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始動するFlexRay次世代の制御系車載LAN規格が本格採用へ(2/4 ページ)

次世代の車載LAN規格として注目を集めてきたFlexRay。その本格採用が、間もなく始まろうとしている。同規格は欧州を中心として策定されてきたが、その最終仕様が2009年末までに発表される見込みだ。この最終仕様には、日本の自動車メーカーの意見も取り入れられており、2010年以降は、日米欧で FlexRayを採用した新車開発が本格化する。

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CANからFlexRayへの移行を目指す日欧の取り組み

 前節で述べたように、自動車業界では、CANからFlexRayへの移行(置き換え)を進めようという動きが加速している。ここでは、その背景にある事柄や、各種機関による具体的な取り組み内容について紹介する。


■欧州はスター型トポロジを採用

表2FlexRayとCANの仕様の比較
表2FlexRayとCANの仕様の比較 

 表2は、FlexRayとCANの主な仕様を比較したものである。一見してわかる大きな差として、FlexRayの最大通信速度は、CANの10倍となる10Mbpsとなっている。それ以外にも、CANを用いる場合より高度な機能を実現できるような仕様となっている。

 まず、通信方式は、CANが非同期のイベントトリガー方式であるのに対し、FlexRayは同期通信が可能なタイムトリガー方式を採用している。さらに、CANと同じ非同期の通信も同時に行えるようになっている。

 ネットワークトポロジについては、CANは1本のワイヤーハーネスに各ECUを接続するバス型で主に利用されている。これに対して、FlexRayは、バス型だけでなく、信号を中継するユニットを介して各ECUを接続するスター型、バス型とスター型を複合するハイブリッド型など自由なトポロジを選ぶことができる。また、物理層としては、電気信号以外に光信号を利用する場合の仕様も存在している。同規格の名称に使われている「Flex」が示すように、高い柔軟性(flexibility)を備えているのである。

 加えて、FlexRayは、CANよりも高い信頼性を確保できるようになっている。例えば、2つの基本チャンネルを備えることで、ネットワークを二重化し、冗長性を高めている。また、バスガーディアン(BG)により、通信スケジュールを監視し、不正な通信があった場合には通信を遮断することができる。同期通信を行う上で必要な、通信サイクルの同期タイミングを補正する機能も備えている。もともと、FlexRayは、FRCの設立時から、機械的な構造を利用せずに、完全な電子制御だけで操舵やブレーキの動作を実現するバイワイヤー(by wire)システムへの適用を想定したものであった。高い信頼性が特徴となっているのは、このためである。

 FRCにおけるFlexRayの仕様の策定も、2006年ごろまではバイワイヤーシステムで利用することを前提としていた。FlexRayは、CANと同様にバス型のトポロジを利用できることにはなっている。しかし、10Mbpsという通信速度で利用する場合、ネットワーク内における通信波の反射の影響により、実質的にはバス型を使用することはできない。実際、最大通信速度が1MbpsのCANも、反射の影響を抑えるために500kbpsまでの通信速度で利用されている。

図1バックボーンネットワークとしてのFlexRayの利用イメージ(提供:Bosch社)
図1 バックボーンネットワークとしてのFlexRayの利用イメージ(提供:Bosch社) CANやFlexRayのIP(Intellectual Property)を保有しているのが、FRCの主要メンバー企業でもあるRobert Bosch社である。Bosch社は、システム間を接続する主要な通信路となるバックボーンネットワークとして、FlexRayを利用することを推奨している。BMW社の新型「BMW 7シリーズ」でも、Bosch社の提案と同様にFlexRayをバックボーンネットワークとして利用している。

 2006年3月に発表されたBMW社のSUV(Sport Utility Vehicle)「BMW X5(以下、X5)」は、世界で初めてFlexRayを採用した量産車である。X5では、走行制御機能にかかわるセンターECUと各4輪のコーナーモジュールを接続するためにFlexRayを利用している。そのネットワーク構成にはスター型のトポロジを採用しており、ECUの接続ノード数は5個である。

 2008年7月に発表した新型の「BMW 7シリーズ」では、さらにFlexRayの採用規模が拡大している。そのFlexRayネットワークには、X5のような走行制御機能以外に、シャーシやパワートレインの制御にかかわるECUも接続されている。つまり、各システムを結ぶ車載ネットワークの背骨となる「バックボーンネットワーク」として利用されているのだ(図1)。FlexRayネットワークへの接続ノード数は13個で、そのネットワークトポロジは、診断系やインフォテインメント系のシステムとも相互に接続されている「セントラルゲートウエイECU」を中核とした、スター型とバス型のハイブリッドである。ドイツAudi社も、BMW 7シリーズと同様のFlexRayのバックボーンネットワークを採用した新型車を開発中である。

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