オレ、ハイブリッド車ってあまり好きじゃねぇなあ:甚さんの設計分析大特訓(10)(3/3 ページ)
最終回は甚さんが世の中のハイブリッド車の設計に喝(カツ)!! 「そっくりなカタログ作ってんじゃねぇよ」と怒る。
ところで甚さん、なんでカタログなんですか?
競合分析の基本は、まずカタログ分析だ。これはお見合い写真みたいなものだから、各企業が真剣に作成する。そして全部門がチェックしている。従って、容易に『設計思想とその優先順位』が入手できるんだよ。
なるほど。面白そうですね。すぐにやります。
図4は、良君の競合分析と「同思想戦略」です。分析の第1ステップです。
甚さん、僕の推定ですが、おそらくH社は、図4に示した『同思想戦略』を企画したと思います。しかし全世界で先行するT社の『P』には、だいぶ水をあけられているんで、勝つ見込みはないと判断したのでは。
良君、なかなか鋭い推察力じゃねぇかい。いきなり判断せず、推測でもいいから、まずステップを踏んだというわけだな。かつては3次元モデラーと呼ばれたやつとは思えん成長ぶりだ……。
そこで! 図5に示す『トレードオフ戦略』に出たんです。『トレードオフ戦略』であるからこそ、図3の枠の中、つまり、マーケティングリサーチに時間をかけた!
これも僕の推定ですが、おそらくH社は『低コスト化』を『設計思想とその優先順位』の第1位に設定して戦いを挑んだのですね!
今回はそれでグッジョブだぜぃ。次に【復習1】でやった同思想戦略に戻ってみるぞ。
筆者注:実際は異なります:T社のPは、H社のIの発売後に価格対抗車として発売されました。ここでは考え方を知ってもらえればOKとしています。
優先順位が1位の「低コスト化」を満たすために、第2位のエンジンとモータをともに小型化や出力ダウンの手段で低コスト化を図ります。前記のセオリーどおりです。その結果、表1に示す駆動力(エンジンとモータの出力)に差が出ました。特に、モータの出力差に注目してください。この大きな差は、設計思想を変えたことによりものであり、モータの役割が大きく変わります。
これらの差がエンドユーザーに受け入れられるか否かのシミュレーションがマーケティングリサーチなのです。再度、前ページで復習もしてみましょう。
今後もH社では、この開発パターンが企業戦略となるでしょう。このように設計分析を蓄積することでH社の手の内をすべて分析することも可能となってきます。
これが設計分析の怖さであり、攻撃性です! そして、これが3次元モデラーと設計者との相違です!
しかし、良君! 気を付けなくてはならんぞ。しつこいが、この資料(図6) を再登場させておこう。
あっ! すぐに思い出しました。『トータル・コストデザイン』ですね。第6回で登場したときは、“目からウロコ”でした。
今後、ハイブリッド車の低コスト化が激化すると思います。関係者の方々は、図6を眺めながら低コスト化設計を遂行していただきたいものです。
残念ですが筆者は、ハイブリッド車にあまり好意をいだいていません。なぜなら、日本の携帯電話や多機能事務機同様に、「何でもあり!」の商品に思えてなりません。自動車という搬送用機器の動力源にどうして、エンジンとモータを搭載しなくてはならないのか。省エネ、地球環境といいながら、モータとバッテリーというやっかいな産業廃棄物をなぜ、論じないのか。それに、「P」も「I」もいまひとつ個性がありません。設計思想がないから、酷似してしまうのです。設計思想がないから、いとも簡単に相手を真似ることができるし、真似をされるのです。
最終回はいかがでしたか? これであなたも「3次元モデラー」から「真の設計者」へと脱皮できますか? 設計とは、守備ではなく攻撃であることを理解できましたか? より深く理解したい方は、下記の書籍をよろしければご覧ください。
「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(國井 良昌著 、日刊工業新聞社刊)
では皆さん、次の連載「甚さんの設計サバイバル大特訓」でまたお会いしましょう。
Profile
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。
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