Imagine Cupで世界を経験した若者たちは何を思う:Imagine Cup 2009 イベントレポート(4)(1/2 ページ)
カイロで行われたImagine Cup 2009世界大会がついに閉幕。上位チームの取り組みから日本チームに足りなかったものが見えてくる
――エジプト カイロ近郊にある町、ギザ(ギーザ)。ここには、世界遺産で知られる三大ピラミッドがそびえ立つ。誰もが一度は訪れてみたいと思うこの遺跡を一望できる、絢爛(けんらん)豪華なステージが砂漠の真ん中に建設されていた。そう、ここが「Imagine Cup 2009」世界大会の閉会式の会場である。
三大ピラミッドを背景に、Imagine Cup 2009世界大会が閉幕
2009年7月7日(現地時間)夕刻、世界中の学生たちと関係者を乗せた数十台のバスが、Imagine Cup 2009世界大会のメイン会場のあるカイロのホテルを出発。一路、閉会式が行われる特設ステージへと向かった……。
日もすっかり落ちたころ、特設ステージの後ろにライトアップされた三大ピラミッドが浮かび上がった。この幻想的な雰囲気の中、戦いを終えた学生たちは互いに声を掛けたり、写真を撮り合うなど交流を深めていた。今回で7回目を迎え、Imagine Cup参加者も数千人から数十万人規模にまで膨れ上がり、その勢いはとどまることを知らない。直接的なビジネスとしての見返りがないにもかかわらず、学生たちの可能性とITで世界を変えられるという信念のもと、無料で学生たちを世界大会に招待するマイクロソフトの取り組みはなかなかマネのできることではない。
組み込み世界1位発表―日本との温度差
前回お伝えしたとおり、@IT MONOist「組み込み開発」フォーラムが注目していた国立 東京工業高等専門学校チーム「CLFS」は、世界大会初戦の第1ラウンドで敗退してしまったため、残念ながらこのステージに立つことはできなかった……。しかし、彼らは世界予選を突破し、エジプトの切符を手に入れた時点で世界TOP20チームに選ばれている(注)。高専の学生たちの技術力が世界に認められたことは本当に偉業といってもよいだろう。反省点もあるだろうが、胸を張って今回の経験を次のチャレンジや新たなステージで生かしてほしい。なお、本稿の後半では、CLFSのインタビューを掲載している。
閉会式の中で、各部門のベスト3が発表された。組み込み開発部門で表彰台に上がったチームは以下のとおりだ。
順位 | チーム名 | 国名 |
---|---|---|
1位 | Wafree | 韓国 |
2位 | iSee | 中国 |
3位 | Intellectronics | ウクライナ |
表1 組み込み開発部門 TOP3 |
優勝した韓国チーム「Wafree」の強さの要因を挙げるとしたら“インパクト”“発想力”だろう。
彼らが提案したのは、ミレニアム開発目標の1つ『極度の貧困と飢餓の撲滅』を解決するソリューション。どうやって貧困と飢餓を撲滅するのかというと、栄養価の高い幼虫を食用として養殖するという非常にユニークなものだ。
閉会式が行われる数日前、組み込み開発部門のTOP6が発表された後の会見の場で、Wafreeのプレゼンテーションを主に担当していた申潤枝(シン ユンジ)さんは「まず、『食べ物とは何か』についていままでの概念にとらわれず検討を進めた。“虫を食べる”というと、多くの人は驚くが、韓国、日本、中国などでは実際に虫を食用として食べる文化がある」と話していた。また、「農地を作り、そこに住む人々に農作の方法を教育するという方法も考えられるが、これには莫大な費用が掛かる。また、地域によっては農作に適さない土地も多くある。そのような地域でも食料を生産する方法はないかと考えた結果、このソリューションが生まれた」と自信に満ちた表情で語っていたのが印象的だった。ちなみに、彼らは3年前からこのソリューションの取り組みを開始し、本大会に臨んだという。
また、各ラウンドで見せた彼らのプレゼンテーション能力の高さも他を寄せ付けない強さがあったように思う。申さんの流ちょうな英語と3年間の準備期間中に行ったリサーチ結果などをきちんと盛り込んだ資料。Q&Aでも動揺することなく笑顔を交えながら臨機応変に対応する姿などは、見ているこちらも引き付けられた。ちなみに、プレゼンテーションの終了間際には幼虫で作ったクッキーを審査員に配るというパフォーマンスを行い、普通であれば緊張感が漂う審査ルームを一気に和やかな雰囲気に変えたのも非常に印象的だった。
2、3位に入賞した中国、ウクライナのチームもプレゼンテーション力とデバイスの完成度の高さで注目を集めていたが、貧困・飢餓を“虫”を食べることで解決するという発想力には勝てなかったようだ。
本大会を振り返ってみると、世界大会常連国などはプレゼンテーションでわざとツッコミどころを用意し、そこに審査員の質問を誘導するようなテクニックを用いたり、英語が流ちょうな学生をプレゼンテーション要員として配置したりするなどの対策が行われていた。また、参加国の中には、政府、企業、教育機関などからかなり手厚いサポートを受けてImagine Cupに臨んでいるチームや、そもそも大学の授業の一環として、社会貢献を決められた一定期間行わなければ単位を与えないといった国もあり、意識の違いというか、日本との温度差というものも強く感じた。
ショーケースなどで各国のソリューションを見て回ったが、技術力という面では、日本が劣っていたということはない。また、プレゼンテーションのテクニックについても練習でカバーできる範囲といえるだろう。しかし、世界大会進出が決まってから本格的にサポートを行うような体制では、世界の壁というのも簡単には乗り越えられない。国や企業からのサポートという面では、日本でも国からの認可を得た産官学連携の取り組みが各分野で行われているものの、企業主体で行っているImagine Cupのような学生向けのコンテストに国が動く(サポートする)ということは簡単なことではない。
とはいえ、世界に目を向ければ現実に学生たちへの支援を柔軟に行っている国々がある。Imagine Cupという大会を通じて、人材育成のあり方というものについて考えさせられた。かつてモノ作り大国と呼ばれていたニッポンも本腰を入れて、将来のエンジニアを支援する施策や取り組みを行い、国をあげて世界に通用する人材を育てていかなければならない時期なのではないだろうか。
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