピートも同じ間違えで」(回答4さん)

「精密自動機,産業用ロボット等のメカ設計をして機械図面に関しては数十社見てきましたが,質問者のような図面に対する会社もありますし,JISに厳格に対応している会社もあり,また独自の規格で書いている会社もあり,いろいろです。」(回答7さん)

 機械設計の業界では、学校で専門教育を受けてから設計者になるケースが多いはず。それなのに、習っているはずの基本すらできていない。

 現場の設計者のスキル低下については、「技術の森」モリモリレビュー(1)で國井氏が、学校の工学系専門教育の体制に、まだ工夫の余地があることを述べている。

 また山田氏は、『図面ってどない描くねん』の前書きでも、下記のように述べている。

「『図面に寸法を入れてくれ』と頼まれたものの、学生時代に学んだ製図をいざ実践で使おうとしても、手が動かない…」

(山田氏の著書『図面ってどない描くねん』(日刊工業新聞社刊)より)

 山田氏自身、メーカーに入社して間もない頃、嵌め合い公差を設定する場合に、その嵌め合い具合がまったく想像もつかず、何を根拠に選定すればよいのか分からず悩んだことがあるいう。製図の学習は座学であり、基本的に地味で退屈なもの。同氏も実際に学生時代、そう感じたという。「教育では、図面指示に対応した現物を触らせて技術者としての勘を養わせることと、図面を見て加工者がどのような不満を感じているかなどの生の声を聞かせることが一番の経験になると思っています」(山田氏)。

 ただし、ここでいう“企業の図面軽視”の問題についていえば、学校教育とは無関係ではないかという。設計そのもののスキルと製図のスキルとでは、置かれている立場が違うとのこと。

 「新入社員を受け入れる企業サイドは『学校で製図を習ってきているから、製図を教える必要はない』ことを言い分としています。設計作業の中では、『アイデア創出』⇒『スペースを満足するよう具現化』⇒『製図』の流れがあります。前の2つに比べると、製図はどうしても軽視されるのは理解できなくもないのです」(山田氏)。

 「短い納期を守るための設計作業とは、CAD上に計画図を描き上げるまでと(その上司たちも)考えているのではないでしょうか? そこまでできれば、製図は“力業”だと……そのような意識が軽視する原因だと思います」(山田氏)。

 産業機械の設計現場では、設計者が設計の基本となる計画図を描き、その下にトレーサや設計アシスタントが付き、部品ごとに担当を分けて製図をするといった業務分担が多く見られる。トレーサの中には、工学系の専門教育は受けていない美大卒や文系卒もいる。彼らは職場で先輩や上司から教わりながら、製図のルールを徐々に覚えていった。手描きの時代は、それで問題がなかった。部品の形状や機能を自分の頭の中で考えながら描かなければ製図ができなかったからだ。

 問題は、設計がCAD化された近年だと山田氏はいう。2次元CADではオーバーレイ(あるいはレイヤ)が掛けられ、計画図の時点で部品が色分けされているので、CADが自動的に対象部品だけを抜き出してくれるため、周辺部品との関係など考える必要がない。3次元CADは、それがさらに立体になっている。つまり、CADの製図では頭の中で形状をしっかり思い浮かべてから描く必要がない。なので、設計意図を考えながら製図するきっかけを失いやすくなってしまうというわけだ。

 「設計と製図の分業は否定しませんが、図面に設計意図を明確に表すためのルール作りと意識付けが存在しなければ成り立たないことだと思います。ここで、100人のトレーサがいるとして、100人がある部品図に寸法を記入したとします。少し複雑な形状の部品であれば、100通りの寸法記入が存在することになります。でも、基になった部品の機能は、たった1つしかないのです……。100人いたら、100人がほぼ同じような寸法記入にならないと、正しいモノづくりは行えないと私は確信しています」(山田氏)。

 設計意図が伝わりづらい図面が、加工現場に流れていくとどういうことが起こるか。……意外と何とかなってしまっていたのが、日本のモノづくりだ。しかしいまや、それは過去の話になりつつある。

力業な製図がまかり通る理由

「日本では、生産技術は間違いなく世界でもトップレベルですが、設計レベルは非常に低いレベルです」

本連載第1回より。國井氏のコメント)

 日本のモノづくり現場では、設計者が多少いい加減な図面を描いても、受注した加工業者側で調整してくれることが多い。短い納期に合わせようと、とにかく図面をエイヤーで出し、物を作ってみて考える。加工で何とかなってしまえば、図面は直さないでOK。そんな企業も中にはいる。

 モノづくりが現場任せになると、別の工場へ移管した場合などに、現場の情報が引き継がれず、次の工場では図面から別の解釈をされて、違った工程になる可能性があるという。品質的に神経質な製品の場合、現状の部品を正(しょう)にして、品質を作り上げるため、ちょっとした寸法の変化で品質が崩れることもよくあるとのことだ。また、海外に生産を依頼した場合は、もっとひどいことになるだろう。

 「私の知っている中小の会社では、親会社から受け取る図面には外形形状が記入されているだけで、詳細構造どころか、嵌め合い記号や溶接記号すら入っていないものばかりです。従って、受け取った工場側の現場の作業者が加工法を独断で決めています。その人が工程を覚えている限り、リピート注文は同じ工程で保証できますが、工程を忘れたり、人が辞めたりすると情報が途絶えてしまいます。当然、同じ図面で違う工場に発注すると、まったく違った工程になりかねません」(山田氏)。

 「設計者がどうやって加工するのかも知らない、機能を保証して組み立てるためのテクニックさえ知らないというレベルで図面を描いてはいけないのです。設計者が加工や計測の知識を知り、図面に盛り込むことが理想的です。以前は、図面に不具合があると現場に呼び出されて、設計者が説教を食らうということが当たり前で、その時に加工方法や加工に親切な図面のテクニックを覚えたものです」(山田氏)。

 回答の中にも、このようなコメントがあった。

「加工現場から言わせると、『加工を知らない設計者はダメ』だそうです。

私も設計に携わったころは、現場へ行って「こんな部品が必要なんだけど、加工方法はありますか?」なんてよく聞いていました。

やはり、物を作るための図面ですから、作る人に確実に伝わる図面を描くのは当たり前のことでしょう」(回答14さん)

 ただ、そうするにしても、企業の事情でなかなか、ままならない場合もあるという……。

 「最近は、加工部門の分社化によって、加工技術者たちが親会社の若い設計者たちに文句がいえない状況が多いです。あるいは技能を持つ熟練技術者の退職によって、加工現場も若くなり設計とのコミュニケーションが皆無になっているように感じます。機能設計と工程設計について、設計部門と製造部門がどう責任を分担するかの取り決めが必要です。しかしそれを取りまとめる部署が明確でないことが、現状の問題ではないでしょうか?」(山田氏)。

 つまり、企業そのものの組織体制がここで問われてくるわけだ……。

 「大手企業では、多少図面がいいかげんでも図面とは別に工程設計した情報を管理しており、製造先が変更となっても工程が変化することはありえません。」(山田氏)。

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