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サムスンになれなかった日本の製造業戦略構築のためのライフサイクル管理論(3)(1/3 ページ)

自社の製品開発戦略をしっかり把握しているでしょうか? 製品開発・生産技術の効率化を追求していたとしても、しっかりとした戦略とマネジメント意識がなければ意味がありません。本連載では、マネジメント技術としてのライフサイクル管理を考えていきます。

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日本の「強い現場力」が市場で優位にならないならば……

 日本の企業は欧米企業に比べ、「弱い本社機能に強い現場力」とよく例えられます。

日本企業の強みであった「現場力」もコストの安い国の台頭で「現場力」だけでは競争力を維持することが困難になってきています。

 欧米企業のようにトップダウンで物事を進めるようにするほうがいいのでしょうか? それではいままで世界一のモノづくり力を維持してきた現場の柔軟性がなくなってきます。

 では現場のモノづくり力をさらに強化していけばよいのでしょうか? 確かにその方向性はありますが、世界トップレベルの経済大国である日本の人件費と、10分の1や20分の1のコストで生産できる国とではとても競争できません。製造業の取るべき戦略はさまざまで、どの企業にも当てはまる絶対的な解決策を提案することは不可能です。

 しかし、解決策の方向性を見いだすことは可能です。今回は日本の製造業が取るべき1つの方向性について提案していきたいと思います。

イノベーション力=設計力の誤解

 製造業の取るべき1つの方向性としてはプロダクトのイノベーション力(商品力)を強化するという施策があります。簡単にいうとアップルやフェラーリ、バング&オルフセンのように誰もが「欲しい」と思わせるモノづくりを実現する方法です。

 日本にもソニーやホンダ、最近では任天堂など、この戦略で成功している企業があります。

図 バング&オルフセンのデザイン性の高いスピーカーシステム
図 バング&オルフセンのデザイン性の高いスピーカーシステム
写真はBeoLab 8000のもの

イノベーションのつもりが「弱い本社機能」状態に

 「プロダクトイノベーション力を強化する」というと多くの日本企業では「設計部門の力に頼るしかない」と考えがちですが、果たしてプロダクトイノベーション力の強化は設計部門だけの仕事でしょうか? この発想になってしまった企業はまさしく「弱い本社機能」の状態といえます。

 前出の企業では魅力的な製品を市場に出すために、設計部門だけでなく商品企画を含めたマーケティング部門が大きく製品開発に関与してきます。

構想段階からのマーケティングで「市場を作る」

 マーケティング部門は商品企画段階はもとより、製品の仕様がまだ十分決まっていない段階から設計部門と一緒になって色やデザインを決めていき、製品が工場で量産される前に自社の製品のプロモーション活動を市場に対して行っています。

 設計部門が製品としての機能を作り込み、マーケティング部門が商品としての市場を作るといった役割分担を効果的にできていないと、設計部門は多機能化に走り、マーケティング部門は完成された数多くの商品に対して個別のコマーシャルを実施するといった形になってしまいます。

「欲しい」気持ちに気付かせる

 市場を作るということは「消費者に欲しいものを気付かせる」作業です。最近の携帯電話は非常に多機能になっています。どの機種でもTV電話やワンセグまたはおサイフ携帯機能が付いています。

 しかし、街中で携帯電話のTV電話機能を使って話している人をほとんど見掛けません。移動中に携帯でワンセグを見ている人もあまり見掛けません。「おサイフ携帯」はよく使います。しかし海外では使えません。

 このような多機能の携帯電話にはそれなりのコストが掛かります。ただでさえ高い人件費の国の製品が、世界市場でコスト競争力を持てるはずがありません。

 このように市場作りをせずに、機能作りにフォーカスした結果、世界の市場から日本の携帯電話は取り残されてしまったのではないでしょうか。どの日本製品も間違いなく世界最高水準の機能と品質を持っています。

 日本企業が強い本社機能でもって製品力を向上させるには、設計力にばかり目を向けるのではなく、世界市場を視野に入れたマーケティング戦略の抜本的な改革が必要です。

 しかしヒット商品を連続で発表し続けるということは至難の業で、どの企業にもマネのできるビジネスモデルとはいい切れません。

 プロダクトのイノベーション力の逆に位置するのは、プロセスのイノベーション力――簡単にいうとモノづくりの改善力です。

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