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設計者がCAEを成功させる10の方法MONOistゼミ レポート(1)(1/3 ページ)

MONOist編集部は2009年6月29日に「MONOistゼミ 設計者と解析者をつなぐ 3D活用術」を開催しました。本記事ではキャドラボ 取締役 栗崎彰氏による基調講演の内容を紹介します。

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 MONOist編集部は2009年6月29日に「MONOistゼミ 設計者と解析者をつな

ぐ 3D活用術」を開催しました。月の終わりの月曜という日取りにもかかわらず、会場内の座席を埋めつくすほどの方々に参加いただきました。ありがとうございます。

 さて本ゼミでは、MONOist「メカ設計フォーラム」で、解析をするにあたり学ぶべき知識を楽しく分かりやすく解説してくださっているキャドラボ 取締役 栗崎彰氏が基調講演を行いました。本記事は、その講演を採録したものの一部を再構成したものです。当日参加できなかった方も、本記事で、皆さまの実際の業務にとって有意義な情報をお持ち帰りくださればと思います。

 かつて解析専任者としても活躍され、ソフトウェアベンダやハードウェアベンダでCADやCAEの開発、企業へのIT導入コンサルティングなどに長年にわたり従事してきた栗崎氏が、非常に分かりやすく優しい言葉で、設計者のCAE活用の厳しい現実について語ってくださいました。文末には、そんな設計者たちへの処方せんともいうべき「設計者がCAEを成功させる10の方法」も紹介していますので、ぜひご覧になってください。

原案から改良へ


キャドラボ 取締役 栗崎彰氏

栗崎:CAEというのは、いま世の中にたくさんあります。そして、CAEがなければスペースシャトルが飛ばなかったとさえいわれていますね。それだけ、モノづくりにとってCAEとは大切なツールであるといえます。

 皆さんもご承知のとおり、いま経済状況は非常に厳しいです。ただ私の訪問している会社さんたちは、CAEに関してだけは割合に予算が付くんですよ。それに、まだ浸透が足りない領域でもありますからね。

 さて、まずは建前から申し上げていきましょうか。

 これは実際の飛行機の部品です。「同等の材料コストだけど、26パーセントの強度アップをした」ということが書かれています。形はちょっと変えただけですが、それだけでも強度がガツンと上がったんですね。同等の強度を保つのだったら、材料を4分の1も減らせます。


原案から改良へ

 このように、「原案から改良へ」といちいち物を作って実験していれば、当然お金がたくさんかかります。ですからCAEである程度の部分まで解析してしまおうというのが最近の考え方になります。

 それから、CAEによって部品の強度アップをして、品質向上して、材料も削減して、実験数も削減し、それらがコスト削減にも寄与し、期間の短縮もし……すべてが組み合わさった結果として、製品を市場に出すタイミングを図れたり、競合他社対策も取れたりします。客先への対応も迅速に取れますね。

 つまり、CAEは製品戦略の1つというわけです。

 CAEだけではなく、ソリッドモデルそのものも非常に進化してきました。形状を仮想試作するだけではなく、性能もきちんと評価できます。実験をしないと分からない、実際に組み立ててみないと性能が分からないといわず、せっかく3次元CADで形状を作ったのだから、干渉チェックだけではなくて、CADやCAEを使ってきちんと製品性能の評価までをやってみるといいと思います。

設計者と解析専任者の本音

 私が日々訪れる会社さんの現場でも、さまざまな本音をうかがうことができます。

 1つは、解析専任者に解析を依頼すると、非常に時間がかかるということですね。ですから、何とか自力でやりたいと考えます。ベンダさん各社が簡単操作の解析ツールを作り、CADにも組み込んでいます。設計者が形状モデルを作ってしまえば、メッシュは自動的にかかりますし、その後に応力コンター図まで自動で出力できてしまいます。設計者がCAEを簡単に使える時代がやってきたのです。

 つまり、「設計者自身が解析(CAE)を行うことが劇的に増加している」ということになります。

 ところがここで問題が発生します。

 まずは、設計者の構造解析に関する知識です。私がやっている「解析工房」という講座の受講者(設計者)を対象にしたアンケートでは、材料力学に関する知識、有限要素法に関する知識が以下のような結果となりました。


設計者の構造解析に関する知識

*「仕事にちゃんと役立つ材料力学(1)」でもこの調査結果について紹介しています。

 材料力学は、バッチリ分かるという人が7パーセントだけ。あとの93パーセントは……ウロ覚えとか、習ったけれど忘れてしまったとか……。有限要素法にいたっては、しっかり分かっていないという人が100パーセント! いくら日本人が奥ゆかしいといったって、これはひどい数字ですよ。

 材料力学も分かっていないのに、どうやってものを設計するんでしょうか。ここまでくると、解析とは関係はあまりないというか、それ以前の問題ではないでしょうか。ものを設計したり作ったりする人は、有限要素法はまあしょうがないにしても、材料力学ぐらいは分かっていてほしいな、と思います。「ヤング率って何!?」「ポアソン比っどういうこと?」という人が、クルマを作っているということが本当にあるんです。私自身、これには非常にびっくりしました。

 こんなことをやっていると、当然、後から大変なことになりますよ。会社には大きな損害を与えてしまうこともあるし、作業の非効率も起こってきましょう。私はそうした問題を危惧しております次第です……。

 ここで、設計者サイドの問題を以下のようにまとめてみました。


設計サイドの問題点

 大学時代に材料力学を習った人も、すっかり忘れてしまいます。毎日毎日設計し、自分が出してしまった不具合の調査に追われていると、知識を習得する機会が得られづらくなってしまうのですね。

 それから、ヤング率など材料物性の資料も用意されていない。ですから、解析をするたびに調べ直すんですよね……。

 あと、

 「この応力を超えると壊れるかも。だからそれを超えないように設計してくださいね」

といった基準がありません。

 解析結果を設計に落とすための安全率の規定がないのです。

 そして、解析結果の精度確保の難しさに辟易(へきえき)します。何度か使ってみたけれど、ぜんぜん辻褄(つじつま)が合わない。そうはいいましても、精度を高めるための探求をしている時間もありません。

 多くの設計者が、上記のような問題を抱えてCAEを使っているというのが現実です。このほかにもいくつか問題はあるとは思いますが、まあこんなところでしょうか。

解析専任者のいい分と特質

 まず、この資料をご覧ください。 私は解析専任者だったこともありますから、この気持ちも非常に理解できるのですが……。


解析者サイドの問題点

 解析専任者は、つい専門的な方向に走りがちで、それが災いし、設計に役に立つ情報が提供できなくなってしまうことすらあります。解析技術そのものに凝ってしまうんですね。例えば「Nastranはソルバの王様だから、絶対なんだ!」「スーパーエレメントはどうだ!」とか、新しい技術や高度な技術を試してみたくなってしまうものなんです。かつて私もそうでした、「六面体要素以外信じられない」「板の中立面にこだわる」とか……。

 それと解析者は、自分たちが一生懸命培ってきた解析技術の信頼を「精度が悪いじゃないかー!」とか文句をいわれながら設計者にたたき壊されたくないという気持ちが強いのですね。簡単に解析に触ってほしくない、といいましょうか……。だからか、設計者へのCAE展開となると、消極的に考えてしまうのです。

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