悪戦苦闘する学生。鼓舞激励する修理工房:第7回 全日本学生フォーミュラ大会 レポート(2)(3/3 ページ)
経験も個性もそれぞれな4校について、チームのこと、設計のポイントなどを紹介。学生たちを裏で支える修理工房も登場!
修理工房の主たち、語る
最後に、前のページで学生たちがお世話になっていた「修理工房」の主たちを紹介しよう。今回は工房スタッフを代表して、ホンダのマイスタークラブ 森 久男氏とホンダで二輪車の電装関連を担当する設計者 渡辺 二夫(つぐお)氏に登場いただいた。
「この修理工房にくるのは、参加経験の浅い学校が多いです。ここにきて、まだクルマを作っている(車検を通すための修理をしている)学校もあります」(渡辺)。
「参加経験が浅い学校の方が、見ていて面白いです。発案が結構面白いんだ」(森氏)。
マイスタークラブはホンダのOB社員たちで構成する学生フォーミュラ支援ボランティアグループ。渡辺氏は上記で紹介したように現役の設計者だが、同クラブのサポートを行っている。
「フレームができ、エンジンが載り、タイヤが付くまではどの学校でも何とかなるものなんです。クルマは形になってから以降、まともに動くようにするのが、とても大変です」(渡辺氏)。タイヤの付いた車両が一旦まとまってから、学生たちは『さて配線はどう通そうか』と悩む。ジャッキアップをしないとバッテリ交換できない作りにしてしまったり、頻繁に取り外す部品はその下にないからといってカバーを溶接で缶詰にしてしまったり……自動車メーカーの社員たちから見れば、何とも奇妙な構造にしてしまう。また、そのような発想が、逆に学生らしくて面白いと森氏と渡辺氏はいう。
しかしそのような事態は、気を付けていないと火災などの事故につながる恐れもある。修理工房にいる熟練技術者たちは、そのような事態が起こらぬようにと学生たちを叱咤(しった)激励しながらサポートしている。ただし、小さなスパークに触れたり、擦り傷を負ったりといったハプニングは、学生たちにはいい経験だ。
「とにかく、要領が悪い学校が多いですね。時間がない中で要領よくやろうという知恵が、学生はなかなか働かないようです」と渡辺氏はいう。その様子をよく表している1エピソードを話してくれた。
「『ブレーキテストの際に四輪ロックしなければいけない』というルールがありますが、以前、とある学生チームから、『うちのブレーキ、弱くてロックできない、どうしたらいい?』と相談されました。会場にきて、さすがにブレーキをいじるわけにはいきませんから、『タイヤの空気圧を上げておけよ』ってアドバイスしたんです。そしたら『4キロ(kgf/cm2)以上空気入れるとタイヤが壊れちゃう!』って」(渡辺氏)
カタログに提示されている数値は、自動車が長距離を走行したようなときであって、一時的にそれ以上入れても壊れないのが実際のところ。学生たちは、このようなサジ加減を判断することが特に不得手だという。
学生フォーミュラと人材教育
「新人の設計者は、モノが作れない図面書いてきます。加工のことをまったく分かっていない」(森氏)
「加工現場の人に怒られて、初めて気が付くんです……うちの若いのもそうです」(渡辺氏)
機械設計は、図面がきれいに描けるだけでは成り立たない。工学系の専門教育を経てホンダに設計者としても入社してきても、設計者として呼べるまでに育つまで最低3年は掛かると両氏はいう。
「ともかく、人間、恥かくのが一番勉強なんですよね。ホンダの若手社員はね、技術者のおやじたちからバカヤローっていわれて育つんだ。学生たちはこの大会に出て、負けて、悔しい思いすれば、また勉強するんです。あと物の作り方を現物で勉強できるのって、とても効果的でしょ。学生たちにもね、『バカヤロー! こんなもん、できると思ってんのか!』って怒られて、恥をカキカキして欲しいんだ」(森氏)。
「前回は5位だったのに、今回は20位だったとか……そういうところがこの大会の面白いところなんですよね。高校野球でいえば、昨年の優勝校が、今年初戦敗退するようなことがしょっちゅう起こるんだ」と森氏は大会の面白さについて語った。そのような、大会の厳しさゆえの七転八起の裏では、メンバーとの軋轢(あつれき)、自分自身との葛藤などが起こり、学生のメンタル面においても強い刺激となる。楽しいことも多い一方で、辛い作業も同じぐらい(それ以上?)多いのが学生フォーミュラ活動の特徴。
「この大会まで残るのは、根性あるヤツらばかりですよ。学校が休みになるとアルバイトするんだけど、そのお金でクルマの部品買うんだって」(森氏)
ホンダでも、学生フォーミュラ活動OBの学生を採用しているという。「やっぱり、フォーミュラ経験者とそうでない人とでは、ぜんぜん違いますよ」(渡辺氏)。この点については、過去インタビューした常連校の学生たちが口をそろえて述べていること。フォーミュラOBたちは、企業に就職すると、周囲の新卒との仕事への意識の違いにまず驚き、その後、実務の習得のスピードの違いも体感するのだという。
「そりゃあ、この大会に参加している学生達が卒業後、企業でも大活躍してくれるのは、とても嬉しいです」(森氏)。
フォーミュラOBたちは、自動車メーカーやその部品サプライヤーなど自動車関係へはもちろん多く就職するが、業種はそれには限らずに多岐に渡るという。「必ずしも、自動車業界じゃなくていいよ。日本のためになってくれれば」(森氏)。
また彼らはせっかく素晴らしい活動をしているのに、面接のときのアピールが下手だと森氏はいう。「周りの友達が彼女と手をつないで遊んでいる間に、必死で頑張ってんだから……もっともっと評価されて欲しいですよ。面接のときにね、自分が携わった部品も持っていけってアドバイスしているんです。『ここの、こういう部分に知恵絞ったんですよ』っていえよって。説得力がないから面接に落っこっちゃうんだ……」(森氏)。
「頭のいい学校だからって、いいものを作るっていうのは、まずないなぁ」と森氏はいう。今回の優勝校は最高峰といわれる東京大学だが、数年前までは上位にいくのに非常に苦労していた。大会の結果を見てもらえば分かるが、総合順位と大学の偏差値は、同氏のいうようにまったく関係がない。各企業の新卒採用担当者も、大学の偏差値や学業の成績ばかりを見ずに、学生フォーミュラ大会のような即戦力を育てる活動についての理解を深め、その点をしっかり重視してほしいもの。
「マイスタークラブでも、日ごろから子供や学生の技術教育支援に取り組んでいますが、これからは国レベルでも、もっともっと教育のあり方を考えていく必要があるのではないでしょうか。だから国には、ぜひ新しいことをやってほしいですね」(森氏)。
次回は、「デザインファイナル」の模様とその出場校についてお伝えする。
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