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トヨタが求めたデザインレビューの精度とDMU3次元データ活用入門(2)(1/3 ページ)

景気回復局面でV字回復を成し遂げられた企業と、そうでない企業の間では何が違うのか。3次元データがその謎を解くカギの1つを握っている。モノづくり企業が「知のめぐりのよい企業」として組織力、企業力をつけるための仕組みづくりを考える。

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DMUレビューでも品質問題が噴出する理由!?

 前回は、製造業を取り巻く潮流として、3つの観点から説明しました。第1に3次元 CADの普及とともに、製造業における軽量3次元データの存在意義が高まっていること、第2に製造不況を契機として、製造業を支えるITインフラが大規模投資を前提とした「剛構造のIT」から、現場レベルで3次元データ活用をそれぞれに推進する「柔構造のIT」へと変化していること、第3に、結果として、3次元データを全社規模で利用することが製造業の競争力の源泉となりつつあることについて解説しました。今回はCAD、CAM、CAEを超えた3次元データ活用の実際を紹介しましょう。

「モノづくり情報」の2つの使い道と品質問題

 軽量3次元データによる3D活用には大規模データを利用した設計データの検証と軽量特性を生かした3次元データのドキュメント利用の2通りがあります。設計データの検証は、設計や生産技術部門でCADにより設計された形状が「モノづくり情報」として正しいのか検証するものです。

 一方、3次元データのドキュメント利用は、検証された「モノづくり情報」を利用して、工場や品質保証、販売準備部門、保守部門などの後工程への情報伝達を支援するものです。今回は設計データの検証に焦点を当てて説明をします。これは、これまでDMU(Digital MockUp:デジタルモックアップ)と呼ばれた領域に当たります。

 3次元CAD導入効果の中で、最大のものは部品と部品の干渉を発見することです。3次元CADが導入企業では、確かに干渉チェックにより設計品質は向上しました。しかし、新聞紙面で見る限り、品質問題が少なくなっているように見えません。

グローバル化、フラット化がもたらす「落とし穴」

 『日経ものづくり』誌2007年1月号に、製造業で頻発する品質問題の原因を分析した記事があります(注)。ここから、品質問題の主な原因として指摘されている主な4つを引用してみましょう。

  1. 開発期間の短縮で十分な検討時間がなくなっている
  2. 設計者のスキルが全体的に低下している
  3. 設計ミスを洗い出すための体制が整っていない
  4. 機能が複雑化・高度化して従来の設計スキルでは品質を確保できなくなっている

注:「日本製品の品質 大多数が感じている品質低下」『日経ものづくり』2007年1月号


 経済がグローバルになるということは、長期的には、同じ機能の製品は世界中で同じ価格になるということです。つまり、同じ機能の製品を同じように開発していたら、人件費の安い海外製品に絶対に勝てないということです。対応策はあるでしょうか?

 発展途上国では開発できないような付加価値の高い製品を短い納期で製品投入するというのが勝つための1つの方策でしょう。付加価値の高い製品は複雑な構造になります。メカ、エレキ、ソフトの3つの技術を統合して、機能や性能を作り込む必要があるからです。

 実はここに品質問題の落とし穴があります。製品としての競合力を高めるために、付加価値の高い製品をタイムリーに提供していかなければならない、この結果、製品は複雑化します。一方、納期はむしろ短くなります。この負荷を数少ない設計者が支えなければいけなくなりました。当然、設計現場は疲弊し、教育は十分できず、チェックのための時間も十分取れないという問題が起こっていました。最近は不況の影響で、生産調整に入り、時間的な余裕があるかもしれません。しかし、本質的な問題は変わっていません。結局、日本の製造業が勝ち残るには、高付加価値製品を市場にタイムリーに提供していくしかないのです。

設計者たちの負荷をどうするか

 この問題にITはどう貢献できるのでしょうか。問題を整理してみましょう。問題は、「設計部門での3次元設計データを利用して、擦り合わせ型の高い付加価値を持った製品の設計品質をいかに上げていくか」ということになります。3次元データを軽量化することで、設計検証の観点から3つのポイントで、ITが製造業に貢献できます。

  • 設計の品質を高めるデザインレビュー
  • メカトロ製品のソフトウェア設計を支援する機構シミュレーション
  • 製造効率を高めるための工程設計

 擦り合わせ型の製品というのは、部品数が数千から数万にも及び、非常に複雑になってきます。CADや解析ソフトで全体を処理するのは、メモリの制約や表示速度の点から困難です。そこを軽量3次元データで解決していくのです。それでは、軽量3次元データを代表してXVLの実ユーザーの事例を題材に、この3つの観点からITが設計品質をいかに上げるかを詳細に説明していきましょう。

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